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【小説】アルカナの守り人(12) ヒカリ
「…一年前の、転移事故は覚えている?」
唐突な質問だ。
一年前の転移事故か…。確かに、大きなニュースになっていたな。どこかの転移ポイントで大爆発があり、何十人かが犠牲になった事故だ。自分には関係ない話だと真剣に聞いていなかったので、詳細はよく覚えていなかった。。フウタは非常に気まずかったが、ここは、正直にそう答えるしかない。
「そうよね。転移を利用しない人にとっては、あまり興味がないニュースだったかもしれないわね…。私たち家族はね。転移をよく利用していたの。仕事柄…、つまり、アルカナの能力は様々なエリアで必要だったから、それこそ毎週のように利用してたわ。私たち、アルカナの能力者には特別な身分証があってね、それを使うことで、好きなときに転移を利用できたの。半年前のあの日は、父と母、そしてヨウが転移をするためにそのポイントにいたわ…。そして…、爆発事故が起きた。」
「父と母は…即死だった。ヨウは、辛うじて一命を取り留めたわ。でも、二ヶ月眠り続けた。やっと普通の生活を送れるようになったのは、半年前のことよ。」
ヒカリは、眠ってるヨウに視線を向けた。暫し、ヨウの顔を見つめ、話を続ける。
「…ヨウはね、ついこの間、能力者の証である「あざ」が出たばかりだった。まだ、九歳になったばかりだったの。本来なら…能力を使わせたりしなかった! 身体が未完成のうちに能力を使うことは危険だと、不安定になると言われていたから。でも、父があんなことになって、ヨウは…、自分がやるんだって。自分しかやる人間はいないって。「太陽」のアルカナ能力を、解放して…、父の代わりに…使命を…。」
ヒカリはそこまで言って、言葉に詰まった。堪えきれなくなった大粒の涙が頬を伝って流れていく。とても美しい、澄んだ涙。ヒカリは、声を出さず、静かに泣いた。突然に両親を亡くし、幼い弟は、無理をしてでも使命を果たそうとし、それを止めることもできず、どれだけの心労を抱え続けていたのだろうか。
こんな時に、気の利いた台詞の一つや二つ言えればいいのだが。
残念だから、そんな器用な人間ではないんだよな、俺は…。
ただ、ヒカリの頭にそっと手を載せる。
「…大丈夫だ。もう、心配するな。俺がいるだろ?」
フウタは精一杯、明るい声音でそう告げた。何の根拠もない自信。でも、人生何とかなると信じてさえいれば、うまくいく!というのが、フウタのモットーである。今回も迷いなく、そう信じていた。
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