【小説】アルカナの守り人(15) ヒカリ
「あ、あのさ。気になってたことがあるんだ。ヒカリは、星のアルカナ能力者だろ? 能力は「癒し」だって言ってたよな? その力でヨウを癒すことはできないのか?」
「それは…。」
ヒカリは、残念そうに頭を左右に振った。
ヒカリの説明によると、太陽のアルカナは能力の中でも上位になるらしい。星の能力は別系統であるものの、能力的には太陽の下位になり、影響を与えることは難しいのだという。
「えっと、そもそもだけど。どうやって、アルカナの能力使うんだ? 人類に癒しってどうやってやるの?」
肝心で要の部分を、全く聞いていなかったことに今更気づく。ヒカリもぽかんと口を開けて、暫し、時が止まった。
「本当に、今更ね。」
ヒカリはくすくす笑った。
最初からフウタには見せるつもりだった。依頼を受けてもらうには、予め、能力を見てもらう必要があると思っていたからだ。
それなのに、この人ったら、全く興味を示さないんだもの。話一つで、全て信じて、依頼を受けてしまうんだからね。
「何だよ。そんなに笑うなって。…で、見せてくれるのか?」
ヒカリは、こくんと頷く。いつもは夜にやっているのだけど…と前置きしながら、部屋の中央に移動した。
胸元からシルバーで装飾されたカードを取り出す。
その表には、美しい絵が描かれている。一際大きな星が一つ、その周りに七つの星々。それらの元には、神聖な泉の中に、片足を入れた若い裸体の女性。左右の手には、水が満たされた瓶をもち、一方は泉へ、もう一方は大地へと注いでいる。
ヒカリが、そのカードにそっと息を吹きかけると、まるで目を覚ましたように、エネルギーの圧を発した。不思議なオーラを纏いながら輝いている。ヒカリは、そのカードを頭上に掲げるように腕を真っ直ぐに伸ばす。
そして、静かに言葉を紡ぐ。
〈天空のささやき…〉 〈導きのステラ…〉
言葉を紡ぐ度、ヒカリの足元に、輝く円状の紋様が浮かび上がる。精巧な細工が施されたような紋様は玉虫色のように都度、絶妙に色を変えていく。
〈カタルシスの涙は…〉
紋様は少しずつ重なるように現れ、一つ一つがゆっくりと回転しながら、ヒカリを囲むように上方へと光を放ち始める。いくつもの光が柱のように立ち上り、初めは淡く、だんだんと濃く、強くはっきりと輝き出した。
〈神聖なる泉へと還る…〉
すでに、直視するには厳しい程の輝きに包まれているヒカリ。
〈エト エフルダム ルクス サニタセスト!〉
そして、ヒカリが最後の呪文を唱えた瞬間、辺りは一瞬にして真っ白の世界になった。フウタは、眩しさにクラっと目眩がして、思わず、強く目を瞑る。しかし同時に、まぶたの奥では、暗闇の気配を感じていた。フウタは一呼吸置くと、力を抜いてそっと目を開く。そして、頭上を見上げた瞬間、…完全に固まった。そこに繰り広げられた光景にすっかり心を奪われたのだ。
漆黒の暗闇の中、手を伸ばせば届きそうな位置で、無数の星々が囁き合っている。大きさも様々、色も形も輝きも、ありとあらゆる星々の優しげな声が聴こえてくる。そして、その囁きが一斉に降り注いでくるのだ。フウタは、ぽかんと口を大きく開けながら、ただただ、その星々の囁きのシャワーを浴び続けた。身体の内側から込み上げてくるものがある。わけも無く、涙が流れる。
胸の真ん中が、幸福感で満たされたような、大丈夫だという安心感を得たような、不思議な感覚に包まれていた。
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