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「ホテル×クリエイティブ×テックでホテルの総合商社化を目指す」 株式会社水星の3つの事業戦略|水星 ボードメンバー座談会Vol.2

ホテル事業部、プロデュース事業部、プラットフォーム事業部(CHILLNN)3つの事業を軸に、観光、ライフスタイルの領域で挑戦を続ける株式会社水星。

今回は、水星代表取締役CEO龍崎、COO兼プロデュース事業部責任者大籠、CHILLNN代表取締役CEO永田の3名のボードメンバーをゲストに迎え、「ホテル」と「クリエイティブ」と「テック」異なる強み持つ水星ならではの事業戦略と、お互いのシナジー、今後の展望について、ざっくばらんに語り合うボードメンバー座談会をお届けします。

Vol.2では、プラットフォーム事業部(CHILLNN)の新しい挑戦、宿のオーナーとゲストのためのプラットフォーム構想のお話を起点に、ホテルのブランド戦略について話します。

Vol.1の記事をまだご覧になっていない方は、ぜひこちらから。


持続可能なホテルブランドをつくるための戦略

ーCHILLNNでは現在、新しいプラットフォームの構築を検討していると聞きました。改めて、具体的な内容や挑戦に至る背景について教えてください。

永田 CHILLNNでは、「宿泊マーケットのルールを変えて、「狂ったホテル」を増やす」をミッションとして、ユニークな宿のオーナーとこだわりを持ってホテル選びをしたいゲストのための新しいプラットフォームをつくりたいと考えています。

背景にある課題意識として、時代の空気感を織り込んだホテルや、コンセプトが尖っているホテルが、オープンから数年経つと集客が難しくなってきているという課題があります。そうしたホテルに需要がないのかというとそんなことはなくて、トレンドを求めていたいわゆるアーリーアダプター層の関心が別に移っただけで、異なる層にアプローチをしたら新しいファンを獲得できると考えています。

ぼくらが、プラットフォームとしてやらなくてはならないのは、時代の空気感を織り込んだホテルやコンセプトが尖っているホテルを単なる短期的な流行りで終わらせずに、いかにブランド化していくかということです。つくり手がちゃんとこだわりをもって本質的な価値をつくるということにコミットしていたら、ちゃんと継続して新規顧客の集客ができて、ホテルを運営し続けられる状態をつくるというのがぼくらが目指していることです。

大籠 ホテル運営の持続可能性、ブランドの賞味期限の話は、水星がホテルを企画、開発、運営する上で、重要なテーマですよね。企画段階でいかに深いコンセプトをつくるか、そこから一貫性を持って、ハードの空間やソフトのオペレーション、ホスピタリティーなどに落とし込むことができるかなど、様々な要素が絡んでくる問題で、いつもめっちゃ難しいなと頭を悩ませながら取り組んでいます。

永田 この状況の背景には、SNSマーケティングがホテル業界でも一般化してレッドオーシャンになっているという点があると思います。ぼくはホテルのような大きな初期投資を必要とするサービスは本質的にはSNSマーケティングと相性が悪いと思っています。

もちろん、初期の段階で、情報を拡散して認知を獲得するための手段としては有効だと思うのですが、タイムラインの話題の中心が次々と移り変わる中で、SNSマーケティングのみでは、継続して新規顧客を獲得し続けるのは難しい。なので、最初は、SNSマーケティング、その後は、ファンの方とのリレーションを深めたり、プラットフォーム中心の集客に以降するなど別のマーケティング方法を考える必要があると思います。

ー確かにSNSは一気に認知を拡大するのには役立ちそうですが、反面、ブランドのコモディティー化を加速させる側面もある気がします。

ブランドを熟成させる段階で重要なのは「語りきれないもの」

龍崎 ホテルブランドにおいては、結局圧倒的なプロダクトをつくるということが本質だと思っています。圧倒的な空間、体験をつくって、それがナラティブで広がるべきところに広まっていくことが理想ではないかと。なので、情報を拡散する際のポイントとしては、「語りやすい」サービス、体験をつくることであると言っているのですが、同時に、SNSの一次的な流行として消費されないために「語りきれないもの」をどのように設計するかも重要になっていると考えています。ホテルは装置産業なので、空間(ハード)を改修するのは大きなハードルがありますが、体験(ソフト)を磨き込むことで、ブランド価値を高めることはできると考えています。

ーホテルにおいて圧倒的なプロダクトをつくるために必要な条件には、例えばどんなものがあるのでしょうか?

龍崎 認知を獲得する段階と、熟成させる段階、2つの段階を考える必要があると思います。初期の段階では、前例がない体験、思わず人に伝えたくなる体験があることや、時代の空気感、トレンドを掴んでいることが重要になります。その後の段階においては、その場所でしか得られない本質的な価値ある体験が重要になると考えています。

水星でホテルを企画する際には、よく「土地の空気感を織り込んだ体験をつくる」と言っていますが、その土地になる目に見えない、簡単に言語化できない空気感のようなものが、宿泊体験としてゲストの中に落ちてくるような感覚をイメージしています。

ー言語的、視覚的な要素と、非言語的、非視覚的な要素のバランスを意識しながら、体験をつくることで、サスティナブルなブランドができると。

龍崎 そうですね。言語的、視覚的な要素については、SNSマーケティングの浸透によって、多くの人が意識をしていることだと思うのですが、非言語的、非視覚的な要素の重要性については、あまり語られていない気がします。

私は、「空間は感情を記憶する」と思っていて。その場で生まれた良い体験や感動、温かい感情の蓄積がその空間の空気感をつくると考えています。そうしたポジティブな感情を生み出すのは、スタッフとゲストの信頼関係であり、愛です。そうした要素をすべてをふくめて、唯一無二のホテルブランドが作られていくのではないかと思います。

水星のホテルの強みはブランドのディレクターがオペレーターでもあること

永田 なるほど。そう考えると、水星が運営するホテルの強みは、ブランドのディレクターがオペレーターでもあるという点にあると考えることができそうです。

ー確かにサービスのつくる人と届ける人が価値観を共有しているというのは、ホテルのブランドづくりにおいて重要なポイントだと思いました。

龍崎 実際にその通りだと思います。HOTEL SHE,OSAKAのオープンやSHE,KYOTOのリニューアル後の2017年~19年頃に大きく話題となって支持を集めていたのは、時代の最先端のホテルのクリエイティブをつくっているのが、コンサルや制作会社の人ではなく、実際に現場で働いているメンバーだったという点だと思います。

コロナ禍の最中は外的環境や消費嗜好が大きく変化していたので、一次的に方向性を見失っていた時期もありましたが、その後、また現在のマネジメント体制になる中で、支配人やスタッフなど現場を支えるメンバーのカラーが宿泊体験やイベントに活かされていて、また新しいHOTEL SHE,ブランドとして受け入れられていると感じています。なので、クリエイティブとオペレーションの一致というのは、ホテルブランドを運営する上で重要な要素であると言えます。

ープロデュース事業部では、ホテルの企画・開発から、ライフスタイル領域のブランドプロデュースまで、幅広いプロジェクトを手掛けていますが、様々なプロジェクトを進行していく上で、戦略としてどんな点を意識しているのでしょうか。

大籠 ぼくたちは、ホテルプロデュースカンパニーで、ホテルコンサルではないというのが重要なポイントだと思います。部分的に、リブランディングやプロモーションのお手伝いをするということもありますが、基本的には、新しいホテルブランドをいちからつくることを中心にやっていきたいと考えています。その上で、やはり自社でホテルを運営しているというのは大きな強みなので、ホテル事業部との連携を強化して、その強みを最大限活かしていきたいと思います。

様々なホテルの事例を見ている中で、作り手やオーナーの思いがちゃんと空間などのハードや、現場のスタッフの接客などのソフトにまで落とし込まれているいると、この空間やブランドが好きという人が働き手として集まり、思いのある空間、体験になるという好循環が生まれると思うのですが、それができていなくて、当初のコンセプトと現場のオペレーションがちぐはぐなままという課題を抱えているホテルもたくさんあると感じています。

龍崎 コンセプト、ブランドをチーム全体に浸透させる上で、現場で働くスタッフに「設定」を付与するというのは重要なポイントだと思っています。

例えば、私たちの運営する香林居のスタッフの場合、社員は全員移住者で、みんな個性的でキャラクターはバラバラですが、香林居のスタッフとして接客する際には、ちゃんとブランドを体現した存在になっています。それは、一人ひとりの意識や心がけによるものもありますが、ここで働く人が「桃源郷の住人」であり、「村に迷い込んだ客人を暖かくもてなしている」という設定があり、その設定の中で接客をしているからです。そうした設定を考える過程で、どれだけ深いコンセプトを持たせることができるか、その世界観を空間として実装することができるか、ひいては組織で働く人の設定をいかにデザインするかはホテルブランドをつくる上で重要なポイントです。

大籠 コンサルや広告代理店の場合、コンセプトや戦略を描いて終わりということもあると思うのですが、ぼくたちの場合は、実際の運営を見据えた上で、中長期的に事業性を担保しながらホテルブランドとして価値が発揮できるように、ソフト面とハード面を一気通貫でプロデュースしきるという点が他社にない強みかもしれません。

龍崎 ブランドがつくられていく過程において、やはり「語りしろ」って重要な要素だと思います。働いている人が、「この土地にはこんな歴史があって~」「このホテルはこういう思いでつくられていて~」と語ること。スタッフからゲストへ、スタッフからスタッフへの語り継いでいくことがブランドの成熟に繋がっていくのではないかと。


ライフスタイルホテル、ブティックホテルと呼ばれるような個性のあるホテルが増え、市場が豊かになる一方で、SNS上の話題を奪い合い短いスパンでトレンドが移り変わるなど競争は激しさを増しています。Vol.2では、全国の旅の目的地となるホテル向けにサービスを提供しているCHILLNNならではの視点から、持続可能なホテルのブランド戦略についてのお話をしました。

続いて、Vol.3では、ホテル事業部、プロデュース事業部、CHILLNNそれぞれの視点から 考えるホテルのブランド戦略について3人の議論をお届け致します。


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