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ESSAY|作品エッセイ

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モーヴ街で作られるアート・モード作品を通して世界を冒険するためのエッセイをご覧ください。
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2024年10月の記事一覧

ニコラス・カルペパーの窓|くるはらきみ《1》|Botanical Fantasia

 人類の歴史は、植物利用の歴史でした。  食用利用は言うに及ばず、ヒトは植物で建物を作り、楽器を作り、紙を作り、船を作ったのでした。  今日でもボタニカル柄がスタンダードな模様であるのは、植物の効能と、そこに感じられる謎への畏敬の感情に由来するのかもしれません。  人が植物を描くとき、そこには、植物への感情が少なからず反映されることでしょう。  くるはらきみ「My Dearest」には、画家ヤン・ファン・エイクの代表作を思わせる構図のもと、部屋の中でハーブに囲まれる男女が描

ニコラス・カルペパーの窓|くるはらきみ《2》|「夜」の属性

 文化を広く見渡すと、物事にはいくつかの基本的な属性があることに気が付きます。  そのひとつに「夜」の属性があります。  深い思索、記憶との対話といった話題が語られる時、夜と結びつけられやすいのは、日が沈んだ後の時間にそれらが始まりやすいという経験からでしょう。  くるはらきみ「メランコリーシスル」では、夜空の下に立つ女性が、周りのアザミの花と同じ幻惑的な色のドレスを見に纏い、スカート部には夜空から摘み取ったように星々が輝いています。  メランコリーシスルはスコットラン

ニコラス・カルペパーの窓|ruff|手の中で風の時代が始まる

 所有──それは、世界が放つ光を手のひらに受けて掴み、世界の陰で手を開き、自らの世界を創り出し、そこに自らを棲まわせるための技法だ。  19世紀の終わり頃から20世紀前半まで、主に欧米の煙草のパッケージに宣伝用のカードが封入されることがあった。こうしたシガレットカードはコレクションの対象となった。  そしてカードとは、古代から、宇宙を断片的に所有するための道具だった。  このたび発表されたruffのイラストシリーズは、ruff(シガレットカード)×川野芽生(掌篇)×Du Ve