瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第九回 書店巡りの強い味方
敏腕営業のフリ作戦!
書店巡り。昨年の9月下旬には、大阪、兵庫へと向かいました。
実はこの書店訪問から、私、夏川草介さんの『スピノザの診察室』のプルーフ(書店さん配布用の見本)をお配りしてたんです。
夏川草介さんの刊行に向けてのお言葉を読んで胸を打たれ、人の生き死にを前にした人しか書けないものって絶対あるし、それをここまで穏やかに真摯に見つめてる人っているだろうか。
と感動し、水鈴社の社長(あのダジャレの人)に無理を言って宣伝させていただくことにしました。
私が書店に行ったところで、中年女性が現るですけど、夏川さんのプルーフさえあれば喜ばれるやろうなというずるがしこい考えが一番ですけど。
まさか夏川さんにばれると思わず、機嫌よく配っていたんですが、最終的に知られてしまい(恐ろしいことにダジャレ社長が漏らしたようです。おとなしくダジャレだけおっしゃっていればいいものを)、夏川さんから直筆のお手紙とリンゴジュースをいただくことに。
夏川さん、なんていい人。
ジュースはおいしいし、手紙は家宝にしました。
あ、夏川さん、私ママ友にも夏川さんの本紹介しまくってます。
『スピノザの診察室』に感動して、夏川さんのほかの本も買いましたとママ友に言ってもらいました。
またリンゴジュース下さい。
さて。
大阪からは強い味方、夏川草介さんのプルーフをひっさげ、書店に向かいました。
以前お邪魔したことがあったり、普段から応援してくださっていたりの書店さんもあり、喜んでいただけるお店も多く、サイン本も作らせていただきました。
もちろん、「瀬尾……? えっと、ちょっとわからないです」というご反応の書店さんも。
そりゃそうでしょう。
私なんて知らなくて当然です。
でも、私には強い味方があるんです。
「瀬尾……、えっと、どちらのですか?」と問われ、「あの、作家の……」と名乗っておきつつ、これはわかってもらえないなと察知した途端、突如、「こちら、今度水鈴社から出る夏川さんの渾身の1冊なんです」と営業の顔になり、夏川さんのプルーフを差し出す私。
図々しくやってきた迷惑な無名作家と思われそうになるところを、営業のふりをして乗り切りました。
この後、各地の書店さんでこの作戦を使用したので、私のこと敏腕営業だと思われてる方、多いはず……。
って、忙しい書店さんに、連絡もせず訪れるって全然敏腕ちゃうか。
営業のノウハウ、がさつ協会CEOのカルカン先輩のもとで学んだんで、すみません。
兵庫・京都 大満喫
兵庫は西宮や三宮などを回りました。
西宮と三宮の書店さんに伺うのは初めてでしたが、本当いい町ですよね。
風が心地よく気持ちよかったです。
ただ、ついでに観光をと、書店巡りを終えた後、中華街に行ったのですが、有名なお店で肉まん食べようと思ったらオーダーストップで、それじゃ小籠包だと次の店に向かったらちょうど目前でクローズの札を出されました。
変な作家がうろついてると、神戸中の店に噂が回ってしまったんでしょうか?
肉まんのお店で無理にサイン書いたりはしないのに。ショック。
そんなことはどうでもよくて、書店さんの話。
西宮ではちょうどリニューアルオープンのお店に行けてくじ引きひかせてもらえたり、シールを娘に下さるお店があったり、三宮ではいつもご感想をくださる方にお会いできたり、楽しかったです。
別の日、京都にも行きました!
京都の町、人も多くて新しい建物も増え、迷いまくりでした。
京都に来たからにはおいしいものをと、書店さんで食べたかったわらび餅のお店を教えていただき、無事たどり着けました。
ありがとうございます。
次回お邪魔した際は、書店さん内にあるハヤシライスをいただきます!
京都には雑貨に力を入れている書店さんが多く、可愛いものだらけで同行した娘が長居してしまうのが厄介でした。
「それではまたよろしくお願いします」と挨拶が終わってるのに、ずっとお店から出ない我々一行。
店員さんもちらちら気になりますよね。
お気を遣わせてすみません。
緊張してうまく話せなくてすみません
大阪でも神戸でも京都でも、何より書店員さんといろいろお話しできたのがうれしかったです。
万引き犯について熱く語ったり(ほんまあいつら許せないですよね)、ちいかわに娘より詳しい店員さんがいて娘と盛り上がってくださったり、お店の歴史をお聞きしたり、知らないことを知ることができるのはわくわくします。
すごくたまに、「瀬尾さん?! うわー」と喜んでくださる方がいらっしゃるんですけど、私こそ、「うわー」です。
この人があの感想書いてくださってた人だって思ってるんですよね。
でも、緊張してうまく話せなくて。
「あの本にくださった感想、うれしかったです」とか「こういう風に読まれてたんですね」とか言いたいのに、いつもうまく言えずです。
緊張? あんた、めっちゃしゃべってたやん。と思われた方多いと思います。
私、緊張するとどうでもいいことをしゃべってしまうんです。
そして、仕事中にご迷惑だなという焦りで、早口になるんです。
とにもかくにも、突然お邪魔したのにもかかわらず、対応してくださった皆様、本当にありがとうございました。
感謝でいっぱいです。
瀬尾まいこ(せお・まいこ)
一九七四年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒。二〇〇一年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。二〇〇五年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、二〇〇八年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、二〇一九年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞した。他の作品に『図書館の神様』『強運の持ち主』『優しい音楽』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『君が夏を走らせる』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『私たちの世代は』など多数。