瀬尾まいこ『そんなときは書店にどうぞ』|第三回 その神輿、次は私が担ぎたい
いざ、本屋大賞授賞式へ
2019年4月。
本屋大賞の授賞式が行われました。
さて。
授賞式の1日。
裏側はどうだったかと言うと……。
まず、田舎者の私は前日の夜遅く東京に乗り込みました。
東京のホテルに到着し、フロントで名前を言うと、「こちら。Sさん(敏腕編集者)から」とおっしゃれーな紙袋がわたされるではないですか。
こんな場面、一昔前のドラマでしか見たことないわ。
部屋に入って、すぐさま開けると、中身は超高級チョコレートでした。
Sさん、私のこと狙ってるのかも。
夫と子どもがいるって言うとかないとと焦りました。
そして翌朝、指定された場所に向かうと、さっそくメイク。
そして、ことあるごとにメイク。
本屋大賞となるとメイクさんの気合いも入るんやなって、帰ってから前年度の辻村さんの画像見たら、そんな化粧しておられませんでした。
素材の問題だったんですね。
昼ごはんに、敏腕編集者Sさんが「瀬尾さん、鰻食べに行きましょう」と言ってくださったのですが(緊張してる時、鰻食べる? 喉通らへんわ。というか、私、鰻なんて土用の丑の日にしか食べへんけどな)「いや、そこはうどんにしてください」と昼食を済ませ、いざ授賞式会場へ。
授賞式は明治記念館で行われたのですが、歴史のあるすごい建物。
荘厳さと華やかさどちらもが漂っていて、中に入れただけで満足でした。
気弱な私は、慣れない場所と空気に、「はい」「はい」「その通りです」と言っていただけですが、あちこちで写真撮りたかったなあ……。
だけど、敏腕編集者Sさんが、「景色見に行きましょう」と庭に連れ出してくれたのはうれしかったです。
私の気持ちが少しでも休まるようにと広い場所に連れて行ってくださったんだろうとお心遣いに感謝し、新鮮な空気を体中に吸い込みました。
あ、でもこの時もSさん、「もし式中、しんどくなったら、ぼくが飛んで行きますね」とかっこつけてはったわ。
夫と子どもがいるだけでは伝わらなかったんか。
離婚する気はないともっときっぱり言わないとあかんかったんやな。
授賞式直前、前年度受賞者の辻村深月さんにご挨拶したんですけど、本当かわいく素敵な方でやさしいだけでなく辻村さんならではの雰囲気があふれていました。
独特というのではない自然と周りになじむ個性があって、存在そのものが素敵でした。
辻村さん、おしゃれでもありますよね。
ちなみ私は洋服屋さんで、「結婚式の二次会みたいなものに行きます。でも、あの人、めっちゃはりきっているなと思われない程度のおしゃれな服をください」と言って、店員さんに選んでもらった服で参りました。
変な格好だったとしたら、大阪の洋服屋さんのせいです。
さあ、いざ、授賞式。
ばっちりメイクを施し、緊張真っ盛りで授賞式のステージに立ちましたが、顔をあげたとたん、緊張は瞬時に消えふつふつと感動が湧いてきました。
バトンちゃん(『そして、バトンは渡された』の表紙に書かれた女の子)が描かれたうちわを振ってくださる書店員さん、お会いしたことのある書店員さんの優しい顔。
「まなざし」ってこういうことをいうんだと思いました。
私、たぶん書店員さんより年上か(こう見えて28歳なんですよ~)、同年代だと思うんですけど、皆さんの目、あたたかな子どもを見守る視線だったんですよね。
私、子ども時代にあんまり思い出がなくて、22歳からが人生の本番だと思っているのですが、この時の温かい空気に、(もちろん、私ではなく「本」に愛情を注いでくださっているのですが)そのお気持ちに、空っぽだった自分の子ども時代に暖かな花をあげられた気持ちになりました。
あの場で立ってみなさんに見守っていただけたことが、一番の貴重な経験でした。
本当にありがとうございました。
私を私の作品を幸せにしてあげられたなと、皆さんのおかげで思えました。
それにしても、本屋大賞、全部手作りでありながらも、きらびやかで一歩一歩ここまで築き上げて来られたのが伝わるすばらしい授賞式でした。
当日、本屋大賞を運営されている方に、私の緊張が目に余ったのか、「これはお祭りなんで、瀬尾さんは神輿に乗っておいてくださればいいんです」と言われました。
本当最高のお祭りですね。
本屋大賞をいただいた後、私の中に広がる思いは、書店員さんにこそ大賞作りたいわ。
本売ってくださるの書店員さんなのにということです。
今度は私に神輿を担がせてください。
五十肩(28歳なのに)で左腕あがりませんけど。
お店の前で「いらっしゃい!」と呼び込みとかさせていただきたいですし、半日、いや2時間書店員とか(体力も根性もないんで)、書店の裏で段ボールの開封とか、なんでもやる気まんまんです。
伺う書店さんで「何かやらしてください!」とたまに言うんですけど、未だに段ボールの開封すらさせてもらえません。
よっぽど不器用に見えるのかしら。
いつでも神輿担ぎます
2023年。
本屋大賞も20周年を迎えられました。
おめでとうございます。
おどろいたことに、2023年の授賞式前日、カルカン先輩からメールが来ました。
明日、会場にはまいりますが、私は忙しくて挨拶できるかわかりません。
とにかく瀬尾さんにお会いできるの楽しみです。と。
え?
私、ノミネートすらされてませんけど……。
カルカン先輩もしかして私が大賞だと思われてる?!
いや、そこまで頓珍漢な方じゃないか。
カルカン先輩の中ではいつでも私が大賞なんですね。
と返信しましたが、よく考えたら、最初にお会いした時、「ぼくは姫野カオルコさんの作品が好きなんですよねー」ってカルカン先輩、私の作品じゃない本の感想言うてはったわ。
というわけで、私いつでも神輿担ぎにまいります!
たぶん、カルカン先輩も一緒に。
書店員さんと何か楽しいことご一緒にできたら、最高です。
瀬尾まいこ(せお・まいこ)
一九七四年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒。二〇〇一年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。二〇〇五年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、二〇〇八年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、二〇一九年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞した。他の作品に『図書館の神様』『強運の持ち主』『優しい音楽』『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『君が夏を走らせる』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『私たちの世代は』など多数。