人生を導く偶然の一致 シンクロデスティニー
ユング心理学には「コンステレーション」という奇妙な言葉があります。
もともとの英語の意味は「星座」なのですが、ユング本人は「患者のコンプレックスがコンステレートしている」というような使い方をしていましたので、明らかに「星の話」ではないことが分かりますね。
日本では、ユング心理学研究で有名な心理療法家の河合隼雄先生がコンステレーションという言葉をよく使っておられましたが、最近では、生前の河合隼雄先生と親交があった田坂広志さん(多摩川大学名誉教授)が自身の著書の中でこの言葉を頻繁に使用していて、私は田坂さんの本からこの言葉の存在を知りました。
河合隼雄先生の説明によると、コンステレーションとは、一見バラバラに見える夜空の星々が、線でつないで見ると一つの「星座」として意味を持ち始めるのと同じように、一見偶然に発生したように見える出来事も、人生全体を俯瞰して見ると「何らかの重大な意味を持つ場合がある」ということを指すのだそうです。
コンステレーションは日本の心理学書では「布置」と翻訳されていますが、個人的には「天啓」という言葉にしたほうがユングの意図に近い気がします。
例えば、子供の頃に左手に大やけどをした野口英世が、その時の辛い体験をきっかけに医者を目指した・・・みたいなのがコンステレーションに当たると思います。やけどをしなければ、極貧生活を送っていた彼が医者を目指すことはなかったはずですから、その経験はまさに「天啓」と呼ぶにふさわしい出来事だったと言えるでしょう。
まぁ・・・いきなり歴史上の偉人を例に挙げても「一般人の私には関係ない」と思われそうなので、コンステレーションの実例として私自身の話をさせてください。
2017年、東日本大震災からの復興をテーマに宮城県石巻市で始まった「リボーンアートフェスティバル」という芸術祭と私とのかかわりがストーリーとして分かりやすいと思います。
リボーンは、音楽プロデューサーの小林武史さんが発起人となって始まった総合芸術祭で、2017年の第一回開催の時は、野外音楽イベントの「ap bank fes」とコラボした影響で、ミスチルの桜井和寿さんや、水曜日のカンパネラ、スガシカオ、 Salyu、JUJUなどの豪華メンバーが石巻を訪れてミニイベントを開催してくれたこともあり、祭り期間中は大いに盛り上がりました。
美術の展示作品の中には、あの伝説の占星術師「ルドルフ・シュタイナーの黒板画」もありましたから、私個人としても最高に楽しい一カ月半だったんですよ。シュタイナーは教育者として世界的に有名な人物ですが、「農業占星術」という専門分野を開拓した占星術界のパイオニアでもあるんですね。
私自身は美術知識を持たない全くの「ド素人」なのですが、妻が「無類のアート好き」だった関係で、アートフェスティバルの展示会場の一つになっている「キワマリ荘」というアートギャラリーに芸術祭の期間中、頻繁に出入りするようになっていました。
キワマリ荘のメンバーの方々と初めて会った時、私が「スミマセン、占星術師という怪しい商売をしています」と遠慮がちに自己紹介すると、リーダー格の方から「大丈夫ですよ、我々のほうがもっと怪しい仕事をしていますから」と笑顔で返され、それ以来すっかり親しくなってしまったんです(笑)。
そんな他愛のないやり取りがきっかけとなり、アートフェスティバル終了後も、月に何度かキワマリ荘に顔を出すようになっていたのですが、そんなある日、所属アーティストのひとりから「今、隣の建物で心理学の体験会をやっているらしいよ」と聞かされたのです。
実際、キワマリ荘の隣にある電気屋さんの二階で、ヒプノセラピストの宮本直樹先生が月に一度「ヒプノセラピー体験教室」を開催していたんですね。しかも「参加費500円」という格安料金で!(彼のオフィスがある東京だったら1万円は取られるような本格的な講座内容です)。
宮本先生は東日本大震災発生後、各地の避難所や仮設住宅を回って被災者を対象とした「ボランティア・ヒプノセラピー」をやっていた方なのですが、震災から6年以上が経過し、仮設住宅が次々と閉鎖される中で、旧知の仲だった電気屋さんを頼り、そこの2階に会場を移して「被災者向けのセラピー体験会」を続けていたのだそうです。
その場所がたまたま「キワマリ荘の隣だった」というわけですから、すごい偶然ですね(笑)。
最初に聞いた時「なんか怪しい話だな~」と思いながらも、興味本位で様子を見に行ったのですが、実際にお会いして見ると、そのセラピストの先生は物腰の柔らかい非常に理知的な方で、すぐに意気投合してしまいました。いわゆる「脳内がお花畑のスピリチュアル系の人」とは全く違う「心理学の専門家タイプ」の方だったんですね。
これが今でも続く宮本先生との「交流の始まり」となりましたし、私が「輪廻転生」に本格的に興味を持つきっかけにもなったんです。前回の記事の中で「前世の自分だと思われる人物」について詳しく考察しましたが、宮本先生との出会いがなければ、「その人物の存在」に気がつくことすらなかったでしょう。まさにこの出会いは私にとって「コンステレーション的な出来事」だったんです。
そもそも、妻と結婚していなければ、美術に興味のない私が「アートギャラリー」に出入りすることなんて絶対になかったでしょうし、たまたまギャラリーに遊びに行った当日に、すぐ隣の建物で宮本先生がセラピー体験会を開催していたのも「奇跡的な偶然」としか言いようがありません。
しかし、人生全体を俯瞰して見た時、そのような「いくつもの偶然の積み重ね」が、今の私の人生観を形成する重要な事件だったことが分かるのです。まるで何かに導かれるように、私は「そこ」に行ったんですね。
実は、宮本先生の個人セッションを何度か受けてから妻の生理不順が劇的に良くなり、2020年、結婚10年目にして「妊娠する」という奇跡も起きました。その妊娠期間中も「妊活ヒプノセラピー」という本を宮本先生から貸していただき、何かとお世話になりましたから、もう先生に足を向けては寝られませんね(笑)。
実は仏教にもコンステレーションと似たような意味合いの「諸法無我(しょうほうむが)」という言葉があります。諸法無我は仏教の説く「3つの真理(三法印)」の一つであり、仏教の根幹を成す非常に重要な思想です。
「世の中のすべてのものごとはつながりあっていて、個として独立しているものは一つもない」という意味ですが、もっと分かりやすい日本語でズバッと表現するならば「すべてはご縁で成り立っている」ということを表します。
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