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あなたはもう救われている 世界を書き変えたタイムトラベル

「近年、タイムリープをテーマにしたドラマや映画がやたらと増えている」というネットニュースの記事を読みました。

タイムリープとはそのまま直訳すると「時間跳躍」という意味で、1967年に発表された筒井康隆原作「時をかける少女」という小説の中で初めて登場した和製英語なんだそうですが、それ以降の他の作品の中でも世界共通語として普通に使われていますから、みなさんも言葉自体は聞いたことがあるはずです。

私は普段あまりテレビドラマを見ないので意識していなかったのですが、確かに思い返して見ると私が過去に見た数少ないドラマの中にも「タイムリープもの」はたくさんありますね。

現代の脳神経外科医が幕末にタイムスリップして江戸の人々を救う「JIN」や、連続殺人犯として死刑判決を受けた男の息子が過去に戻って父親の冤罪を晴らそうとする「テセウスの船」、アニメだと、魔女に殺されてしまった親友を救うために何度も何度も時間遡行を繰り返す少女が登場する「魔法少女まどかマギカ」がそれに該当するでしょう。

映画だと、古くは「戦国自衛隊」がありますし、歴史的名作「バックトゥザフューチャー」も印象深いです。「テネット」や「ターミネーター」も時間跳躍がメインテーマになっていますね。

テネットでは「時間を逆行している特殊部隊」と「時間を順行している特殊部隊」が同じシーンで共同作戦を展開していたりするので、かなり集中して見ていないとワケが分からなくなるほど難解なストーリーとなっており、一回見ただけで内容を理解するのは至難の業です。作品自体が一種の「脳トレ」みたいになっているので、ご興味のある方は挑戦してみてください。

ターミネーターは大ヒット後にたくさんの続編がつくられたため、一つの同じ場面にいくつものシリーズの物語が重なり合っていて、シリーズ全体で見るとかなり複雑な構造になっています。たとえば『ターミネーター 新起動/ジェニシス』の中では、一作目の冒頭で登場したターミネーターが現代にタイムスリップして来た途端、待ち伏せしていた同型の別のターミネーターと「標的だったはずのサラ・コナー」によって破壊されるシーンがあります。

この時点で一作目と、その続編だった二作目・三作目の物語そのものが「最初から存在しなかったこと」にされてしまい、全く別の「新しいストーリー展開」が始まってしまうんですね。

あ~、幼いジョン・コナーが二作目であんなに頑張ったのにー。

この「ちゃぶ台返し現象」は、タイムリープものでは時々発生します。

アニメ作品のタイプリープものの中で私が一番衝撃を受けたのは、「涼宮ハルヒの憂鬱」の中の「エンドレスエイト1~8」というタイトルの回です。

なんと「8週連続で、ほぼ同じ内容が放送される」という放送事故としか思えないような事件が起こり、当時ネット上でも大きな騒ぎとなりました。私もこの「謎の無限ループ現象」をリアルタイムで見ていましたが、3回目の放送で早くもリタイアしました。8回全部見た人がいたのなら、相当のツワモノですね(笑)。

この謎の放送事故の原因は、神のような力を持つ主人公の涼宮ハルヒが「楽しい夏休みが終わって欲しくない」と強く願っていたため、無意識に夏休みの時間を無限ループさせていた・・・という設定があったからです。それを作品として表現するのに、実際にリアルの世界で8回も同じ放送を繰り返す必要があったのかどうかはかなり疑問ですが、まるで哲学者のニーチェが説いた「永劫回帰」という思考実験をそのまま現実の世界で試したような尖った挑戦だったとも言えます。

5~7回目あたりで登場人物の一人(キョン君)が違和感に気づき、ハルヒを除外した他の仲間たちと対策を練り始めます。8回目にしてキョン君がハルヒをそれとなく説得してようやく無限ループから抜け出しますが、実際に夏休みがループしていた回数は15532回(約596年)にも及び、涼宮ハルヒを監視する役目を負っていた宇宙人である長門有希という少女は、そのすべてのループの記憶を保持している・・・という「恐ろしい事実」が明らかにされてこの回は終わります。

ニーチェの説が正しければ、永劫回帰を経験した長門有希はすでに「超人」の境地に到達していたかもしれません。長門はもともと宇宙人なので「最初から超人だった」とも言えますが、涼宮ハルヒシリーズは、このような「哲学的な問いかけ」がいくつも複合的に含まれている面白い作品です。もともとはラノベが原作だそうですが、宗教や哲学に詳しい私でさえも「ほほぅ」と唸ってしまうほどの巧妙な哲学的仕掛けがいくつも張り巡らされているんですね。

もちろん、日本で一番広く知られているタイムリープ作品と言えば、断トツで「ドラえもん」でしょう。のび太の孫の孫(やしゃご)に当たるセワシ君がある日突然、机の引き出しの中から現れ、うだつの上がらないのび太に、ドラえもんという「未来の猫型ロボットを貸し出して立ち直らせようとする」というのが物語の始まりになっています。日本人なら誰でも知っている有名な設定ですね。

実は、大人になったのび太は事業経営に失敗して多額の借金を抱えてしまうため、その借金が百数十年後のセワシ君の代になっても一族に重くのしかかっているのだそうです。そこでセワシ君は「諸悪の根源であるご先祖様ののび太を立派な大人に成長させれば、子孫は地獄のような借金苦から救われるはずだ」と考えたのだと第一話で説明されています。

ところが、セワシ君のこの説明にはいくつもの致命的な矛盾が含まれていることに気がつきますよね?

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