ばいばいありがとさようなら①
13年付き合っていた元恋人から手紙が届いた。
住所は教えていなかったが、転送されることを見越して元の住所(一緒に住んでいた家)宛に投函するというなかなかの荒技である。
過去には決して見せなかったその行動力にシンプルに感心してしまった。
3ヶ月前、私は彼と住んでいた家を出て一人暮らしを始めた。
彼は最後まで別れを承諾しようとはせず、私が家を出ることにも反対し続けていた。
何故なら我々の間には、破局に至る決定的な理由がなかったからである。
どちらかの浮気、DV、借金など、そういった類のものではない。
ただシンプルな価値観や気持ちのすれ違いが大きくなり、何よりそれを修正することが出来なかった。
彼は話し合いが苦手、というより拒否の姿勢を交際当初から貫いていた。
そういった空気になると「(理解はしていないが)全部俺が悪いんだろう、もういい」という形で問題を収束させた。
家の空気や私の雰囲気がいつもと違うという事が一瞬でも耐え難い苦痛だったのだと思う。
私はモヤモヤとした気持ちを抱えながらも、彼が苦手なものを強制しないことを優先した。
しかし、この方法は結局どちらかが納得もしないまま我慢をするということに他ならない。
それでも愛があればなんとかなってしまう。
互いを尊重し、想っているというベースがあることで、我々は多少の我慢や納得できないことを擦り合わせずに飲み込んで13年もの長い間、それなりに仲良くやってきたように思う。
双方面倒くさがり且つ、特に利点も理由も感じなかったので結婚という形にはしなかったが、交際期間と同棲期間がイコールのため、我々はほぼ事実婚だったといって差し支えないと思う。
実際、生命保険の受け取りは互いの名義にしていたし、緊急連絡先や手術の同意書なども親族ではなくそれぞれの氏名を記入していた。
両者の身内にもよく会っていたし、家族行事にも揃って参加した。
我々は基本的には争いごとや派手なイベントも好まず穏やかだったし、老後も一緒にいる前提で終始過ごしてきた。
その関係性に歪みが出てきたのが交際10年を過ぎたあたりである。
これまでは彼自身が理解出来ていない、納得できないことでも「(自分には理解できていないけれど)君が嫌ならやめるorちゃんとやるよ」という姿勢があったのだが、徐々にデモデモダッテや俺は悪くない、のような態度を露骨に表現するようになってきた。
例えば食べた後の自分の食器は下げてほしい、食べ残しは冷蔵庫にしまってほしい、というような簡単な事象であってもである。
彼の機嫌を損ねないよう伝え方やタイミングを工夫してなんとか伝えても、結局2〜3日したら戻っていた時の徒労感や悲しみ。
これを繰り返すと、もう伝えることすら嫌になってしまう。
昔はそうではなかったのだ。
彼の中で私の気持ちを慮る優先度がかなり下がってしまった故のことなのだろうなと察した。
そして、あらゆる事で彼自身が私より損をすることを嫌がるようになった。
購入品の支払い、家事の分担、果てはトイレに入る順などまで。
引越しの前日私が詰めた段ボールに、昔私が彼にプレゼントしてもらった美容家電が入っているのに気づいた時は「これは俺が買ったものなんだから置いていけ」と引っ張り出し、私が自分で購入した別の美容品まで引き抜いた。
復縁希望にも関わらず、私より一回り年上にも関わらず、彼は使わない物にも関わらず、13年一緒に過ごしてきた家族も同然の相手にも関わらず、である。
私はこの後の彼の暮らしに不便を生じさせたくなかったので生活家電は何一つ持っていかず(自分が買ったドラム式洗濯乾燥機やテーブルなども置いていった)、洋服と母の形見の鏡台だけを持って逃げるように家を出た。
最後の最後まで私はとても悲しく惨めだったけど、それすらも未練を何も感じずに出られて良かったのだと思った。
ひとつ後から強く後悔したことは、合鍵は返すなと言われたので、とりあえず持って出てしまったことである。
※長くなったので次の投稿に続きます。