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#134古文書の紙とその入手方法、使われ方

 今回は古文書に使用されている紙について触れたいと思います。といっても、普段から古代や中世の文書を扱っている訳ではないため、紙の質など話ではないので、その点はご了承ください。
 著者が最も多く調査経験がある近世、近現代の文書について、調査をしている際に何となく気になっていた点として、史料に使用されている紙について記したいと思います。
 学生の頃に、木戸孝允の書状を国立国会図書館の憲政資料室で見た際に、蝙蝠の意匠が施された書状の紙を見て、書状用の紙は市販のものを使用しているんだな、と感じました。その根拠としては、意匠を施している紙で、約一ミリほどののりしろで紙が継がれている点で、一般の素人がその程度ののりしろで均等に貼ることが不可能であろうと思われるからです。
 また、地方文書の史料調査の際にも、書状に使用されている紙で書状の末尾に継がれている紙ののりしろが来ているものも多数見ます。ここからも、元々長大な巻き紙が市販されていて、文章を書き終わったところで、たまたま紙の継ぎ目に近いところで切断しているからだと判断出来ます。これらのことから、書状に使用されている紙も、現代における便箋と同様に、紙屋において市販されている職人によって紙継ぎされた巻き紙を購入して使用していると言えます。

 また、史料調査をしていると、罫紙を使用している史料にもよく出くわします。罫紙は、罫線で囲まれている文字を書く部分と、罫線の欄外の部分により構成されていますが、罫紙をよく見ると、左右の欄外に二つづつの穴を見ることがあります。これを見て、この史料に使用されている罫紙を、帳面から脱落してしまった一枚、「帳ハズレ」と判断される方もあるようです。しかし、著者の調査していた中で、明らかに一冊の冊子として綴じられている無記入の罫紙の冊子が出てきたことがありました。この罫紙の冊子は、結び目が非常に小さいものであったため、およそ素人が綴じたものではな、市販の物であると判断出来ます。また、これを使用するために綴じ紐を切断した無記入の罫紙の束も出てきました。もちろん、欄外に穴の開いていない罫紙も束で販売されております。そのため、現代の原稿用紙の販売と同様に、冊子として綴じたもの、一枚づつの状態を重ねて販売しているものの、両方の形式で販売されていたと言えます。

 また、最近調査中に見つけたものとして、竪帳の折り紙の間に罫線が書かれた紙を挟んでいるものを見つけました。発見した際の状態の写真と、挟み込んだ髪を抜き出している状態の写真は下記の通りです。

このように冊子の袋とじの間に罫線が透けて見える状態で発見しました。
袋とじの中には罫線が引かれた紙が。

 これは、折り紙の間に罫線の書かれた紙を挟み込んで、その紙から透ける罫線に従って文字をまっすぐに書けるようにするというアイデアのものでしょう。現代でも「きれいな手紙が書ける便箋」という商品が販売されており、これとおなじ仕組みであるといえるでしょう。

 このように、使用者のニーズに合わせた紙が歴史的にも販売されていました。何となく昔のことは現代と異なっている、あるいは過去は現代より劣っていると思い勝ちかも知れませんが、誰でも便利な物が欲しいと思う点では、人というものはほとんど現代と何ら変わらない、といえるでしょう。


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