
忍冬の香り-Love, don't be shy-
これは、私の最愛の人との恋と香りの記憶。
憧れのあの人に会える、どうしよう。
どんな顔して、どんな格好して会いに行こう。
あの人の記憶に留まりたい。まずしたことは、数あるフレグランスブランド中でも、ラグジュアリー界のトップに君臨するKilianの香りを纏うことにした。
-Love, don't be shy
(愛、恥ずかしがらないで)
一拭きするとフレッシュなオレンジとネロリの甘さが、初めて会った時の喜びを思い出させる。香りに思わずうっとりする。少し後押しされるように。
待ち合わせの時間、胸が高まって仕方ない。
コーヒーショップの入り口であの人からのテキストを今か今かと待ち侘びている。
なんだかまるで中学生みたい。
自分で自分に苦笑いをする。
「お待たせ。久しぶり。」
懐かしい声、振り向くと憧れのあの人がいた。
目があった瞬間、バチッと何かが流れるのを初めて感じた。
ああ、この人に巡り逢えてよかった..
「あの日、この香りがした瞬間、ドキドキしたの」
彼が私を抱きしめながら耳元でそう呟いた。
今日も首筋にLoveをつけている。
「ずっと、この香りと一緒に君に溺れたかったんだ」
恥じらいを捨てた二人の間には、甘いミドルの香りが漂っていた。
ハニーサックル(日本語ではスイカズラ(忍冬))
花言葉は「愛の絆」。なんでも、花のツルが他の木等に巻きつく様子が由来のよう。
時計を見るともう夜の9時を回ろうとしている。
そういえばデザートを食べてなかったね
私が言うと、彼はふっと微笑んだ。
「今日は良いよ。美味しい砂糖菓子の香りに包まれたから。」
あっという間にラストになっていたようで、彼に言われて初めて気づいた。そっと背中を振り返るように香りを確かめるとバニラとマシュマロの濃密な甘さがふわりと鼻を掠めた。
二人の時間もあとわずか。
いつも会う前は待ち遠しいのに、どうしてこんなに早く過ぎるのか。
支度を済ませて、別れ際にさしかかる。
ふいに彼の指がそっと私の髪の毛をなぞって首筋まで撫でた。全身が悦びに震えた。
この人はいつも私の願望を、自分の願望として叶えてくれる。
「また逢いにくるから。愛してる。」
彼の背中を見送って、そっと自分の香りを確かめた。
甘く優しいメレンゲの香りは、深い余韻を残して私の肌から去っていくところだった。
手元に持っていたボトルに目を落とす。香水の液体の、鮮やかなクリアに近いオレンジ色は、あの日初めてつけてから月日が経ち、濃厚な黒味を僅かに帯びたオレンジ色へと変貌していた。
すっかり、二人の愛の香りになってしまった。もうあの人の前以外ではつけれない。
Love, don't be shy.