あしたから本屋さん
近所の本屋がまたひとつ、閉店していた。
息子と一緒に通った思い出の場所が、気づいたらリサイクルショップに変わっていた。
その本屋は中規模のチェーン店で、絵本コーナーの隣に大型の丸い形のジャングルジムがあり、保育園児だった息子がおおはしゃぎで登っていた。
てっぺんに届いたときの、嬉しそうな息子の様子をよく覚えている。
息子が小学校に上がると同時に引越ししてから足が遠のいていたが、そのあとすぐに潰れてしまっていたみたいだった。
あの大きなジャングルジムはどうなったんだろうなぁ、と思うと同時に、近所の本屋がまた潰れてしまった…と悲しくなった。
とある調査によると、この20年で書店数は半分になったらしい。
思い起こせばよく行っていたあの店舗も、この店舗も潰れてしまった…このペースでいけば、20年後には本屋が完全になくなってしまうかもしれない。
私は、小さいころから本が好きだった。
もともと新潟のかなり田舎の村育ちで、周りが田んぼだらけで遊ぶところもなければインターネットもない時代だったので、小さい頃から本ばかり読んでいた。
私にとって本は、友達・先生・恋人・ひまつぶし・現実逃避・タイムマシン…と色々な役目を担ってくれる。
大人になった今も、デパートや美容室にいくと緊張でドキドキするけど、本屋に行けば、実家よりリラックスできるくらい、大好きな場所だった。
本はAmazonでも買える。
でも、店舗で見知らぬ本に突然出会いたい。
場所を取る本より電子書籍の方が便利かも。
でも、紙の本の手触りが好き!
本屋がなくならないように貢献する方法として、なるべくリアル書店で本を買うことくらいしかできず、もやもやとしていたある日、偶然こんな記事を見つけた。
利用者の減った電話ボックスを、図書館やアートギャラリー、カフェに変えて使用されているというものだった。
電話ボックスが図書館に…!?とびっくりした。
イギリスらしい真っ赤の、かわいらしい小さい図書館。
そうか、店舗を借りなくても小さなスペースさえあれば、本を置くことはできるんだ!と目から鱗がぽろぽろこぼれ落ちた。
他の事例を調べてみると、上海では公衆電話ボックスをシェア読書スペースとして活用しているケースを発見(電話機能やネット回線も完備!)。
すごい、もはやネットカフェの個室ブースみたいだ。
電話ボックスのいいところは、近所にあるということ。
ほとんどの人にとって、今はもう本屋は遠い。
わざわざ本屋に行かなくても、ネットで買えばいいし。とふつうは思う。
でも、電話ボックスくらいの近さで本屋があったなら、ふらりと立ち寄れる人もいるんじゃないかと思った。
それに、これくらいの小スペースなら、賃料もかなり安く済みそう。
「もしかして、自分でも小さい本屋さんができるかも…?」
自分の中で、ちょっとしたひらめきみたいなものが降りてきた。
それでも、売上が上がる前に自腹で本を大量に購入するのは厳しい…。
その時にふと、昔どこかで聞いた『ペイフォワード・コーヒー』のシステムを思い出した。
余裕のある人が自分のコーヒーを買う時にもう1杯注文し、その1杯は見知らぬ誰かにごちそうするというもの。
(ポストイットにメッセージを書いて張り出し、困窮者はこのポストイットをレジで出すだけで無料でコーヒーが飲めるという素晴らしいシステム。)
私自身、毎年クリスマスに困難な環境にある子供へ本の寄付を行なっていることもあり、見知らぬ誰かに本を贈るシステムはとてもいいもののように思えた。
この本を誰かが受け取って喜んでくれるんだなと思うと、胸がぽかぽかと温かくなるような、純粋に他人のためというより自分自身の喜びになる。
自分の金銭的なメリットはなくても、人間というのはそういう仕組みになっているのだと思う。
場所を低価格で借りることができ、本も誰かの善意を頼ることができたら、無料で本が持ち帰られる、ユニークな本屋が開けるんじゃないかな…
ぼんやりとイメージが浮かんできたので、自分の誕生日に、この構想を思い切って書き出してみた。
noteでも、X(Twitter)でもいいねがたくさんついて大喜びしたものの、空いている電話ボックスなんかそうそう見つかるわけもなく実際に動き出すことができていなかった。
さて、ここからどうしようかと考えていたある日、地元新潟市の公式LINEからこんなメッセージが届いた。
社会実験の一環として、新潟駅の目の前の場所をなんと無料で貸し出すとのこと。
これは出店の大チャンスでは…!と思い即申し込み。
すぐに新潟市の方からお電話があり、5月26日の日曜日なら空いていますよと伝えられ、名前も決まっていないのにあっさりと初出店が決まってしまった。
ありがとう、新潟市…。
そこからは怒涛の毎日で、仕事の繁忙期と体調不良が重なりへろへろになりながら、なんとか出店の準備をすすめた。
本やギフトカードを寄付してくれた方には記念とお礼としてステッカーを差し上げたいと思っていたが、プロに依頼する時間も資金もない。
ChatGPTにイメージを伝えてブラッシュアップし、気になるところはPhotoshopで修正した。
こちらも子供が一生懸命本を読んでいるようすがとても可愛く気に入っているが、次回はプロのイラストレーターの方にお願いしたい。
次にしおり。これはペイフォワード・コーヒーのポストイットのように、短いメッセージ(本に対する思い入れやエピソード)を書いたらいいのではと思いついた。
まるでオフラインのSNSみたいで楽しそうだし、本を受け取るだけじゃなくて、その本にこめられた気持ちもやはり受け取ってほしい。
そして、あげた人ともらった人がSNSにアップしてくれたら繋がれるかもしれないし、PRにもなっていいなと考えた。
(※出店当日はバタバタしていて出す余裕がなく。残念…)
さいごに、いちばん大事な本。
本は自宅に売るほどあまっていた。
引越しのときにかなり整理したけれど、その後にもどんどん増えてしまい、やむを得ず床に直置きしているくらいだったので、まずは自分の本を出してみようと思った。
ところが、Xで出店の事前告知をしたところ、本の寄付が思いもよらぬ量が集まった。
ダンボールにどっさりと中古の本を送ってくださったり、新品の本をAmazonから寄付してくださった方もいた。
「この仕組みにすごく共感をもったので力になりたい」「この本はすごく面白いのでお子さんに絶対読んでほしい!」「不要な本だけど、出せそうなものがあったらぜひ」とたくさんのあたたかいご連絡をいただいた。
本を寄付してくださったみなさん、本当にありがとうございました。
その他の必要なものは、基本的に自宅にあるキャンプ道具を使用した。
追加で購入したものはテーブルクロス、本が焼けないように大きな日よけパラソル、本をディスプレイする道具(これは100均)。
なんとかギリギリ、出店準備が整った!
そして当日。
わたわた準備しているところを新潟市のみなさんも一緒に搬入作業をしてくださった(とてもご親切にしていただいた上に、本の寄付までしていただいた!)。
要領をえないながらも、なんとか出店準備を完了させた。
事前に国内外の「本の蚤の市」のようすは事前に調べていたけど、とりあえず本を並べることで精一杯。
子供が見やすいように、絵本と児童書は地面に並べておくのは我ながらナイスアイデアだったのではないかと思う。
しおりの準備が間に合っておらず、お客さんがくるまでにパンチで穴を開けてリボンでくくろう…と思っていたら、すぐに最初のお客さんが来店。
小学生のお姉ちゃん、ベビーカーに乗った小さな赤ちゃん、そしてそのご両親。
親御さんは「本当にもらっていいんですか?」ととまどいつつ、お姉ちゃんはあまり迷うことなく「しろくまちゃんのほっとけーき」を手に取る。
めぐる本屋の第一冊目は『しろくまちゃんのほっとけーき』になった。
なんと素晴らしいチョイス!
赤ちゃんだった息子と一緒に何百回読んだだろう?
この本が好きすぎて、息子とおそろいのTシャツを買ったくらいお気に入りの本。
元々、この活動は子供に本を届けることをメインにしたいと考えていたから、とてもうれしかった!
その後も、無料ということもあってか想定よりはるかに多いお客様がとぎれることなく次々に来店。
Xの告知を見て本のお持ち込みをしてくださった方や、その場でこのイベントを知って、わざわざ家に帰って本を持ってきてくださった方も!
「本を処分しようか迷ってたから、捨てずにすんでよかった」と喜んでくださった。
本がゴミとならず、誰かの手元に届いてくれる手助けができたのなら、私もとても、とてもうれしい。
本のチョイスもおもしろかった。
高校生の女の子が「最近は自分を高めるような本が読みたいって思ってるんですよね」と自己啓発本を持っていったり、私の親世代のご高齢の方が、Instagram運用の本を選ばれたり…
こっそりと胸のうちで、最近の子はしっかりしているなぁと思ったり、ご高齢でも新しい技術に興味を持つなんてスゴい。と思ったりした。
そして、若い子が「この本もらっていいんだって〜!すごいね!!」と目をキラキラして選ぶようすを見て、「本って全然オワコンじゃないんだ」「みんな、本当は本が好きなんだ…!」と、小さな感動を覚えた。
いくら無料だって本が好きじゃなかったらわざわざ持ち帰らない。
本を読むのはカロリーを使う、しんどい、荷物にもなる。
でもみんなうれしそうに、ニコニコして本を選ぶ。
本が大好きな人がこんなにたくさんいる!
なんだか勝手に心があらわれるような、これからの展開を考えてワクワクするような…だいぶ無理をした出店だったけど、挑戦してみて本当によかった。と心の底から思った。
最終的には、4時間ほどで
・ご来店人数…35人
・本の頒布数…47冊
・本を寄付いただいた方…7人
当初の想像よりたくさんの方に関わっていただいた。
特に本を寄付してくださった方、出店場所を提供してくださった新潟市のみなさん、ありがとうございました。
せっかくなので、これからやってみたいことも書いてみようと思う。
やりたいことは書いて読んでもらうと叶うことが多い。
・小さくてもいいので、実店舗を持ちたい
・キッチンカーならぬブックカーも色々なところに行けて楽しそう(車なら船に乗せて離島にも行ける)
・グッズ販売等を行い、本屋の運営資金を自分でまかないたい
・作家さんや編集者の方、ユニークな本屋さんをお呼びして、リアルイベントを開催したい
・Instagram等のSNSで寄付いただいた本やしおりの写真をアップしてアーカイブ化したい(これはいま準備中)
そして、私が一番叶えたいのは、自分と同じような活動をする人が全国各地で生まれること。
寄付型の本屋が全国に広がれば、それはとてもおもしろいし、ひいては出版業界に(少しでも)貢献できるのではないかと考えている。
そのためにも、少なくとも赤字にならない運営方法を見つけ出し、試行錯誤を続けていくつもりだ。
📝ここから出店の記録
偶然はじっこで出店していたので、新潟日報さんに写真を掲載していただきました。
はずかしいけどうれしい。
勝手に記念とさせていただきます。
📢ここからお知らせ
現在、本を置いてもいいよという店舗さんを募集しています。
エリア問わず!数冊でもOK!
金銭面の負担はありませんので、お気軽にご連絡ください。m.furukawa@meguru-bookstore.jp
めぐる本屋についての資料はこちらからご覧いただけます。
本、ギフトカードのご寄付はこちらからお願いいたします。
(よろしければご連絡もお願いします!紹介させていただきます。)
ここから活動を継続させていくことがなにより大切だと考えています。
優しく見守っていただけたらうれしいです。
なお、このタイトルは私の大好きな本、筑摩書房の「あしたから出版社」をオマージュさせていただきました。
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