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『藝人春秋2』の書評 10/「ノンフィクション作家もやっている芸人」By兵庫慎司(ライター)

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 2021年2月9日、3月9日と2ヶ月連続して発売となる『藝人春秋2』上下巻の文庫化が『藝人春秋2』と『藝人春秋3』です。

 2017年発売の単行本版『藝人春秋2』上下巻には多くの書評が寄せられましたが、そのなかから順次紹介して行きたいと思います。

 

 10回目は、ライターの兵庫慎司さんです。
彼は、元ロッキンオンで浅草キッド担当編集者でもありました。

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水道橋博士『藝人春秋2』について
By.兵庫慎司(ライター)

                    「はてなブログ」より

 2017年11月30日に出た本なので、今頃何か書くのはだいぶ遅いのですが。

 ひとつひとつの言葉の選び方、句読点の打ち方、一文一文に込められたネタや引用など、細部までもうとにかく徹底的に詰められた、異様な完成度を文章を書く、水道橋博士とはもともとそういう人であって(これすげえ時間かかってるだろうな、一度書いてから推敲しまくるんだろうな、といつも思う)、そのことについては昔、書評を書いたりもしたし、読者としても編集者としても(昔、浅草キッドの単行本を作ったことがあるのです)把握しているつもりなので、今さら驚かない。

 ただ、下巻にはびっくりした。

 やしきたかじんの章、『橋下徹と黒幕』の章、石原慎太郎VS三浦雄一郎の章。昔、単行本の帯とかで、浅草キッドを「ルポライター芸人」と形容したことがあるが、そのレベルではない。

 これ、完全にノンフィクション作家の仕事だと思う、博士が読者として傾倒してきた人々と同じ次元の。

 しかも、取材対象に興味を持ったので迫っていく、というのではなく、自分が言わば登場人物として巻き込まれた、だから書くしかなかった、というのがさらにすごい。というか、怖い。

 べつに本人は巻き込まれたくて巻き込まれたわけではないだろうが、そのことによって、結果的に「ノンフィクション作家もやっている芸人」にしか書けないものになっているし。

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 『お笑い男の星座 芸能死闘編』(文春文庫)をお持ちの方は、その中の『爆笑問題問題』と改めて読み比べてみることをお勧めする。

 「自分も登場人物のひとりであるノンフィクションを書く」という構造は同じだが、文章といい、その文章に至るまでの調査やファクト・チェックといい、今回の方がはるかにハードコアだ。

 水道橋博士がこの十数年で何を経験し、どんなことを感じ、考え、行動に移して来たか、その結果どうなったか、ということを表していると思う。

 それから、下巻の最後に書かれた、水道橋博士自身の病気のこと。

 なぜ敢えてこれを書いたかについては、本書の中で記述されているが、勝手にひとつ補足させてもらうなら、書かないとフェアじゃないと思ったから、書いたのではないか。

 人のことをいろいろ書いておきながら、その書いている時期に自身に起きた、触れられたくないところについては何も触れない、というのはずるい、と感じたのではないか。
 理屈で考えれば、別にずるいことでもなんでもない。でも生理的にそう感じたからそうしたのではないか。

 僕はそんなふうに受け取りました。

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 そんなわけで、兵庫君は編集者のなかでも古くからの有数の浅草キッドファンでもあります。最初の取材は92年の7月です。

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 本文にもありますが、一緒に本作りもしたことがあるので、ボクの深層心理や真意は何から何までネタばれしています。
 が、新作が出るたびに書評を書いてくれるので、何時も兵庫君の顔を浮かべ、最初に読む読者として想定しています。

 ちなみに一緒に作ったのは、『発掘』(浅草キッド・ロッキンオン・2002年)です。

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 この本は東スポに連載した、漫才形式コラムの単行本化で、ほとんど兵庫くんが作業をしていたと思います。
 何故か、近田春夫さんに激賞されたのを覚えています。が、いまだに文庫化もされていないし、古書店でも見かけませんので、是非、読者は「発掘」してみてください。

 先日、我が家の倉庫では山のように「発掘」されましたが……。

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