『藝人春秋2』の書評 12/書評家の岡崎武志(書評家)。 はてなダイアリー「倒錯委員長の活動日誌」usukeimada。 古泉 智浩(漫画家) の3本立て。
2021年2月9日、3月9日と2ヶ月連続して発売となる『藝人春秋2』上下巻の文庫化が『藝人春秋2』と『藝人春秋3』です。
2月が「2」、3月が「3」と覚えて下さい。
2017年発売の単行本版『藝人春秋2』上下巻には多くの書評が寄せられましたが、そのなかから順次紹介して行きたいと思います。
12回目は書評家の岡崎武志さん。
そして、
はてなダイアリー「倒錯委員長の活動日誌」usukeimadaさん。
そして、
漫画家の古泉 智浩さん。
の3本立てでお送りします。
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今週の新刊◆『藝人春秋2』By.岡崎 武志
「サンデー毎日」2018年2月11日増大号よりより
不思議な芸人である。
共演者に「ハカセ」と呼ばれ、冷静に知識やコメントを発する。
ビートたけしの弟子で、お笑いコンビ「浅草キッド」という出自を知らない人は本当に「博士」と思うかも。
紆余曲折の長い芸歴の中で、水道橋博士が知る人たちの「業」に迫ったノンフィクションコラムが『藝人春秋2』(上下巻)。
「ハカセより愛をこめて」(上)「死ぬのは奴らだ」(下)という副題でも分かる如く、映画通でもある。
俎上に載るのはタモリ、みのもんた、寺門ジモン、劇団ひとりなど芸人仲間もいれば、猪瀬直樹、石原慎太郎、田原総一朗など「エライ人」枠にも容赦ない愛とムチが飛ぶ。老害とバッシングを受けた石原を「『威張りんぼうは面白い!』という視点で、あえて相手の懐に飛び込んで観察する」姿勢で受け止め、茶化す。
デーブ・スペクターを「今や沖縄の普天間よりも厄介な進駐軍」と評するなど、毒入り批評は師匠ゆずり。とにかく読ませます。
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水道橋博士の偏執的な情熱がまぶしい「藝人春秋2」 By.usukeimada
はてなダイアリー「倒錯委員長の活動日誌」より
TBSの「A-Studio」では毎回最後に、司会の笑福亭鶴瓶がその回のゲストについて一人しゃべりを披露するのが通例だ。
今や「A-Studio」に出演する=鶴瓶の一人しゃべりのネタになるのが芸能人のステータスになっているが、それならば、この著者に筆をとらせるのも、もはや一つの到達点と言えないだろうか。
全2巻にまたがる本作は、お笑いコンビ・浅草キッドの水道橋博士による人物評伝だ。
別件で話題沸騰中の週刊文春編集長からの「特命」を受けた「芸能界に潜入するルポライター」として、芸能界、政財界に生息する怪物たちの姿を活写する。
今作は特に連載誌が「文春」とあって、対象によってはかなりジャーナリスト寄りで硬質な内容になっているのが、前作『藝人春秋』にはない特徴だ。
博士の文は、次から次へと飛び出す巧みなアナロジー、ナンセンスギャグ、ダジャレによって読者を「水道橋史観」ともいえる芸能界ユニバースへといざなう。
専業作家も顔負けの堂に入った文体で、被写体の輪郭を切り取っていく様は見事だ。
一方で、博士自身が「過剰」な人物であることも忘れてはならない。
最近一部で話題になった「オールナイトニッポン」をめぐる「殴り込み疑惑」も、誤解として決着はついたが、「博士ならしかねない」というリアリティがあった。
偏執狂的な思い込みと情熱と行動力がある著者だからこそ、対象者の思わぬ側面に迫れたのだといえるだろう。
例えば、石原慎太郎と冒険家・三浦雄一郎の間に生じたすれ違いとその「真相」にたどり着いたのは、著者の執念に近い固執があったからに他ならない。
本書ではその後の2人の明暗を残酷なまでにくっきり描き切っている。
ときには面白すぎて「これホント?」と眉につばをつけたくなる箇所もあるが、流麗な筆致と偏執的な思い込み=情熱によって著された文を、読者の脳は「んなことの前にこれは面白い」と判断を下してしまう。
信憑性よりも面白さが勝ってしまうのだ。
博士は前作『藝人春秋』の中で、お笑いにおける「強い」の概念を提唱していたが、博士自身の文も立派に「強い」のだ。
これだけやっておきながら「あ、この章は手を抜いたな」というのが一つもないのだからすごい。
この本全体から漂う本気度は軽くタレント本の域を超えている。
博士の文章を読んでいると、プロインタビュアー吉田豪が思い浮かぶ。
一度だけ、吉田氏が文章に起こしたある人へのインタビューを動画で見たことがある。
すると何が起こったか。皮肉なことに、吉田氏が直に相手に話を聞く様よりも、吉田氏が文章化したものの方が面白かったのだ。
ぼくが対象を直に見るより、吉田氏のフィルターを通して出来上がった虚像のほうがずっと面白いということだ。
博士についても同じことが言えるのではないか。
万が一、ぼくが博士の知り合いだとして。
そして億が一、博士が次の文章でぼくを書こうとしていたとしよう。
ぼくはそれを断固拒否すると思う。
もう公開してしまったといわれたら、その文章は決して読まないし、読んだ人にはなるべく会わないように生きることを決意するだろう。
なぜなら、ぼく自身が博士の書いた「ぼく」を超えられる自信など到底ないからだ。
それだけに、自身について書かれた原稿をコピーして配り歩いたという三又又三の度胸たるや。
厚顔無恥もとい、博士に言わせれば「肛門無恥」の加減には頭が下がる思いである。
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「藝人春秋2」を読んで By.古泉 智浩(漫画家)
ブクログ「レビュー」より
「藝人春秋2」上 ハカセより愛をこめて
とても面白かった!
登場する人物の中で実際にお会いしたことがあるマキタスポーツさんは、育児の話があったりお父さんが亡くなっていたりと、世代的にも近くて自分に重なるところが多々あり非常にぐっと来た。
また、ポッドキャスト活動は多大な影響を受けている。
上巻で一番びっくりしたのは大滝詠一さんで、中学生の時にレンタルレコードで46分テープにダビングした『ロングバケーション』の記憶が鮮明だ。そんな大滝さんが基地のようなご自宅で日本中の放送をチェックしている奇人であったことが衝撃だった。
山下達郎のFMの番組に年末ゲストで毎年登場していたけど、そんな人だったとは想像もしなかった。
もっと詳細を知りたくなった。
「藝人春秋2」 下 死ぬのは奴らだ
上巻に続いてとても面白かった。
博士さんの本でおなじみの寺門ジモンさんと武井壮さんの対決は、寺門さんがマウントしようとしている感じがスリリングだった。
その先が見たいような、見るのが怖いような感じがした。
新潟は関西の番組がたくさん放送されていて、たかじんさんの番組はよく見ていた。
たかじんさんが出なくなってだんだん面白くなくなって亡くなってからは全く見なくなった。
そんな状況の舞台裏を生々しく描写してあって、腑に落ちた。
巻末の博士さんの告白が非常に重くて驚いた。
この上下巻に凄みがあったのはそれが要因だったのか。
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以上の短い批評の3本でしたが、本当にありがたいことです。
自分が書いた本に声をかけられることは、自分の生んだ赤ん坊に声をかけられるようなものです。
難産であればあるほど、余計思い入れがあるのです。
古泉さんとは、その後、お会いしてじっくりとお話をしました。
ここから7話分もありますので、是非、興味のある方はLINKを辿っていってください。