『藝人春秋2』の書評2 ★彼らの人生そのものがエンターテインメントだ!芸人たちの型破りな生き様 By塩田 武士(小説家)
2021年2月9日、3月9日と連続して発売となる『藝人春秋2』上下巻の文庫化が『藝人春秋2』と『藝人春秋3』です。
2017年発売の単行本版『藝人春秋2』上下巻には多くの書評が寄せられましたが、そのなかから順次紹介して行きたいと思います。
2回目は映画化されたベストセラー作品『罪の声』の作者・小説家の塩田武士さんの書評です。
彼らの人生そのものがエンターテインメントだ!芸人たちの型破りな生き様
By.塩田 武士(小説家)
「週刊現代」2018年3月10日号
これが全て実話なのだから驚く。
芸能界に潜入するルポライターを自任する水道橋博士さんの『藝人春秋2』(上下巻)は、重ねに重ねた逸話のミルフィーユだ。
ビートたけしやタモリといった大御所はもちろん、橋下徹、猪瀬直樹、徳田虎雄ら物議をかもした政治家、三又又三や寺門ジモンら一線を越えた芸人まで、ただ者ではない人物たちをワンプレートに載せる。
中でも橋下氏は、上下巻それぞれに登場するが、強烈な言葉の羅列で議論を勝ち負けにして見せるやり方を筆者は「政治家としてはあまりに無教養で幼稚だ」とばっさり斬り捨てる。一方で「ボクは単純な『反・橋下』ではない」とある通り、一方では橋下氏の人間的な言動も丁寧に拾っている。
名刀は鞘に納まっている、というメッセージがよく伝わってきた。
博士さんと言えば、テレビ大阪のバラエティ番組『たかじんNOマネー』の降板劇が記憶に新しい。
その真相は本書に譲るとして、これに関連するのが関西の怪物やしきたかじん氏。
たかじん氏の番組に呼ばれた当初は存在感に圧倒されたものの、博士さんは徐々に信頼を勝ち取っていく。
たけし軍団である以上「忠臣は二君に仕えず」と、一定の距離を保ち続けたが、たかじん氏の訃報に際し「一度でいいから、酒席をお伴させていただきたかったです」との言葉を飲み込んだ。
癌からの復帰後、何度も収録を中断しなければならないほど、たかじん氏の体調は優れなかったという。
子どものころから、ずっとテレビで見ていた強い男の衰弱する姿に胸が痛んだ。
さらにつらいのは、本書でも疑問を呈する“ノンフィクション”本『殉愛』の発売。
皆まで言わないが、失望している関西人は多い。
複雑な内容でも嫌味がないのは筆者の文才故だろう。
橋下政治に関し、大阪の「府」と「都」を将棋の「歩」と「と」に置き換えるなど、繰り返される言葉遊びのセンスに圧倒される。
「タモリの落とした財石」「リリー・フランキー、伝説のテレフォンショッキング」「ビートたけし、赤いポルシエの行方」「コウガン芸人三又又三」「ネイチャージモンと武井壮の死闘」「辿り荒いた談志の『芝浜』」
……など「人間」こそが最高のエンターテインメントだと気づかせてくれる。
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塩田武士さんとは、一度、京都でお会いしています。
ノンフィクションライターを数多排出する神戸新聞社の記者出身の正義漢であり、そして少年漫才師であった過去などに驚きました。
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