「染、色」ネタバレと感想
オルタネートで直木賞候補になり、吉川英治文学新人賞を受賞し、本屋大賞にもノミネートされ、先日発表になった高校生直木賞を受賞した加藤シゲアキが原作、脚本を描いた「染、色」。
オルタネートは読後感がかなり清々しい青春小説になっているが、加藤シゲアキの他の小説は人の心の嫌なところや嫉妬、焦燥などが渦巻いている絵の具で言ったら黒と緑と茶色を混ぜたようなしかもあまり水を入れずに混ぜているそんな感覚の話が多い。
染色は短編なのでそこまでぐるぐるに混ざってなかったのに、戯曲「染、色」は美大生の話だけに絵の具をパレットに出して、黒、茶、緑、赤をパレットナイフでぐちゃぐちゃに混ぜているようなそんな登場人物の感情が入り乱れてかき回されているような感じで、これよ!これ!加藤シゲアキと言ったらこれだよね!!っていう気持ちで舞台の上を観ていた。
それを大学生の群像劇として若い俳優さんが演じていくのだが、それぞれの俳優さんが本当に上手くて、深馬の天才と持て囃されながらも自分では行き詰まっている感じや、北見のふざけているようで結構現実的なところ、誰からも嫌われたくないいい子でいたい杏奈、妄想なのか夢なのか曖昧なシーンの中での滝川先生の心の黒さなど、全ての役に何かしらの心の闇のようなものがあり、それを露呈しながらシーンをどんどん変えて進んでいく、これだけの展開をしていながらも話はちゃんと伏線回収して収束していく。
加藤シゲアキって天才なんだな。
演劇でこれだけ展開(シーンだけでも大学、杏奈の部屋、真未の部屋、グラフィティを描く場所、病院、杏奈の面接会場、居酒屋、深馬の部屋(あった気がだけどなかったかも))が多くそれが同時進行するタイミングがあるのはかなり脚本が入り組んでいるのでは、と思う。
実際、脚本にト書きをかなり入れたと加藤シゲアキさんが話している事を思うとこれだけの展開を考えて、真未と深馬の存在を短編から戯曲になる過程であれだけ変えていけたのは本人も話しているが、原作者が自分だから自由に作れるということなのだと思う。
原作だけ読んだ時はここからお芝居になるってそんなに要素がないけど、どうなるんだろう?と思っていたが、人が増えて展開が増えて人の感情がその分何倍にも増えたことで演劇として、見応えのある寝るなんてこと全くないどこまでも刺激的なお芝居だった。
印象的なセリフは深馬が真未と組み合いながら心の葛藤を話すシーンで深馬が言う
「まぐれで首席」
これ、うちの娘が中学受験で入学できたことに対していつも言ってる「まぐれだから」という発言と同じ過ぎてめちゃくちゃ刺さった。
物事を最後までやり遂げたら、それを評価されてしまう。それが怖い
と言うようなセリフもあって、これも娘の行動や発言とすごく似ていて、深馬に娘を重ねてしまうところがあった。
それを乗り越えてこそなんだっていうことを真未が教えてくれるのだが、娘にとっての真未がいつか現れてほしい。
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