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オールド将棋ファンの願い
夕方遅くに、電話があった。
それも、単なる友人。めずらしい。いつもメールで連絡してくる友人なので、ちょっと嫌な感じを受けた。事故など緊急事態だったら、という思いが頭をかすめたからだ。
着信で取れなかったので、かけなおした。
友人、と言っても年齢が上なのだが、話す事柄から付き合いの内容を見れば、まぁ友人だ。まず、どうしたのかと尋ねた。
「羽生さん、負けちゃったよ」
友人はそう言った。
緊急事態を想定していたぼくは、一瞬、分からなかった。
「竜王戦だよ」
ぼくが黙っていたので、友人はそう付け足した。
「あぁ」
ぼくは気の抜けた返答をした。返答というより、ためいきのような相槌だ。
「獲ってもらいたかったなぁ、竜王」
友人はしみじみと、言った。そして、
「タイトル100期、ムリかなぁ」
と、続けた。棋界に詳しい方なら知っているところだが、現在羽生さんは獲得したタイトルをすべて足すと、99期なのだ。
友人とは、少し将棋の話をして電話を切った。
現在、将棋界は一昔前に比べると安泰だ。盛況と言ってもいいかもしれない。
もちろん藤井王位・棋聖というスターが出てきたことも一因だが、やはり以前に比べて万人が対局を見れることになったのが最大の要因だろう。
パソコンのない時代には、対局を観ることは不可能だった。観るも何も、結果すら分からないのだ。タイトル戦でようやく、翌日の新聞(主催新聞だけ)に載るといった具合だ。
しかし今では、大きな対局はメジャーなスポーツのように中継で観られる。そしてどんな対局も、結果が翌日には分かる。つまりは、とても「とっつきやすくなった」のだ。やはりどんなものでも、流行るには、簡単に触れられなければならない。将棋は、昔とはがらりと変わって、今は簡単に触れられる。
友人は、簡単に触れられない時代からの将棋ファンだ。それこそ、最高に凝っていた頃は将棋会館に行って結果を探っていたこともあった(もちろん行ったからって探れないけど)。
そういった、将棋がとっつきにくい頃に熱烈なファンだった人たちは、本当に羽生さんのあと1個のタイトル獲得を熱望している。他の若い棋士とちがって、羽生さんは時代を背負っている。
twitterも、abemaも、連盟のホームページすらも利用しないオールドファンの思いを背負っている羽生さん。ぼくも応援している。現在最も挑戦権を獲れそうなのは、すでにリーグに入っている王位戦だろうか。
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