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大先輩のお墓を訪ねる
青梅線沿線に住んでいると、「桜」と聞くと羽村の堰を真っ先に頭に浮かべる。上野でも井の頭公園でもなく、羽村だ。けっして、都内の有名どころではない。百歩譲って、福生か奥多摩といったところ。
羽村の堰では、毎年桜が咲く時期に『さくらまつり』が開催される。玉川上水に沿った歩道に縁日が並び、案内所や簡易トイレが設置される。神輿が出て、まだ肌寒い時期の川の中にザブンと入っていくのがメインのイベントとなる。羽村の堰以降の多摩川は玉川上水に水を取られて小川程度の流れなのだけど、神輿が入ると水が飛び散り、迫力が生まれる。
本来であれば、このオレンジのライン沿いの歩道に、ずらりと縁日が並ぶ。でも昨年に引き続き今年もコロナでなし。
こちらは橋から見て反対方向の、小作方面。こちらにも縁日が少し並ぶのだけど、やはり今年はなし。静かな桜見物となった。
以前は、もっと辺り一帯がピンクに染まっていた感じがしたが、なんとなくスカスカ。人の出がないからそう思うのだろうか。それとも伐採したのだろうか。
その羽村の堰から奥多摩街道を渡ってすぐに、禅林寺というお寺がある。
川に近い田舎道にあるので、なんとなく重々しく、風情を感じる。この日は、桜はついでで、実はこちら禅林寺参りが本命だった。
青梅線沿線に住んでいた作家と言って思いつくのが、『大菩薩峠』の中里介山。ここはその中里介山の菩提寺だ。
大菩薩峠はとても好きな道で、よく行った。山梨に行くのに、甲州街道など使った記憶がない。必ず奥多摩から柳沢峠経由だった。柳沢峠の頂上の休憩場所には2匹のかわいい柴犬がいて、彼らにあいさつして大菩薩へと下っていったのだ。
山道のような急な石段を上がって、墓地に出る。そこで中里介山の墓を探す。なかなか見つからなかったが、ようやく案内板を見つけた。
長編が書けますように、と手を合わせる。未完の特大長編を残すというのは、とてもカッコいい人生だ。それに、壮大な作品というのは中身が知られていなくても、タイトルだけは人の記憶に残り、語り継がれていく。ロックで言えばプログレ、特にイエスといったところか。どんな曲が入っているのか知らなくても、『危機』や『こわれもの』などアルバムタイトルだけは広く知られている。
お墓を出て、羽村駅へと向かう。直線で500メートルほど。通りのお店は軒並み閉まっていて、開いているのは観光案内と信用金庫だけ。以前はこの通りに書店があったのだ。今では信じられない。生活に必要なドラッグストア、コンビニすらない。
でもその寂れようが、なんとなく、「中里介山のお墓がある駅」に似合っているような気がする。
駅の反対側も散策してみようと思ったが、ちょうど電車がホームに滑り込んできたところで、それに急かされて飛び乗ってしまった。
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