リヨン・セレブさんの甘食
菓子パン好きで、訪れたさまざまなところでパン屋さんに寄り、買っています。
○○好き、と食べ物や飲み物が好きな人には、2種類のパターンがあると思います。1つは、好きな物をいろんなお店で購入して食べる人。もう1つは、特定のお店の○○が好きで、そこで集中して買う人。
ぼくのパン好きはどちらかというと後者の方で、気に入ったお店のものを繰り返し購入します。もちろん、「絶対にそれだけっ!」と決めているわけではなく、新しいお店も開拓します。新たな味を知りたいという欲求も、やはりあります。ただ基本的にはリピート派なので、新規の店を気に入ってしまうとリピート店が増えて苦しくなるので、開拓は積極的には行っていません。
新規店派にとっては、リピート派はもったいないと思うかもしれません。こんなにも世の中に美味しい菓子パンがあり、パン屋さんが存在しているのに、菓子パン好きでいながら味わってみようとしないなんて、と。自分自身で、そう思っているところもあります。大袈裟に表現すると、人生を損していると言えるかもしれません。
ただ、一点(店)集中ということにも良さがあって、そのパンをさまざまなカタチで楽しめるという利点があります。
意外にも、パンはただ買って食べるだけではないのです。買ったあとに自身でひと工夫して、その菓子パンの別の美味しさを引き出すこともできます。
以下、1つの例です。
登場していただくのは、リヨン・セレブという、東京都の東側と、千葉県の東京に隣接している市に数店のお店を持つパン屋さんです。最近はケーキのような菓子パンを並べるお店が多いですが、リヨンさんは昔ながらの素朴な菓子パンメニューが並ぶお店です。
ぼくはその中の『甘食』が好きで、よく買います。他店と比べると大きめで、1個売りと3個売りがあるのですが、ぼくは3個袋詰めされている方にしぜんと手が伸びます。
一昨年のこと、ぼくはちょっとしたのどの手術をしました。さしてむずかしい手術ではなく、術後も安定していてすぐに家に帰されました。帰宅後、熱もうずきもなかったのですが、ただ問題はなにかを食べるときです。刺激の弱い、薄い味付けの、冷めたものを食べなさいという指示を受けていましたが、そのとおりにしても食べ物がのどを通過するたびに激痛が走りました。
痛みを考えると食欲が失せて、ずっと数日間寝てようかとも考えました。しかし薬を飲まなければならないし、まったく栄養を摂取しなければ回復もままならない。なにか呑み込むのに負担にならないものをと考えていたときに、「リヨンさんの買い置きの甘食を牛乳に浸してみる」ということを思いつきました。そうすれば、液体に近いくらいやわらかくてのどに刺激を与えず、そして栄養も摂れるのではないか。そう思い、早速試してみました。早速試そうと思うくらい、空腹だったのです。
まずは、牛乳の海を作り、その中央にリヨンさんの甘食を投入。
牛乳が浸るまで少し待ちます。料理番組では、「こちらに浸した物が」と別のものを取り出すのですが、番組ではないので空腹を抱えながら待ちました。
目安としては、牛乳に浸かった大陸棚の部分がスプーンですぐ崩れるくらいまでです。しっかり浸かるとホロホロに崩れるのです。そして中央の上を押すと、土台が脆弱になっているので割れることになります。
中央が割れたら全体に崩れるので、全体に浸かるように大陸を沈没させます。牛乳を並々入れると溢れてしまうので、少し抑え気味に。しかしあまりに抑えると甘食が吸ってしまって充分ひたひたになりません。この量、ちょっと難しいです。
浸して、しばらくしたら食べ始めます。
初めてこれを作ったとき、やわらかくて痛みを感じず、そしてまた美味しくてあっという間に食べてしまいました。
この時は病院食のように考えていました。数日間食べ物を味わうどころではなかったので、痛みがない分美味しく感じたのだろうと。しかしこれ、のどが回復してから食べてみても、とても美味しいのです。
これはリヨンさんの甘食の、そのまま食べるのとは別の魅力を引き出したな。そう考えるようになりました。なにしろ、1個だけだともの足りないのです。リヨンさんにとっては、ひと工夫入れての味の絶賛はちょっとどうかと思われるかもしれません。ただ、ぼくにはとても合ったようです。
これが発見できたのは、リピートしていたからです。リピートの品だからストックしてあって、味も知っていた。また、「お初」の品じゃないので、冒険してみる気になったのです。やはり初めて購入したものは、買った状態のまま食べたいので。
こういう発見があるので、リピートも悪くはないなぁと思います。他にも、焼いてみたり、バターをちょっと塗ってみたりしたら、さらに美味しくなったということもありました。
ついでに書いておくと、他の甘食を牛乳に浸してみましたが、美味しくなりませんでした。浸してさらに美味しく化けたのは、リヨンさんの甘食だけでした。