「虎」モチーフの寅年年賀状デザイン、そして干支年賀デザイン12年の総括。
毎年、あくまで趣味レベルながら年賀状を自分でデザインし、
作るようにしている。
コンセプトとしては、干支の漢字をベースに、その干支の動物に見えるように筆でデザインを行う、という具合だ。
noteには2019年から記録し始めているので4回目になる。この試み自体はとはいえ大学時代から行なっているのでかれこれ12年目。そう、遂に干支を今年で一周してしまった。
以下過去のまとめにも沿う形になるが、今年のデザインの過程を記録していきたいと思う。
背景: なぜ年賀状のデザインを始めたのか
始まりは大学の3年時。ヨーロッパを40日間単身バックパックして、色んな国々の人たちと知り合った。帰国後、旅先で助けてくれた、話しかけてくれた友人たちのお礼に何か日本的なものを送りたいなと思ったことがそもそもの始まり。
ただ、単純に既存の年賀状を送るだけではつまらないなと思い、せっかくなので何かもっと日本的にできないかと、記憶が定かではないがとりあえず筆を使って書いてみようと思い立った。(振り返れば、筆自体は日本に根ざしている訳ではないが。まあ雰囲気である。)正確には使ったのは筆ペン。習字に関しては小学校時代に「止め」「払い」を授業で習ったくらいの素人だが、若さと勢いだけはあったのか、とにかく送りたいという気持ちで取り掛かった。
コンセプト: どの様な方針でデザインしたか
※「コンセプト」という言葉は非常に抽象度が高く解釈の幅が広い魔物的なワードなので避けるべきかもしれないが、自分としては「ベクトル=方針、方向性」という意味でここでは捉えている。
とりあえず筆ペンを使い、当時2011年の干支の「うさぎ(卯)」を書いてみよう、と思って色々書いてみた所、下記の様な、なんとなくうさぎっぽい形に着地したので採用したのを朧げに記憶している。
ここでの取り組みは今改めて振り返ると、後付け的ではあるが、
「独自性」と「普遍性」の掛け合わせと捉えられるのではと思っている。
どういうことかというと、
・欧米の人から見た「独自性」=ここで言う東洋の「漢字」(筆感)
と
・世界の誰もが理解し得る「普遍性」=ここでいう「動物」
の掛け合わせ、という感じである。
結果的に、このデザインを海外の友人達がとても気に入ってくれたのもあり、翌年、さらに翌年と同様のコンセプトで続けていき、そうして今年で12年目となる。(過去のデザインは最後にまとめて掲出したいと思う)
一貫して「干支の動物」と「漢字(筆ペン)」の掛け合わせでこれまでやってきたのだが、数種類が溜まった頃から「なんとか12種類の干支をこのコンセプトでやりきってみたい」「きっとやりきった時の全干支デザインを眺めるのは言い知れぬ達成感につながるはず」という自我が芽生えてしまった。いずれにおいても年末のみ、数日間の内に取り掛かり終えるという意識のもとに取り組んでいる。
今年のデザイン:デザインの思考過程(写真多め)
前置きの駄文が長くなってしまったが、今年のプロセスを簡単に。
❶対象物(漢字)を見る・調べる
今年の干支「寅」という漢字を見たり、成り立ちや、意味を調べる。「虎」の漢字もありかなとも思っていたので、両方を頭におきつつ進めた漢字だ。
あくまで基礎情報としてのインプットだが、書いているうちに思いもよらずインスピレーションのヒントになることも。
わかったのは、「寅」は人が弓を引く型から形成したらしく、干支を表すのはやはりこちらの漢字。一方で「虎」は生物・動物としての「トラ」を表す際に使用するとのこと。まあそうだよな、と。ただ型にはめすぎないことはこの取り組みで意識していることなので、いずれかで着地できればよいかなと思い進めてみた。
❷対象物(動物)を見る・調べる
文字通り、「トラ」の写真を見る。とにかく色々見る。
見栄えを気にせず、とにかく自由に色んな方向に書いてみる。この時はどう虎に見えるかはそこまで意識しない。ただ書いているとなんとなく「縞の模様」「(口を開けたときの)牙」「耳元」などを特徴的にしていくと「虎」っぽくなるような感覚を得る。
❹ 対象の動物の特徴を意識して漢字(「寅」)を書いてみる
上述した、虎の顔の縞や口元の牙などを意識して書いてみた。
この特徴点を探すという作業は、全行程の中でおそらく圧倒的に重要だと思う。なぜなら、僕らが、他人を他人と区別できるのは、その人ならではの特徴(鼻でも口でも目でもなんでもいいが、様は「差別性」)があるからである。同様にして当たり前だが、「トラ」として認識してもらうには、「トラらしさ」を尖らせることが不可欠である。言わずもがな、差別性をどう磨くかは、エンタメ(例えばキャラクター作り)においても重要さは変わらぬと考える。
そんな感じでとにかく色々書いた。特徴が簡略化されているトラのキャラクターデザインも参考にした。タイガーマスクなどはまさにそうだ。
そうして色々書いてみたのだが、なんとなくいけそうな感触も得た(下記の真ん中の右上のとか)ただ、顔を正面でみたときのデザインよりは、なんとなく「トラ」の持つ躍動感みたいなものを出したいなとも思った。加えて中華件の友達も多いので「虎」という漢字と動物的な動きをつなげた方がわかりやすいかなとも思い、総合して「虎」に軸を移すことを決めた。(並行してトライする中で「虎」でもなんとかなるのでは、というイメージがあったのもある。※右の中央のトライのように、牙をうまく際立たせれば行けるのでは、という感じだ)
改めて、虎の画像だけでなく、虎の屏風絵なども色々見てみた。
虎をイメージすると、なんとなくこの長谷川等伯の虎が崖?の上から右向きにたたずむ姿を連想していた。虎という漢字を見ると、やはりこのイメージにもあてはまるので、最終的なこんな形に落とし込めないかと思い、書き続けてみた。
❹ 対象の動物の特徴を意識して漢字(「虎」)を書いてみる
色々筆ペンを遊ばせつつ、「牙」や口元を意識してとにかく書いてみた。既に書いてはいたのだが、なんとなく「型」みたいなものが見えてくる。(七の上部で頭を、下部で体を描く)そうした中で、右側にあるように、なんとなく頭を少し太めにしていけば、それっぽい感じが増すのではないか、という感触を得る。
❺「型」を意識して、ひたすら精度を上げる。
あとはひたすら、自分が理想の着地点と想定する書き味が出るように何度も書いてみる。理想としたのは、漢字の「虎」の余韻を残しつつ、動物の「虎」っぽく見えること、である。(が、書いても書いてもなかなかいい感じにならず。むしろ骨っぽくしかならない(·∀·)....詰む!、という焦りも。)
色々書いている中、頭を太くしてみると虎っぽく見える?のではということを思い出し、太筆に変えて色々試してみた。その結果、頭部に関しては良さげな感じになった。筆がかすれる感じと下顎の動きがようやく出せた印象だ。
❻「型」を意識して、ひたすら精度を上げる。(微修正)
上部はできたので、下部をひたすら書く。(東村アキコ先生の「かくかくしかじか」の日高先生の「書け」という言葉が頭をこだまする...)
そして以下の下段。左足の丸みが猫足の柔らかさと尾のすれ感が良い感じになったかなと思い、(時間的にも大晦日朝4時とかになったので)これでいこうと決めた。
❼ Photoshopにて組み合わせ・微修正
トライした中でベストな見た目かなと思える筆致のあるパーツをPhotoshopで組み合わせ。(今回だと上述した上下)
※本格的な書道ではないので、一筆書きには別段こだわっていない。(書道の精神からしたら超反則なのは承知している。。)というよりもなかなかベストなパーツを一筆で書き上げる技巧もないため、photoshopで最も良いと思うパーツを組み合わせている。あくまでトータルでの見た目を優先。
以下、完成版。
photosohopだと、筆致の黒い部分だけを100%綺麗にトレースすることが難しいので、下部の足の部分は多少角ついてしまうのが残念だが、許容範囲とした。太筆で最後はトライしたので例年ほどシャープな印象はないが、最低限、虎感を出す所には到達できたようには思う。
まだまだ時間をかければもっとよくなるのでは、という所もあるが、年末だけの制限時間内での試みとした。デザインだけに関してはおそらく計3日、総合で9-10時間位かかったのではと思われる。※ずっと一人で進めていると必ず思考が客観性を失ってくるので、1日おいて改めて俯瞰する様にし、適宜別作業に取り掛かり戻るなどしてみた。客観性を維持しつつ進めることは何においても非常に重要なプロセスだと思う。
総括:改めて年賀状をデザインする意味とは
2019年にこのnoteを書いたときの内容も見返しつつ、この12年続けてきたことを振り返ってみたい。
まず、この12年のデザインを。
卯年から初めてついに干支の全てが揃った。厳密には干支の漢字を戌年と寅年は使えてないので、いつかは更新にチャレンジしてもよいかなとは思うが、ひとまずは、ワンコセプトでやり切った自分にお疲れと言いたい。いやあ、本当に、感慨深い。
(個人的なマイベスト3は、子、亥、羊、かなー)
そして年末だけの創作活動と位置付けた本取り組み。毎年限られた時間がある中で、なんとか自分がある程度納得できる形のデザインに昇華できたことは良かったなと、ある種ほっとしている。
正直毎度、最終的にどういった形でデザインが着地するかは見えていなかったが、数年続けたあたりからきっとなんとかなる!という多少の経験から来る謎の自信により、うまくいかない時もトライすることができた気がする。
色々な方向に書いてみる中で、対象の動物へと似せる何かしらの形が徐々に見えてくる(自分の中でのブレークスルーが起こる)瞬間が最も楽しかったりもした。
昨今では、デジタル化が進む中で、年賀状を書かなく人も増えているだろう。自分も手書きにいつまでこだわるかは正直わからない。とはいえ、年末年始、こうして一年お世話になった人の顔を浮かべ、新しい一年の希望を願う習慣はとても良いことだと思うし、こうした時代だからこそ、そうして紡がれる言葉に、きっと意味があるのだと思う。
改めて12年を振り返ると、何よりももらってくれた友人・知人、会社の仲間、デザインを気に入ってくれた人たちの言葉(特に海外の友人ほど喜んでくれたり)が本当に嬉しかった。
創作って楽しい。
(時に苦しいけど 笑)
年末年始、シンプルにそのことに気がつかせてくれた、
そんなきっかけを与えてくれた海外の友人たちと、
留学やバックパック旅をいつも応援してくれた祖母、
そして家族に改めて感謝。
お読みいただきありがとうございました。
完。