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スクールカウンセラーの効果
日本でもいじめ・不登校に関連してスクールカウンセラーの配置が促進されていますが、スクールカウンセラーは実際、児童生徒にどのようなプラスの影響を及ぼすのでしょうか?
小学校における学力向上や問題行動減少へのスクールカウンセラーの効果を検討したアメリカの研究を紹介します。
キーテーマ
スクールカウンセラー
結論
スクールカウンセラー配置は、児童の学力向上や問題行動の減少に効果的であった。
スクールカウンセラーを1人追加で雇用することは、各教師の質を向上(0.3標準偏差分)させることと、児童の学力向上に対して同じ程度の効果があった。
スクールカウンセラーを1人追加で雇用することは、教師を1人追加で雇用してクラスサイズを小さくすることより、児童の学力向上に2倍程度の効果があった。
研究デザイン
アメリカのフロリダ州における1995/1996年から2002/2003年にかけての小学校における学力やスクールカウンセラー配置データを用いて、回帰分析が行われました。
前提として、今回、効果検証の対象となった「スクールカウンセラー配置」はカウンセラーを目指す大学院生のインターンシップによる配置を指します。
分析の対象となった学校では、既にフルタイムのスクールカウンセラーが1人、全校に配置されており、それに加えて、大学院生を配置することで児童の学力や問題行動にどのような影響があるのかが検証されました。
また、今回の研究では、スクールカウンセラーの役割は
社会情緒的発達・子ども同士の関係・薬物使用・学力向上のためのスキルに関する授業を行うこと(主な役割)
教師との相談の上、個別・小グループでのカウンセリングを行うこと(追加的役割)
とされています。日本においてはカウンセリングが主な役割となり、児童に対する授業を行うことは少ないため、同じ「スクールカウンセラー」という名前でも役割がやや異なることに留意が必要です。
結果
スクールカウンセラー配置による児童の学力向上や問題行動減少への効果
スクールカウンセラーを1人追加で配置することは、児童のテスト成績を0.85%(0.3標準偏差)向上させる効果があった。特に男子児童の学力向上に効果的であり、女子児童の学力向上へは非常に限定的な効果が見られた。
スクールカウンセラー配置は、児童の問題行動を男子の場合20%、女子の場合29%削減した。
スクールカウンセラー配置と他の施策の効果度合いの比較
過去の分析より、教師の質が1標準偏差向上することにより、テストの成績が10%向上ことが分かっている (Buddin and Zamarro, 2009; Kane, Rockoff, and Staiger 2008; Kane and Staiger, 2009; Rivkin, Hanushek, and Kain, 2005)。過去の分析と当論文の結果を踏まえると、スクールカウンセラー配置による効果は、各教師の質を0.3標準偏差向上させることと同じ程度の効果があると言える。
過去の分析より、クラスサイズを7人減らすことにより、テストの成績が4%向上することが分かっている (Krueger, 1999)。過去の分析と当論文の結果を踏まえると、スクールカウンセラーを1人追加で雇用することは、教師を1人追加で雇用してクラスサイズを小さくすることより、児童の学力向上に2倍程度の効果があると言える。
留意点
上述通り、同じ「スクールカウンセラー」という名前でも、今回、分析された対象のスクールカウンセラーと、日本のスクールカウンセラーでは、求められる役割がやや異なることに留意が必要です。
また、分析において児童の特徴(家庭における暴力、人種、性別、ランチ補助の対象か、家計収入の地域平均)や学校の特徴(人種、性別、ランチ補助の対象か、学校サイズ)は考慮されていますが、あくまで回帰分析であり、測定されていない因子による影響は否定できません。
エビデンスレベル:ケーススタディ(比較対象あり)
※「エビデンスレベル」に関してはこちらの記事をご参照ください。
編集後記
日本でもいじめ・不登校に関連してスクールカウンセラーの配置は促進されていますが、当記事の筆者が確認する限り、その効果を検証した研究は見つかりませんでした。
学校の働き方改革の文脈でも、教員以外の専門職や教員を補助する立場を学校に増やそうという追い風はありますが、効果検証がない限り、予算を取るにあたって、どの程度の配置が必要なのか妥当性を主張しにくいのではないでしょうか。学校の人員配置に関する適切な効果検証が増えることが望まれます。
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過去記事のまとめはこちら
文責:井澤 萌
Carrell, S. E., & Hoekstra, M. (2014). Are school counselors an effective education input? Economics Letters, 125(1), 66–69. https://doi.org/10.1016/j.econlet.2014.07.020