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頑張りたくてもどうにもならない時
為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり
米沢藩九代目藩主、上杉鷹山の超有名な一句ですね。上杉鷹山を知らなくとも、言葉は聞いたことがあるという方は少なくないでしょう。
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この俳句の中の、「成らぬは人の為さぬなりけり」という言葉は、現代訳すると「できない(結果が出ない)のは努力をしていないということだ」という意味になります。一般的には、「成功しないのは自分が努力をしていないから。だから頑張らないといけないよね」という自責的な意味合いで解釈されることが多いですよね。
上杉鷹山の真意はさておき、今日はこの言葉を心理学の超有名な実験に基づいて、再解釈してみたいと思います。
*ひと昔前の実験ということで、一部動物に対する残酷な行為が伴います。ご留意ください。
結論
自分の行動が無意味な状況に一定時間置かれ続けると、状況が変化した後も行動を起こすことが難しくなる。
この現象を学習性無力感(Learned Helplessness)と呼ぶ。
実験内容
*読みやすさのため、実験内容を要約してお伝えしています。
30匹の犬を対象に、以下の実験を行った。
犬を以下の3つのグループ(グループA、グループB、グループCと呼びます)に分ける。
フェーズ1:調教フェーズ
各グループの犬に、それぞれ以下の操作を行う。
グループA:犬の体を頭以外が動けないように固定し、体に30秒間電流を流す。犬の頭の左右には固定されたパネルが設置されており、犬が頭でパネルを押すと電流がすぐに止まる仕組みになっている。繰り返し電流を流し続け、犬が電流を止めるためにすぐにパネルを押すことを覚えるまで繰り返す。
グループB:グループAと同様の装置に犬を固定するものの、こちらの装置はパネルを押しても電流が止まらないようになっている。この状態で犬に7回~8回程度、30秒間の電流を流すことを繰り返した。
グループC:何もなし。
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フェーズ2:テストフェーズ
24時間後、全グループの犬に対し、以下の操作を行う。
犬を箱型の装置に入れる。装置の床からは電流が流せるようになっている。装置の箱の中央には犬が飛び越えられる程度のハードルが設置されており、犬がハードルを飛び越えると電流が自動的に止まるようになっている。電流を一定時間流し、その都度犬がハードルを飛び越えるかどうかを観察することを繰り返した。
実験結果
テストフェーズで電流を止めるためにハードルを飛び越えることを覚えることができなかった犬の割合をグループごとに比較すると
グループA(調教フェーズ中に電流を止める術を覚えた犬):0%
グループB(調教フェーズ中に電流を止める術が与えられなかった犬):75%
グループC(調教フェーズ中がそもそもなかった犬:12.5%
となった。
以上の結果をもって、以下の結論が導かれた。
自らの行動が意味を持たない・抵抗が出来ない環境に一定時間置かれると、その後打開可能な状況に置かれた際にも行動を起こすことが困難になる。
平たく言うと、「何をやっても無駄だ」という感覚がしみついてしまう、ということですね。
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エビデンスレベル:比較実験
編集後記
上杉鷹山の言葉に戻りましょう。「成らぬは人の為さぬなりけり」・・・「結果が出ないのは、努力をしていないということだ」。ここでの「為さぬ」とは「自ら為していない」のか、「為すことが出来る精神的状況にない」のか、どちらを意味しているのでしょうか?どんなに頑張っても結果につながらない、認められない、という状況が続いてしまうとやる気の有無にかかわらず努力をすることが難しくなってしまいます。自分が頑張らなければ、という自責の念ももちろん大事ですが、足踏みする時間が長引いてしまっている場合は、自分が頑張れる状況にないのかもしれない、ということを俯瞰して考えてみることもいいかもしれません。時には他責も大事ですね。
文責:山根 寛
Seligman, M. E., & Maier, S. F. (1967). Failure to escape traumatic shock. Journal of Experimental Psychology, 74(1), 1–9. https://doi.org/10.1037/h0024514
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