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教育エビデンス:ソーシャル エモーショナル ラーニング(社会性と情緒に関する学び)の効果

ソーシャルエモーショナルラーニング(社会性と情緒に関する学び)をご存知ですか?例えば、ある子どものストーリーを聞いて自分が何を思ったか・登場人物が何を感じているかを言語化する活動などを通じて、自己や他者への理解を育み、感情をコントロールする力を伸ばす試みです。学習成果や長期的な心身の健康を促進するのに効果的だとして、注目が年々高まっています。

ソーシャルエモーショナルラーニングは実際に効果があるのでしょうか。ある場合、どのようなプログラムが効果的なのでしょうか?
アメリカを中心とした213の先行研究を分析したメタアナリシスをご紹介します。

※ソーシャル エモーショナル ラーニング=Social Emotional Learning
SELと略されることもあります。和訳:社会性と情緒に関する学び

キーテーマ

ソーシャルエモーショナルラーニング(社会性と情緒に関する学び)、メタアナリシス

結論

学校で実施されたソーシャルエモーショナルラーニングは、社会性と情緒に関するスキルの向上、社会的態度・行動の促進、問題行動や感情的苦痛の減少、学習成果の向上に効果的であった。
特に、外部の人間ではなく教員が実施したプログラムや、適切にデザインされ実施されたプログラムが効果的であった。

実験デザイン

社会性と情緒に関するスキルの向上を目的とし、小中高で実施された213のプログラム(例えば、ある子どものストーリーを聞いて自分が何を思ったか・登場人物が何を感じているかを言語化する活動)が、以下6つの領域に対して、どれほど効果的だったか平均値を算出した。

1) 社会性と情緒に関するスキルの向上
2) 自分自身と他者に対する肯定的な態度の促進
3) 前向きな社会的行動の増加
4) 問題行動の減少
5) 感情的苦痛の減少
6) 学習成果の向上

加えて、a) 各プログラムが誰によって実施されたか、b) 親や学校全体への働きかけを含んだか、c) 以下4つの推奨方法(SAFE法)に則っているか、d) 実施における課題が存在したかを評価し、具体的にどのような介入が効果的かも検討した。

1) Sequenced: 一連の活動を関連付け、調整しているか。
2) Active: 積極的な学習への参加を促す方法を用いているか。
3) Focused: 個人的・社会的スキルの向上を第一目的とした要素が少なくとも1つ含まれているか。
4) Explicit: 一般的なスキルや能力開発ではなく、特定の社会性と情緒に関するスキルを対象としているか。


結果

6つの領域全てにおいて平均的にプログラムは効果的だった。特に、社会性6つの領域全てにおいて平均的にプログラムは効果的だった。特に、社会性と情緒に関するスキルが大きく向上した。また、プログラム実施後6ヶ月経ってもプログラムの効果は継続していた。

大学の研究員や外部コンサルタントでなく、教員が実施したプログラムに限定しても、6つの領域全てにおいて効果的であった。一方で、大学の研究員や外部コンサルタントが実施したプログラムは3つの領域(社会性と情緒に関するスキルの向上、自分自身と他者に対する肯定的な態度の促進、問題行動の減少)でのみ効果的であった。

親への働きかけ(社会性と情緒に関するスキルの向上に関する宿題を子どもと行う、親向けトレーニングへ参加するなど)や学校全体への働きかけ(学校全体での方針を策定するなど)を含むプログラムは、教室でのプログラムのみの場合と比べても、効果が大幅に増加することはなかった。むしろ、親や学校全体への働きかけを含む場合、2つの領域(社会性と情緒に関するスキルの向上、前向きな社会的行動の増加)に関して、効果が見られなかった。

SAFE法を全て用いたプログラムは6つの領域全てにおいて効果が見られた。一方で、SAFE法を用いないプログラムは3つの領域(自分自身と他者に対する肯定的な態度の促進、問題行動の減少、学習成果の向上)でしか効果が見られなかった。

プログラム実施において何かしらの問題があった場合、2つの領域(自分自身と他者に対する肯定的な態度の促進、問題行動の減少)でしか効果が見られなかった。

留意点

今回、紹介したメタアナリシスに含まれる研究の87%はアメリカを対象としたものであり、他の文脈にどの程度応用できるかは解釈に留意が必要です。
例えば、アメリカでは、日本よりも「文化的・言語的に多様な児童生徒が集まるクラスルームにおいて学びを保障する」ことへの課題感が大きく、その課題に対処するためにソーシャルエモーショナルラーニングが促進されてきたという背景があります。このような社会背景を理解した上で、研究成果を解釈する必要があるでしょう。
加えて、今回、対象となったプログラムは1955年から2007年に成果が発表されたものであるため、社会背景が少し古い点にも留意が必要です。
また、対象となった213のプログラムのうち、より結果の妥当性が高いとされるランダム化を用いたプログラムは47%でした。研究デザインによって今回の結果が変わる可能性もあります。


編集後記

外部の人間より教員が実施したプログラムの方が効果が現れる領域が多いというのは、児童生徒を日ごろから理解している教員の方がソーシャルエモーショナルラーニングを促進するのに適していると解釈することができるかもしれません。
なお、親や学校全体への働きかけを加えた場合、効果が現れる領域が少なかったという結果に関して、筆者はプログラムの要素を増やした際、SAFE法に則っているプログラムが少なくなったこと、実施における問題がより多くなったことが一因ではないかと述べています。
SAFE法に則ったプログラムや実施において問題が起こらなかったプログラムにおいて効果が現れる領域が多かったという結果は、プログラムが適切にデザインされ、実施される重要性を示しています。
今回のメタアナリシスは、きちんと設計されたプログラムは、社会性と情緒に関するスキルだけでなく、学習成果も向上させることを示しました。ソーシャルエモーショナルラーニングは費用に対して効果が高いという研究結果もあることから、当領域への研究・投資が進むことが望まれます。

文責:井澤 萌

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過去記事のまとめはこちら


Durlak, J. A., Weissberg, R. P., Dymnicki, A. B., Taylor, R. D., & Schellinger, K. B. (2011). The Impact of Enhancing Students’ Social and Emotional Learning: A Meta-Analysis of School-Based Universal Interventions: Social and Emotional Learning. Child Development, 82(1), 405–432. https://doi.org/10.1111/j.1467-8624.2010.01564.x


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