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自律的な学習を促進するには?

「自己調整学習」(self-regulated learning) という言葉をご存知でしょうか?
学習者が「言われたことをやる」ではなく、自分自身の学習のゴール・過程を自分で設計し、自律的に学ぶ学習スタイルを指します。
この言葉が直接的には使われていなくても、日本の学校現場では、学習習慣をつけることを目的とした取り組みや、自分で目標を立てる・振り返りをするといった取り組みが多くされているのではないでしょうか。
特に、オンライン学習が進む中で、このような学習スタイルの重要性も増してきていると思います。

今回は、自己調整学習への効果的なアプローチ方法は、教育段階によって異なるとするメタアナリシスを横断検討した論文 (Panadero, 2017) をご紹介します。

キーテーマ

自己調整学習

結論

自己調整学習の教育効果を高めるには、教育段階に応じて異なる介入が必要である。

  • 小学生など、教育の早い段階では社会的認知理論に基づく介入が有効である。

  • 中学生や高校生など、より成長した段階ではメタ認知モデルに基づく介入が有効である。

  • 大学生に対しては、モチベーション・感情モデルに基づく介入が有効である。

研究デザイン

以下、3種類のメタアナリシスを横断検討した。

  • 自己調整学習に関するメタアナリシス (Dignath and Büttner, 2008; Dignath et al., 2008; Sitzmann and Ely, 2011)

  • 学習スキルに係る介入に関するメタアナリシス (Hattie et al., 1996)

  • 大学生のGPAへ影響する因子を検討したメタアナリシス (Robbins et al., 2004) 

結果

※実際の論文では、6つの自己調整学習に関するモデル (Zimmerman; Boekaerts; Winne and Hadwin; Pintrich; Efklides; and Hadwin, Järvelä and Miller) が詳細に紹介されていますが、今回は、学習段階に応じた自己調整学習に関して検討している部分と、それに紐づくモデルに焦点を当ててご紹介します。

結論 1. 小学生など、教育の早い段階では社会的認知理論に基づく介入が有効である。

社会的認知理論 (socio-cognitive theory) は、BanduraやZimmermanが発展させてきたモデルです。
最も知られたZimmerman提唱のモデルは、以下のような、見通しを持ち (Forethought Phase) 実行し (Pherformance Phase) 内省をする (Self-Reflection Phase) という循環的な3段階を示したもの (Cyclical Phases) となっています。

社会的認知理論に基づく介入の例として、読解力向上を目指した”Becoming a text-detective”(文章の探偵になろう)(Souvignier & Mokhlesgerami, 2005)が挙げられます。このプログラムでは、自己調整学習と認知力向上のプログラムを組み合わせており、自己調整学習においては、例えば、ゲームを通して、自分のスキルに合わせて<現実的な>ゴールを設定するといった活動が組み込まれています。また、プログラムを通して、成功の鍵は自分自身の努力にあることが強調されます。

社会的認知理論に基づく介入が、小学生など、教育の早い段階で有効である理由として、社会的認知理論が内包するモチベーションや感情といった点は、初等教育段階で特に顕著な影響を与えるからではないかと指摘されています。
また、包括的で、理解しやすいモデルであることから、このようなモデル児童生徒や教員に提示されたとき、より大きな好影響があるとも述べられています。

結論 2. 中学生や高校生など、より成長した段階ではメタ認知モデルに基づく介入が有効である。

メタ認知モデルとして、本論文はWinne and Hadwin, Efklidesを紹介しています。

Winne and Hadwinによるモデルは、以下のような4段階からなるものです。

  1. 課題を理解する

  2. ゴールを設定し、計画を立てる

  3. 学習戦術・戦略を実行する

  4. メタ認知的に学習に適応する(学習後、長期的な将来の動機、信念、戦略を変化させる)

学習者個人の中でどのような認知的処理が行われているかを詳しく示したものが以下の図となります。特に、ゴール設定や測定・評価に基準を用いることが重視されています。
本論文の筆者は、学習者の感情に関する言及が全くないこと、モチベーションに関しての想起のみがあることを指摘しており、上述の社会的認知理論 (socio-cognitive theory) との違いが見て取れます。

一方、Efklidesによるメタ認知モデルは感情・モチベーションに、より焦点を当てています。
このモデルは、1) 学習者個人のゴール設定によって左右される個人レベル(トップダウン)、2) 課題の要求レベルによって左右される課題×個人レベル(ボトムアップ)の2段階で構成されています。

なお、メタ認知モデルが中学生や高校生段階で有効な要因としては、中学生や高校生は(小学生より)より具体的な学習戦略を必要とする認知的負荷が高い課題に取り組むからではないかと指摘されています。

結論 3. 大学生に対しては、モチベーション・感情モデルに基づく介入が有効である。

モチベーション・感情モデルとしては、Boekaerts, Pintrich, そして上述のZimmermanが紹介されています。
Boekaertsのモデルは、「ゴール」が自己調整学習にどのような影響を及ぼすのか(例:自己調整学習に関連付けて、生徒は異なる種類のゴールをどのように使っているのか)に着目しており、1) 習得・学習モード、2) 対処・ウェルビーイングモードの2種類の「ゴール」を提示しています。前者は学習内容を習得することに重きを置いたゴール、後者は課題に対処することに重きを置いたゴールとなります。

Pintrichによるモデルは、1) 見通し・計画・活性化、2) 測定、3) コントロール、4) 反応・反省の4段階から成っています。

本論文の筆者は、大学生のGPAの最良の予測因子は、学業上の自己効力感や学業達成に対するモチベーションである (Robbins et al., 2004)ことなどを受け、大学生にモチベーション・感情モデルが有効だとしています。

留意点

日本など、異なる文脈に応用する際は、それぞれのメタアナリシスの対象となっている論文に制限がある(例:英語論文のみ)点に考慮が必要です。

エビデンスレベル:メタアナリシス

編集後記

それぞれのモデルは抽象的で、どのように実践に生かすべきか分かりにくい部分もあるかもしれませんが、学校で実施する取り組みがどのような要素を含んでいるのか、あるいは含んでいないのか振り返る(e.g., 小学生向けの取り組みにおいて、モチベーションや感情が考慮されてるのか?)のに役立つのではと思い、今回、ご紹介させていただきました。

個人的には、小学生ではモチベーション・感情が大事、中学生・高校生ではメタ認知、そして大学生ではまたモチベーション・感情に戻ってくる点が興味深いなと思いましたが、論文内では言及されていませんでした。メタ認知的活動を行う際、どのようなサポートがあったのかが影響している可能性など考慮する必要があるかと思います。

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過去記事のまとめはこちら

文責:井澤 萌

Panadero, E. (2017). A Review of Self-regulated Learning: Six Models and Four Directions for Research. Frontiers in Psychology, 8, 422. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.00422



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