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アメリカでは半数が受けている!?校長を支えるリーダーシップ・コーチングの効果

学校の校長の職務は、近年ますます複雑さを増しています。
校長には単なる管理者ではなく、学校全体を率いるリーダーとしての側面も求められるようになりました。
特に米国では、2001年に「どの子も置き去りにしない(No Child Left Behind)法」が施行され、校長の責任はさらに拡大しました。
カリキュラムの理解、家庭やコミュニティへの説明責任、教員の採用とマネジメントなど、その職務の幅広さは驚くべきものです。

研究によれば、優れた校長は、生徒の学力を1年間で通常よりも2〜7か月分伸ばすことができる一方で、低パフォーマンスの校長は生徒の学力を同じくらい低下させる結果に繋がることが示されています。
これほどの影響力を持つ校長の職務をどのように支援できるのか、その手段として注目されているのが、ビジネスやスポーツ界で成果を上げているリーダーシップ・コーチングです。
本論文では、このリーダーシップ・コーチングが校長にとってどのように役立つかをご紹介したいと思います。


キーワード


コーチング、校長、学校管理職、リーダーシップ


結論


米国の公立学校の校長を対象に、リーダーシップ・コーチングについてのアンケート調査を行った結果:

  • 全校長の約50%がリーダーシップ・コーチングを受けたことがあるか、現在受けていると回答した

  • リーダーシップ・コーチングが有益になるかどうかは、コーチングの時間や頻度、自主的に依頼したかどうかが関係していた

  • 回答者はコーチングが自分にとって有益であり、かつ生徒の成績も向上させることにつながったと感じていた




問い


  • 米国において校長のリーダーシップ・コーチングの普及度はどの程度か?

  • コーチングを受けている校長の特徴は何か?

  • コーチングにおける関係性の特徴は何か?

  • リーダーシップ・コーチングと校長の成果の間に関係はあるか?


研究デザイン


米国全土の公立学校校長の代表サンプル(n = 10,424)に調査票を送付し、量的および質的データを収集した。

国立教育統計センター(NCES)の最新データによると、米国には合計89,810人の公立学校校長が存在していて、教育市場調査会社Market Data Researchと契約し、そのうち約10,000件の公立学校校長のメールアドレスを無作為に選定した。選定されたメールアドレスは小学校校長が65.5%(6827件)、中学校校長が14.5%(1509件)、高校校長が20.0%(2088件)で、合計10,424件になる。最終的に1,361件の有効回答が得られ、内訳は小学校(835件/61.9%)、中学校(191件/14.2%)、高校(323件/23.9%)で、全体の回答率は13%だった。なお、全米のすべての州から回答があった。


内容


米国において校長のリーダーシップ・コーチングの普及度はどの程度か?


同じ学校で働いていない人物からのコーチングまたはメンタリングを受けたことがあるかという問いに対して:

  • 659名の校長(48.9%)が「はい」と回答

  • 690名の校長(51.1%)が「いいえ」と回答

  • 12名は無回答


コーチングを受けている校長の特徴は何か?


校長の経験年数、学校の所在地、および地域は、公立学校の校長がコーチングを受けているかどうかに影響していた。

現職5年以下の校長と、都市部の校長はコーチングを受けている割合が高いことがわかった。
また、太平洋地域(ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州、ハワイ州、アラスカ州)は63.5%と校長がコーチングを受けている割合が高いのに対し、東北中部地域(インディアナ州、オハイオ州、ミシガン州、イリノイ州、ウィスコンシン州)の校長は30.8%と割合が低かった。

学校の種類(小中高)・規模・校内の生徒の成績や卒業後の進路、校長の性別・エスニシティについては有意な相関関係は見られなかった。


注)この結果は、コーチングを受けている校長の特徴を現状として示しているものであり、コーチングの効果が最も高い校長の特徴を示しているわけではありません。アメリカにおいては、経験が浅く助けを求めやすい若い校長や、情報が豊富に入ってきやすい都市部や太平洋地域の校長が、コーチングを受ける機会に恵まれやすいと推測されます。


コーチングにおける関係性の特徴は何か?


一つ目の問いでコーチングを受けていると回答した校長にのみ、追加でコーチングについての質問があった。

  • コーチングの頻度は月1回(35.3%)が最も多く、次いで月2回(21.7%)だった。コーチとの接触頻度が高いほど、コーチの効果が高く評価される傾向があった。

  • コーチングセッションの長さは1~2時間(48.1%)が最も多く、次いで1時間未満(30.1%)だった。1~2時間のセッションを受けた校長は、コーチを高く評価した。

  • 月あたりの総コーチング時間は1~2時間(44.4%)が最も多く、次いで2~4時間(23.0%)、4時間以上(26.8%)だった。コーチング時間が増えるほど、コーチの評価も高くなった。

  • 回答者の70%がコーチングを受けるように言われて受け、30%が本人が自らコーチングを依頼した。本人が自ら依頼したコーチングの方が評価が高かった。

  • コーチングの場所について尋ねたところ、64.2%が自校で受けており、評価が最も高かった。

  • コーチング提供者と学校の「年間進歩目標」の達成度については有意な差は見られなかった。


リーダーシップ・コーチングと校長の成果の間に関係はあるか?


  • リーダーシップ・コーチングを受けた校長のうち、85%以上が「コーチングを受けた結果、より良い校長になった」と回答し、彼らはコーチを非常に高く評価した。一方、14.9%が否定的な回答をし、彼らのコーチ評価は低かった。

  • リーダーシップ・コーチングを受けた校長の約72%が「コーチングの結果として生徒の成績が向上した」と感じており、彼らはコーチの能力をさらに高く評価した。


校長は「リーダーシップ・コーチング」をどう捉えているか?


最後に、校長がリーダーシップ・コーチングをどのように定義するかを問う自由記述式の質問が設けられていた。425人の校長が回答し、その内容を分析したところ、主要なテーマとして次のようなことが挙げられた:

  • 約52%の回答者が、「支援(support)」というテーマを示した。具体的には、「支援(support)」「協力的な(supportive)」「支える(supporting)」「助け(help/helping/helpful)」「メンター(mentor/mentoring)」「手助けする(assist)」「アドバイス(advice)やアイデア(idea)を提供する」などの表現が使われていた。

  • その他にも「個人の成長と目標設定について絶え間ない対話を続けることによって特徴づけられる信頼関係」「リーダーがリーダーにリーダーシップを教えること」「評価プロセスとは結び付かない、振り返りとフィードバックを提供する方法」「私の能力に対する高い期待を持ち続け、私自身よりも私のコミットメントをより明確にして、ビジョンに焦点を当てるよう支援してくれること」などのコメントが見られた。


今後の検討事項


本研究を踏まえて、今後さらに研究が必要な領域は以下のとおり:

  • コーチングがどのようにして校長の自己効力感や意思決定力の向上に寄与し、ひいては教師の指導力向上や生徒の学力向上につながるのかについての検討

  • コーチングが校長による学校における公平性の実現や学力差の解消にどのように役立つのかについての研究

  • コーチングが、新しい学習法や政策など教育界の変化に対してどのように校長をサポートすることができるのかについての検討


編集後記


校長先生の役割は、生徒たちの人生や教師の働き方に大きな影響を及ぼす、極めて重要なものです。しかし、日々の多忙な業務の中で、自身の課題や悩みに向き合う時間を確保するのは難しいと感じる校長先生も多いのではないでしょうか。

アメリカの教育制度は日本とは大きく異なり、全国一律の学習指導要領がない代わりに、学校に大きな裁量権が与えられています。そのため、アメリカの校長先生は、まさに企業のCEOのような存在と言えるでしょう。こうした環境の中で、アメリカでは校長先生を支える体制も多岐にわたり、コーチングや大学院の専門課程など、多様な支援策が整っています。

今回の全国調査では、約半数の校長先生がコーチングを受けた経験があるという結果が示されました。この割合の高さは、「さすがアメリカ!」と驚かされます。

日本でも近年、教育界やビジネス界においてコーチングの導入が進みつつあります。「支援(support)」という言葉に抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、コーチングは自身の感情や課題に真剣に向き合うことで、新たな視点や解決策を得るための手段です。アメリカの事例を参考に、日本の校長先生もぜひコーチングを活用し、自身の課題解決や学校経営の改善にお役立てください。

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過去記事のまとめはこちら

文責:奥田麻菜美

Wise, D., & Cavazos, B. (2017). Leadership coaching for principals: a national study. Mentoring & Tutoring: Partnership in Learning, 25(2), 223–245. https://doi.org/10.1080/13611267.2017.1327690


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