マシュマロシリーズ③:我慢と文化の関係性
これまでスゴ論では何回か、「マシュマロチャレンジ」と呼ばれる実験を取り上げてきました。小さい子供の目の前にマシュマロを置き、食べることを一定時間我慢することができるかを観察する実験でしたね。
マシュマロチャレンジの実験は1970年代に初めてアメリカで行われ、子供の「自制心」なるものが心理学界隈の内外で一躍脚光を浴びる大きなきっかけとなりました。50年以上経った今も、多くの研究に影響を与え続けているまさに「スゴい」研究です。今回はマシュマロチャレンジを応用して、自制心と文化の関係性について解明した日本人のチームによる研究を紹介します。
結論
子供が自制(我慢)できるかどうかは、本人の自制心の強さや社会的影響だけではなく、子供が属している文化的習慣によっても左右される。
実験内容
*読みやすさのため、実験内容を要約しています。
*マシュマロチャレンジの実験の詳細はこちらをご覧ください。
日本人の子供80人とアメリカ人の子供58人(いずれも4~5歳児)を対象に、以下の実験を行った。実験は一人ずつ個別に行われた。
①あらかじめ子供を「マシュマログループ」と「プレゼントグループ」にランダムに振り分ける。
②子供を誰もいない部屋に案内し、机に座らせる。マシュマログループの子供の前にはマシュマロを一つ、プレゼントグループの子供の前には包装紙に包まれた小さなプレゼントを置く。
③子供が所属するグループに応じて、以下の指示を与える。
マシュマログループ:「これからおやつの時間だよ!このマシュマロを君にあげるね。私(実験者)はこれから隣の部屋からもっとマシュマロを取ってくるね。もし私が戻ってきたときにこのマシュマロがまだ残っていたら、もう一つマシュマロをあげるよ。わかったかな?」
プレゼントグループ」:「これからプレゼントの時間だよ!このプレゼントを君にあげるね。私(実験者)はこれから隣の部屋からもっとプレゼントを取ってくるね。もし私が戻ってきたときにこのプレゼントがまだ開けられていなかったら、もう一個プレゼントを上げるよ。わかったかな?」
④実験者は指示通り部屋を退室し、15分間部屋に設置されたビデオカメラで子供行動を観察する。15分間が経過する前に子供がマシュマロを食べる/プレゼントを開ける様子が観察された場合、実験者はその時間を記録し、部屋に戻り実験を終了する。15分が全て経過した場合、実験者は部屋に戻り、子供に約束通り追加のマシュマロ/プレゼントをあげたあとに実験を終了した。
*実験に参加した全ての子供がマシュマロ・プレゼントを好んでいたことは事前のアンケートで確認されています。
結果、日本人グループの中ではマシュマロを食べることを我慢できた平均時間がプレゼントを開封することを我慢できた平均時間の3倍長いことが観察された。一方、アメリカ人グループに中では真逆の傾向が見られ、プレゼントを開封することを我慢できた平均時間がマシュマロを食べることを我慢できた平均時間の4倍近く長いことが観察された。
解説
この結果について、研究者は以下のような考察を行いました。
-日本では、子供のしつけの一環として「食べることを待つ、我慢する」ということが習慣づけられている。(例えば、家族やクラス全員でそろって「いただきます」をする、等。)一方、子供がもらったプレゼントを開けることを我慢させられることは比較的少ない。
-逆にアメリカでは、「許可されるまでプレゼントを開けることを待つ」習慣がある。(クリスマス前からクリスマスツリーの下にプレゼントは並べるものの、当日まで開けないようにする、等。)一方、子供が食べることを待たされることは比較的少ない。
以上の文化的背景の相違により、日本人とアメリカ人の行動の間で実験結果が真逆になったと考えられる。
編集後記
子供時代のしつけや文化的習慣の影響力の大きさを感じる研究ですね。海外にいると、日本の給食風景(生徒が配食を行い、みんなでそろっていただきますをする様子)は非常に興味深いと言われることが多いのですが、こうした日ごろの習慣が子供たちにいかに大きな影響を与えているかと考えさせられました。まさに授業外で行われている教育の一例ですね。
文責:山根 寛
Yanaoka K, Michaelson LE, Guild RM, Dostart G, Yonehiro J, Saito S, Munakata Y. Cultures Crossing: The Power of Habit in Delaying Gratification.
Psychological Science. 2022 Jul;33(7):1172-1181. doi: 10.1177/09567976221074650. Epub 2022 Jun 24. PMID: 35749259; PMCID: PMC9437728.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35749259/