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「勝てば実力、負ければ悪運」:自己都合で考えたい

なんで今回はうまくいかなかったんだろう・・・職場ではもちろんですが、昨今の教育現場においても、振り返りの活動の重要性は増しています。振り返ってもなかなか次のステップにつなげられない方、生徒の振り返りがどうもピント外れだと感じてしまう先生、その背景にはもしかすると人間の本性があるかもしれません。今回は失敗・成功を人はどうとらえているか、ということを研究した論文を紹介します!

キーテーマ

自己肯定感・自尊心・人間の性質・ポジティブ思考・実験

主題・結論

前提:
私たちが成功・失敗を内省するとき、結果の要因は二つの二項対立に応じた4つ(2×2)のグループに分けられます。

二項対立その①:内部要因 VS 外部要因。
→結果が自分起因でもたらされたのか、外部起因でもたらされたのか
二項対立その②:変動性 VS 非変動性。
→結果の原因が今後変化する可能性が高そうか、そうでないか。

「内部要因×変動性」「内部要因×非変動性」「外部要因×変動性」「外部要因×非変動性」の4つのグループに分けられるイメージです。
例えば、とある失敗の要因を「内部要因×変動性」に分類する場合は、「今回はやる気が上がらなかった」のような理由付けが考えられます。一方で、「外部要因×変動性」の場合は「今回は運が悪かった」のような理由付けが考えられるわけです。

結論:

①私たち人間は成功体験を「内部要因×変動性」(やる気)起因と認識しがちで、「内部要因×非変動性」(実力・才能)とはあまり関連付けたがらない傾向がある。
②一方、失敗体験は実力起因と認識しがちで、やる気とはあまり関連付けたがらない傾向が見られる。
上記の傾向は、失敗したタスクの難易度に関わらず変化しない。

実験デザイン

*読みやすさのため、主要テーマに関連する要素のみを要約しています!

80人の学生を集め、個別でスクリーンに投影された影の物体が何かをあてるタスクに取り組んでもらう。合計30枚のスライドを投影し、スライド一枚の回答ごとに正解・不正解を伝え、結果の要因を「やる気」「運」「実力・タスクとの適合性」「タスクの難易度」の4つから選ばせる。

また、以下の要素を操作することで、生徒を8つ(2×4)のグループに分ける。生徒はグループが存在しているということは知らされていない。

①正答率の操作
→一つのグループは正答率が8割、もう一つのグループは正答率が2割となるように正解・不正解を伝えられる。
②問題の難易度
→投影スライドの解像度を0%, 33%, 66%, 100%とする。客観的に見た場合、解像度0%のスライド間では区別がほとんど着かなかったとのこと。

結果、正答率がより高かったグループは低いグループと比べて内部要因(やる気・実力)、及び変動性の高い要因(やる気、運)を結果の要因として挙げる傾向が見られた。また、この結果は問題の難易度に関わらず観察された。

20220202_「勝てば実力、負ければ悪運」:自己都合で考えたい (1)

まとめ

私たち人間は成功体験は自分の頑張りでもたらされ、失敗体験は自己のコントロールの及ばない理由で起きてしまったと思いたがる傾向がある。(これは自己肯定感の担保のためだと論じられている。)さらに、客観的に見て運要素が強いタスク(極めて難易度が高いタスクなど)においても、自身の成功は運以外の要因に結び付けたがる傾向がある。

留意点

今回の実験のタスクはレーダー捜査員の疑似体験として被験者に紹介されたため、「実際に存在するタスクなのであれば、運以外の要素があるに違いない」と思い込んだうえで被験者がタスクに臨んでしまったリスクがあります。

エビデンスレベル:観察研究

編集後記

「あるある」と感じた方も多いのではないでしょうか。筆者も麻雀を下手の横好きで興じることがあるのですが、勝った時は実力、負けた時は運が悪かったと片付けがちです。成功・失敗をどうとらえるかはモチベーションの研究において非常に重要なテーマの一つなので、この論文を紹介させていただきました!

文責:山根 寛

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Luginbuhl, J. E., Crowe, D. H., & Kahan, J. P. (1975). Causal attributions for success and failure. Journal of Personality and Social Psychology, 31(1), 86–93. https://doi.org/10.1037/h0076172

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