歴史的背景から考えるマーケティングの定義①
はじめに
人によってマーケティングの定義はバラバラ
仕事柄、マーケティングとは何か?を
少なくない頻度で考えることがあります。
そんな時、先人たちの言葉を参照しますが
マーケティングの定義が人によって異なっていることに違和感を感じます。
コトラー氏はマーケティングを「顧客のニーズに応えて利益を上げること※1」と定義していますが、セオドア・レビット氏は「顧客の創造※2」がマーケティングであると述べています。
一方で森岡 毅氏はマーケティングとは「価値を創造する仕事※3」と説明しています。
有名な経営学者や実務家でさえ、それぞれ異なる定義を示しているため、現場で働く多くのマーケター間で定義統一するのが難しい点は容易に想像できます。
※1.『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』
※2.『The Marketing Imagination』
※3.USJ再建の森岡毅が語る、マーケティング下手な企業に足りない3つの視点
歴史を論拠にしてマーケティングの定義を考えてみた
このような前提のもと、特定の誰かの言葉を盲目的に信頼するのではなく、歴史的事実に基づいてマーケティングの定義を整理したいと考えました。
当たり前のことかもしれませんが、個人の経験則よりも史実に基づいた定義のほうが信頼性と妥当性が高く、より健全な思考になるのかなと想定しています。
歴史から考えるマーケティングの定義
1890年代 第二次産業革命後のアメリカの歴史から考えてみる
マーケティングの歴史を説明するために、
1890年代(19世紀末)まで遡ってみたいと思います。
1890年代のアメリカは、第二次産業革命の真っ只中で製品・サービスの大量生産体制が確立されただけではなく、鉄道や電信のネットワーク整備、石油産業と自動車産業の発展も急速に進みました。
交通と通信が発達して「流通」の重要度が上がる
交通・通信インフラが発達した中で、当時のアメリカ企業は大量生産された製品を販売する為に「流通」を強化します。
流通の強化は具体的には、販売エリアの拡大や
販売チャネルの整備を指します。
1890年代、企業が売上を上げるためのビジネスドライバーは、いかに『消費者に幅広い購入機会』を提供できるかにありました。
この時期に十分な供給体制が構築できた企業は、流通網の強化を通じて、多くの消費者に商品を届けていたのではないでしょうか。
つまり、何が変化したのか?
企業を主体として、第二次産業革命以降は
以下2点の変化が見られました。
産業革命後、米国企業にはマーケティングが必要だった
このような変化の中で、米国企業は、営業や販売だけにリソースを集中投下し続けるのではなく、適切な流通チャネルを確保するなど、
売れる仕組みのアップデートが求められました。
つまり、時代背景が変化したことで米国企業は
以下の2点が至上命題になったということです。
ちなみに、1890年代が終わり、1900年代初頭に入ってから初めて学術文脈でマーケティングという言葉が使われ始めます。
語原から考えてみる
語原とはすなわち"言語の歴史"である為、
合わせて整理・考察してみたいと思います。
語源について
「マーケティング」(marketing)は、「market」に動名詞形の接尾辞「-ing」が付いた形です。下記にて詳細をまとめます。
●Market
・語源
「market」は古英語の「mercet」や「markette」から来ており、ラテン語の「mercatus」(市場、取引)に由来する。
さらに遡ると、ラテン語の「merx, merc-」(商品)に関連している。
・意味
「市場に出す」「取引する」「売買する」といった意味を持つ。
●-ing
・語源
英語における動名詞形または現在分詞形を作る接尾辞。「-ing」を付けることで、その動作や活動を継続的なものとして表現します。
・意味
「-ing」を付けることで、動詞を名詞化し、その動作やプロセス、活動そのものを指すようになります。
語原の調査から分かること
上記を踏まえると「marketing」という言葉は、「market」(市場に出す、売る)に「-ing」を付けた形で、「市場に出し続ける」「売れ続ける」といった継続的な活動を示していることが分かります。
まとめ
2つの調査から分かったこと
今回の記事ではマーケティングという言葉が生まれた米国の1890年代の時代背景と言葉自体の語源を調査しつつ、マーケティングの定義を明らかにできるか?試みました。
2つの調査から分かったことは下記2点です。
✓マーケティング ≒ 売れる仕組みを考える
1890年代は製品・サービスの「生産と流通」の限界費用が大きく低下した時代。
つまり、市場に事業者が参入しやすい環境になっていた。
そのような中で、各企業は製品・サービスを作るだけでなく、競合よりも売れる仕組みを考える必要性に駆られていたのではないか。
✓マーケティング ≒ 売れ続ける為の活動
語源や品詞から解釈すると「売れ続ける為の活動」がマーケティング定義に近いと考えられます。
外的な環境が一変した1890年代 第二次産業革命あたりの米国企業の至上命題「売れる仕組みを考える」とも整合性が合います。
マーケティングとは「売れ続ける仕組みを考えること」なのか?
前者と後者の調査から浮かび上がってきたマーケティングの定義は文章が意味していることが非常に近いと感じました。
例えば、どちらも「売れる」という動詞が先行しています。
また、2つとも「仕組み作り」や「活動」という異なる言葉を使っていますが、どちらも売れるためのアクションである点に変わりありません。
つまり、私個人としては、調査間の共通する部分を軸にまとめて「売れ続ける仕組みを考えること」がマーケティングであると解釈してもいいのかなと想像しました。
マーケティングの定義論争を誰かとするつもりは全くないのですが、考える題目として非常に面白い為、今後も頭の中で問答を続けていきたいと思います。
以上です。
引き続きよろしくお願いします。