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【読書メモ】その決定に根拠はありますか?確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング

はじめに

『その決定に根拠はありますか?確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング』読みました。

認知系広告の効果可視化に取り組む自分にとって、データアナリスト小川氏の本は心強い味方です。実務で生まれる困難を助太刀してくれます。

著者のnote

小川氏、山本氏どちらもnoteアカウントがあります。

エビデンス・ベースド・マーケティングやMMM、統計モデルを活用したマーケティング施策分析などに興味がある方はおもしろいと思います。

山本氏はマーケティングリサーチのプロフェッショナルです。調査方法だけでなく、成果を出すリサーチャーのマインドなども学べます。

本書の良いところ

この1~2年でエビデンス・ベースド・マーケティング(Evidence-Based Marketing)という考え方はやや流行ってきている気配があり、その重要性を語る記事や本が増えているような印象があります。

一方で、エビデンス・ベースド・マーケティングをどう実践していくか?という具体的な方法論については情報源がまだまだ少ない状況です。

そのような中で、本書はエビデンス・ベースド・マーケティングの実践方法をかなり具体的に説明してくれています。

MMM(Marketing or Media Mix Modeling)ツールであるRobynを使った回帰分析方法や、カテゴリーエントリーポイント(=消費者が特定のカテゴリーの製品を想起するきっかけとなる要素)の分析方法などがまとめられています。

ちなみに念のため書いておきますが、この記事はアフィリエイトやステルスマーケティング目的ではありません。アフィリエイトリンクも入っていません。あくまで読書感想文です。

注意点

本書はタイトルにある通りエビデンス・ベースド・マーケティング(Evidence-Based Marketing)の実践をトスアップするためのものです。

また、エビデンス・ベースド・マーケティングに関連する法則や理論は『ブランディングの科学』や、『ブランディングの科学 新市場開拓編』、『確率思考の戦略論』、『Better Brand Health Measures and Metrics for a How Brands Grow World』で登場するものが引用されています。

本書内で用語説明はもちろんありますが、前提知識として上記4冊の内容が事前にinputされているほうが、読み進めやすくなるかと思います。

過去に『ブランディングの科学』と『確率思考の戦略論』だけは読んだことがあり、専門用語をまとめたnoteを作っています。ご活用頂けるかもしれませんので貼っておきます。

次項から今回取り上げる本の中で特に興味深いと思った所をまとめてみたいと思います。

ナラティブバイアスとは

ナラティブバイアス(物語バイアス)という言葉があることを本書を通して初めて知りました。

ナラティブバイアス(物語バイアス)は、出来事やデータの背後にあるストーリーや物語に引き込まれ、論理的な分析や事実よりも感情的なつながりに重きを置いてしまう心理的な傾向を指すとのこと。

人は出来事を物語として理解することを好むため、無意識にシンプルで一貫した物語を構築し、現実をその物語に沿って解釈しがち。

たとえば、企業の成功ストーリーとして「起業家の情熱と努力が成功をもたらした」といった物語が語られることがありますが、その背後には多くの運や環境要因が影響しています。

しかし、ナラティブバイアスにより、成功はすべて「情熱」や「努力」の結果だと信じ込んでしまい、その他の要因を軽視する傾向が生まれます。

このようなバイアスに強く影響を受けた意思決定やリスク評価はエビデンス・ベースド・マーケティングとは真逆の動きですが、ビジネスの現場では少なからず起こっているように思います。

ナラティブバイアスを避けるためには、データや事実に基づいた分析を重視し、物語の魅力にとらわれすぎないよう意識したいと思います。

本項の最後にナラティブバイアスに関する記事を参考情報として貼っておきます。

MMMツールとマーケティングサイエンス

MMMとは?
MMM(Marketing or Media Mix Modeling)とは、マーケティング施策の効果を定量的に測定し、広告やマーケティング戦略の意思決定を支援する統計学的な分析手法です。

MMMはマーケティング先進国であるアメリカで導入が進んでおり、日本企業でも注目度や採用率が高まっています。

MMMを行うことで下記のメリット・リターンなどが期待できます。

✓複数のチャネルにまたがるマーケティングキャンペーン効果を特定・測定

✓各マーケティング施策による直接効果と間接効果を明らかにできる

✓プロモーション、季節性、報道等の外部要因も分析対象に含むこと可能

✓結果的にマーケティング投資の最適化に役立てることができる

どのようなMMMツールがあるのか?
日本国内で活用できるマーケティング・ミックス・モデリング(MMM)分析ツールやサービスをまとめてみたいと思います。アルファベット順で全部で5つ紹介します。

私自身が④⑤に興味があるのでそちらの情報量多めです。

Analytics AaaS(博報堂DYグループ)
博報堂DYグループが提供するMMMサービス。メディアやマーケティング施策の投資配分を最適化し、KPI設定を支援します。

②Fast-MMM(電通)
電通が提供する迅速なMMM分析ツールで、短期間でのデータ分析とマーケティング施策の合意形成を支援します。

③MAGELLAN(サイカ)
サイカが提供するMMMソリューションで、マーケティング投資と予算配分の最適化を支援し、ROIの最大化を目指します。

④Robyn(Meta)
Metaが開発したオープンソースの自動MMMツールで、広告効果の定量化と予算の最適化を実現します。こちらは①②③とは違い無償ツールです。

今回紹介している『その決定に根拠はありますか?確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング』の中では、Robynを活用した分析方法が紹介されており、私自身も実務で左記ツールを利用しようとしています。

⑤Meridian(Google)
Googleが提供するオープンソースのMMMフレームワークで、広告主が自社で高度なMMMを構築し、ビジネス成果の向上を支援します。

また同ツールに関しては下記のデータサイエンティストの方が、ツールの特徴をまとめてくれていました。

上記記事内でMeridianの特徴として「Reach & Frequencyを説明変数に利用したMMMである」と説明されており、Google広告プロダクトの正味効果を明らかにする点でもシナジーがあるのかもと思いました。

本書内ではRobynを用いた分析方法が紹介されています
今回紹介している本の「第4章 市場(顧客)の変化を的確にとらえる」内でRobynを活用した回帰分析方法が紹介されています。

私は普段エクセルの分析ツール機能を使って、認知広告と獲得広告の因果関係を調査していますが、左記では「広告の残存効果」を適切に捉えることができないという問題がありました。

広告の残存効果とはテレビCM放映後に現れる持続的な効果のことです。アドストック(AdStock)と呼ばれたりもします。

Robynであれば、残存効果も考慮して説明変数を変形させることができる為、認知広告の投資効果をより適切に社内関係者に説明していけるのではと期待しています。

ちなみに、著者の小川氏はMarketing NativeというメディアでRobynの特徴について下記のように説明しています。

Robynは残存効果(Adstock)と非線形な影響の適切なパラメーターを探索する複雑な計算を、FacebookのAIライブラリ「Nevergrad」による進化的アルゴリズムで、短時間で何千回も繰り返してモデルを進化させます

また、過去データに極端にあてはまることで未知のデータの説明(または予測)精度を下げてしまうオーバーフィッティング(過学習)を回避する処理も行います。非常に高度なモデリングを短時間で行うことができます。

MMMで用いられることが多い回帰分析は、相関が強い説明変数を複数入れると推定結果の信頼度が下がる多重共線性というエラーを考慮する必要がありますが、Robynはリッジ回帰という手法を用いてそのエラーを回避しやすくしています。ただし、基本となるアルゴリズムは「回帰分析」です。

Marketing Native|今こそ導入したい!デジタルマーケティング限定でも活用可能なMMMとは?【小川貴史寄稿】

また同書で紹介されていたのですが、グローバルブランドでCMO経験があるJun Kaji氏は、自らRobynでMMMやNBDモデルを使った需要予測を実装していたとのこと。

私自身もJun Kaji氏のようにマーケターでありながら、マーケティング投資に必要な分析を自ら行えるビジネスマンになっていきたいと思いました。

カテゴリーエントリーポイントの分析

カテゴリーエントリーポイントとは
カテゴリーエントリーポイント(CEPs)は、消費者が特定のカテゴリーの製品を想起するきっかけとなる要素を指します。

消費者が製品を選択する際に使う共通の「きっかけ」や「トリガー」となるもので、これがブランドの想起(メンタルアベイラビリティ)に結びつく可能性があります。

「第5章 消費者を理解するための基本分析」では重要なCEPsを定量評価する為の分析法が紹介されています。

CEPsを分析することで、①購買客が購買の選択について考えるとき、どのような“きっかけ”を用いているかを知ることができ、②その“きっかけ”とブランドとの間に新しい強いリンクを構築することができるようになります。

CEPs特定のためのフレームワークなども紹介されているので、消費者がどのようなシチュエーションで自社の製品を想起するのか?を効率的に見つけることができるかもしれません。

ちなみにCEPs特定のためのフレームワークについてはコレクシア社の記事も参考になるので貼っておきます。

顧客理解とは

「第6章 新たな市場を発掘できる調査分析法」の6-5以降では顧客理解に関して山本氏が解説しています。

著者は顧客理解は日常的な「他者理解」の延長であり、顧客理解とは「自分のなかにリアリティある顧客の人物像を作り上げ、実感をもってそれになりきれる状態」と説明しています。

私自身が顧客理解を何か特別なことのように捉えて、勝手にハードルを上げてしまっていたのですが、第6章の内容は私の肩の力を良い意味で抜いてくれました。

去年から今年にかけて10名以上のお客様にインタビュー調査を行っていましたが、本書の内容を読んだ上でもう一度実施したい気持ちになっています(もっと早く読んでおけばよかった・・・)。

「他者理解」に必要なポイントである下記4点は頭に叩き込んで、今後の定性調査に挑んでいきたいと思います。

✓正確な事実情報の把握・事実
✓相手のリアルな人物像、価値観の想像、把握 – 洞察①
✓「もし自分がその立場なら」「それには覚えがある」という自分事化 – 洞察②
✓「覚えがある」気持ちへの共感・共感

  『その決定に根拠はありますか?確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング』 第6章 新たな市場を発掘できる調査分析法

以上です。

本書の内容を仕事に活かしていきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

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