【オススメ本】金井利之『コロナ対策禍の国と自治体ー災害行政の迷走と閉塞ー』ちくま新書、2021 。
東京大学大学院教授の金井 利之先生による近著。
「コロナ禍」ではなく「コロナ「対策」禍」となっている所に最大のメッセージと皮肉(金井節)が込められている。
キーワードは、①装飾、②顕示、③訴求、④注目、⑤無責任、⑥逐次投入、⑦高揚感、⑧権力欲、⑨ショック・ドクトリン、⑩統制経済、⑪吝嗇(りんしょく)、⑫空転、⑬自縄自縛、⑭浅知恵、⑮拙速、⑯遅延・朝令暮改、⑰二重基準、⑱矛盾、⑲差別。この言葉で2019年度から3年間の国と自治体の「対策禍」を検証する。
(目次は以下の通り)
はじめに
序章 コロナ元年
疫病禍と行政
(1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19) (2)厄災禍と災害行政
災害行政の分析枠組
(1)災害復興と復興災害 (2)コロナ禍対策とコロナ対策禍 (3)コロナ対策禍の無限ループ
一般的含意
第1章 災害対策と自治体
1 災害行政組織の特徴
災害行政組織の必要性
防災会議・災害対策本部方式
(1)災害行政における乖離 (2)伊勢湾台風と災害対策基本法 (3)趣旨
緊急本部方式──権力集中への指向性
(1)内閣機能強化論 (2)重要政策会議と中央防災会議 (3)災害緊急事態 (4)緊急事態布告=対策本部=非常時集権方式
災害復興官庁論
(1)帝都復興院 (2)戦災復興院 (3)阪神・淡路復興対策本部 (4)復興庁 (5)大規模災害復興法
組織転用の限界・司令塔の限界
2 災害行政対応の特徴
空想的災害行政対応
(1)必然の失敗 (2)「完璧」な対応
法令への逃避
(1)法的措置の膨張主義 (2)「泥縄」という対処方針
財源への逃避
(1)財政措置の膨張主義 (2)経済的限界
学知への逃避
(1)専門性と非難回避 (2)専門性の限界 (3)権力集中と実務的専門性の軽視
災害行政対応の方向性
(1)計画化 (2)冗長化 (3)人脈化 (4)標準化
第2章 コロナ対策禍と自治体
1 追従・忖度から放縦へ
権力集中と自治体
国の初動対応
(1)災害としての疫病 (2)「新感染症」からの逃避 (3)改正特措法の適用 (4)緊急事態宣言の要件 (5)コロナ対策における法令への逃避
権力集中から権力迷走へ
(1)自治体の初動忖度 (2)潮目の変化 (3)非常時集権方式の自壊
コロナ対策禍と放縦
(1)空想的災害行政対応の自縛 (2)演技系の諸特徴 (3)我欲系の諸特徴 (4)愚昧系の諸特徴
無規律型社会か分権型社会か
2 排除と鎮静
排除と矯正と流行
排除の政策枠組
(1)感染症対策と排除 (2)感染症法という政策枠組 (3)排除への自戒とその限界
排除の実行
(1)国外からの排除 (2)国内での排除 (3)排除の限界──医療崩壊対策と〈排除の排除〉による排除の表面的維持
鎮静の実行
(1)鎮静の登場──接触自粛措置 (2)鎮静の限界
3 折衷と流行
鎮静の限界
(1)投網型鎮静の実質的不公平性 (2)排除と鎮静の折衷
排除の変容
(1)集団免疫戦略 (2)地域間排除 (3)排除の拡張
排除・鎮静・流行の振り子
4 非難応酬
対策の決め手のなさ
非難応酬の構造
(1)弁明の方策 (2)権力集中による災害行政対応の限界 (3)他者非難 (4)非難応酬の意義
自治体組織内部への非難
(1)自治体内部の上下関係構造 (2)不満の捌け口 (3)感染源としての自治体職員 (4)安泰者としての自治体職員 (5)職員叩きによる自滅
自治体組織外部への非難
(1)民衆非難への誘因 (2)他自治体非難への誘因 (3)国非難への誘因
首長の暴走への誘因のなかで
第3章 コロナ対策の閉塞
1 三すくみの閉塞──蔓延防止・医療提供・生活経済
政策構造による閉塞
特措法の政策構造
(1)特措法の目的手段構造 (2)「緊急事態」を生み出した第一次緊急事態宣言 (3)特措法の生活経済安定措置 (4)特措法の生活経済安定措置の空振り (5)実際の生活経済安定措置
感染症法の政策構造
(1)感染症法と特措法 (2)感染症法の措置 (3)感染症法の措置の空振り
為政者のできること
2 玉突きの閉塞
災害行政対応と組織間連鎖
学校・家庭・児童ケア施設の玉突き
(1)安倍首相の一斉休校要請 (2)小中高校の不要不急性 (3)児童ケア施設としての学校 (4)教育施設という建前の迷走 (5)「不要不急」の難しさ
医療施設と介護施設との玉突き
(1)医療体制の逼迫 (2)医療崩壊と介護崩壊の玉突き (3)医療・介護提供体制の構造 (4)冗長性と災害行政対応
3 仮想対応の閉塞
仮想上の災害行政対応
情報化またはデジタル化(?)への転嫁
(1)COVID-19対策と情報化 (2)厄災禍とショック・ドクトリン (3)情報化の限界 (4)ひも付け化とデジタル化?
法令への逃避・再論
(1)法的措置への力学 (2)緊急事態宣言の発出 (3)二〇二一年二月特措法・感染症法改正 (4)法的措置の仮想性
仮想対応の果て
(1)防止重点措置 (2)命令・過料
4 生活・経済・財政の閉塞
災害財政と日常性
コロナ対策禍としての赤字財政
(1)財政への逃避 (2)潜在的な地方財政危機
ショック・ドクトリン的な財政出動
(1)二〇二一年度地方財政対策の概要 (2)「ポスト・コロナ」の「新しくて古い日常」
生活措置の空洞化
(1)就労第一社会の(悪い意味での)「強靱」性 (2)就労第一社会における経済優先 (3)グローバル資本主義・市場経済の閉塞
5 公表と差別の閉塞
差別防止という行政課題
(1)法的理念 (2)差別対策の効力限界
情報収集と情報提供
(1)法的基準 (2)公表と行政
COVID-19対策における感染状況の公表
(1)国の方針 (2)公表への力学 (3)公表基準
コロナ対策禍としての差別・偏見
(1)公表基準での対処の限界 (2)感染症対策と差別・偏見防止の両立 (3)国の対応
差別・偏見対策の閉塞
(1)忌避による感染症対策 (2)公表範囲の限定 (3)反差別の具体的行動
終章 コロナ三年
長期的な社会・経済保障
複雑性
真に「新しい日常」に向けて
(1)包摂への指向性 (2)無力への指向性 (3)社会への指向性 (4)実務への指向性
あとがき
(目次、ここまで)
全体を通して色々と響くものがったが、約300ページを読んでみて、小生が特に印象に残ったのは以下の3点。
・COVID-19は、為政者の能力と資質を試す。(中略)19の特徴を裏返せば、①対策実行、②情報開示、③危機感、④異論・討論、⑤提言・意見具申、⑥柔軟、⑦指導力、⑧能力、⑨果断、⑩指揮、⑪効率、⑫忍耐、⑬自制、⑭挑戦、⑮即決、⑯熟慮、⑰強靭、⑱多様、⑲識別、などの特長にもなり得る(p.101)。
・小泉政権・第二次安倍政権など、官邸主導の進行により、さらには民主党の「政治主導」の掛け声も含めて超党派化して、各政党間の牽制作用がなくなったこと二より、国政による権力集中化が進んだ(p.102)。
・率直に言って、COVID-19対策に「成功」も「失敗」もない。それぞれに事情が異なるので、安易に諸外国と比較したり、自治体間で比較しても、あまり意味はない。ただ、実際には行政論議の中で「成功」であり、「失敗」でもあると論じられるだろうし、そのことが、自由な社会における政策と行政の健全性を保つ。むしろ、肝腎なのは、COVID-19対策のなかで、差別・偏見や憎悪・分断を生まないことであり、それを防ぐ行政の対応なのである(p.309)。
とりわけ、この最後の視点は行政のみならず、国民全体で共有したいメッセージです。
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