【オススメ本】有廣悠乃編著『描いて場をつくる グラフィック・レコーディング』学芸出版社、2021
グラレコ(グラフィック・レコーディングの略)はここ10数年ですっかり日本でも定着した感がある会議やワークショップなどでの話し合いを可視化(見える化)し、記録する方法です。
話の見える化と言えば、本書の対談において中野民夫さんが語られている通り、黒板やホワイトボードなどによる「板書」が基本であり、本来、教育とも親和性が高いものです。しかし、21世紀に入ってパワーポイントなどプレゼンテーションソフトの普及により板書する機会はめっぽう減り、実は親和性は薄まっている、というのが現場の実感です。
そうしたデジタル時代が進むゆえに、相対的に価値が高まっていのが手書き=アナログによるグラレコです。「聴く」「要約する」「描く」「構造化する」という4つの作業を同時にするのですから、まさに「話し合いのドラマー」と言えます。
目次は以下の通り。
(目次)
1章 グラレコことはじめ
第1節 グラレコって何? 可視化って何?
●対談 多様化してきた「場づくり×可視化」の手法
第2節 みんなでつくる場の始めかた
第3節 先駆者の実践に学ぶ
第4節 可視化のパターンとバリエーション
2章 ひと・ことを創発する「場づくり×可視化」の現場
1.組織づくり
・フラットな関わりしろのある社内会議づくり
・あいまいな日常作業を実効力ある仕事に変える
・ゆっくり効き出す社内対話の仕込み薬
2.事業開発
・事業構想の足場をつくる瞬発力
・2つのモードで紡ぐ、響く事業戦略づくり
3.キャリア対話
・会話で思考を引き出し、整える「可視カフェ」
4.まちづくり
・自分ごとマインドが育む住民自治の土壌
・ご近所さんと暮らしを語らい、手を取りあう
・一人ひとりの思いを地域の前進力に
5.行政改革
・役所にファシリテーションを植え付ける!
・素早い情報整理で住民対話を支える
・カタい行政をときほぐし双方向の議論をつくる
6.ソーシャル
・のびしろをシェアして未来に貢献しあう
・ズレや違いを面白がり共創できる社会へ
・線で対話し個をつなぐチームビルディング
7.教育・研究
・大人も子どもも当たり前に対話できる小学校づくり
・中学・高校と地域社会をやわらかくつなぐメモ書き
・市民に届けるプロセスが育む“研究の相互理解”
8.支援・ケア
・子どもと大人が言葉の限界を超えて歩み寄る対話の場
・きこえる人ときこえない人が集う会議のデザイン
・だれもが当事者として描く未来を創りたい
・医療・福祉・介護現場の不安が信頼のタネに!
3章 描くことで「場をつくる」ために
●対談 可視化で気をつけておきたいこと
第1節 現場に学ぶ場づくりのヒント
・描いて場をつくるための基礎トレーニング
・こんなときどうしたらいい? Q&A
第2節 生成的な場で描く未来のビジョン
(目次ここまで)
ともあれ、本書ではそのようなグラレコを仕事や特技とするグラフィッカーの方が22の多様な実践事例が収録されており、グラレコの入門書としても最適と思います。とりわけ、コツだけでなく、こうすればよかった、ここが良くなった、といった「反省点」も収録しているのがびっくりかつ共感ポイント。
小生はもっぱらファシリ側ですが、グラフィッカーの皆さんの頭の中が少し覗けた気もしますし、知り合いの嘉村 賢州さんや科研でご一緒したことのある荒木寿友先生はもとより、仕事のパートナーとしてグラフィックを担当してくれた肥後祐亮さんや山本採代さん、奥野美里さんも寄稿されており、「そうそうこの感じ(語り、絵、字)」と思わずニヤリとしてしまった一冊でありました。
(参考)https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761527761/