【オススメ本】宮口侗廸『過疎に打ち克つー先進的な少数社会を目指してー』原書房、2020 。
社会地理学を専門とし、国土審議会専門員、総務省過疎問題懇談会座長などを歴任された早稲田大学名誉教授の宮口侗廸先生による近著。
http://www.harashobo.co.jp/book/b554028.html
全体で3部で構成されており、目次は以下の通り。
第1部 過疎農山村の持続と発展を願って(過疎地域の価値と発展の可能性について―過疎問題懇談会の提言を踏まえて;人口減少時代にこそ魅力ある低密度居住地域の実現を;暮らしの場としての小さな農山村の価値―過疎地域の人間論的価値;あらためて農山村の地域づくりを問う―希望にむけての提言;農山漁村の価値を改めて考える;小規模自治体であるが故の社会論的な豊かさを―過疎自治体への期待;農山村の活性化のための基本的視点―ヨーロッパを歩いて)
第2部 交流・移住の価値そして人材育成を語る(交流・連携による地方再生の可能性;地域づくりインターンこそ交流の原点;若者定住促進施策の現状と課題;いかに地域若者を惹きつけるか;地域の価値の強力なアピールと実効的な移住政策を―地方都市に関して;あらためて考える地域リーダー像とその育成―小都市・農山村を中心に)
第3部 国土のあり方とそれを見る眼―風土論―など(長期的に見た国土の望ましい姿―特に農山村にかかわって;風土、文化そして地域資源;日本海文化と風土;島への思い―離島の個性とその価値;都市と過疎地域―対局それぞれの価値を求めて)
筆者が印象に残ったのは以下の記述。
・都市への過度の集中うは大規模な災害や感染症対策のリスクを伴う。都市とは別の価値を持つ低密度どな居住空間がしっかりと存在することが国の底力(p.5)。
・今考えるべきは、単に数としての人口減に右往左往することではなく、行政が、この地域ではどのような暮らしが可能なのかを、まさに「見える化」することであろう(p.25)。
・人口減少が続いている地域について、同じような発展戦略でまとめるにはあまりにも無理がある(p.28)。
・数で考えるのではなく、「先進的な少数社会」をつくることにより、「魅力ある低密度居住」の実現を目指すべきで、そのためには人口増という呪縛から解放されることが大切と主張している。
・1集落に1カフェを(中略)。カフェのようなオープンなたまり場があレバ、そこでいろんな出会いがあり、交流が生まれやすい。外部の人が気軽に立ち寄り、そこに思いがけない交流が生まれたりすることも、地域に人の成長に結びつく(p.52)。
・逢坂誠二氏がニセコ町長時代に述べた「住民の幸不幸は職員の資質にかかる。職員研究は予算の聖域である」は今でも至言である(p.66)。
・人口減少・高齢化の流れは止まらないものの、今地域にクラス人たちは、総じて自分の地域に誇りを持つようになっている。(中略)その意味で全体として、他人の指摘で自らの価値に気づく「交流の鏡効果」があったことは否めない(p.70)
・地方で蘇らせるべきものの本質は何か。それはもう少し詰めて考えれば、それは場の存在価値ということになるのではないだろうか(p.98)。
・地域づくりという概念を「時代にふさわしい地域の価値を内発的につくりだし、地域に上乗せする作業」と唱えたのは、(中略)地域の身の丈に合った価値づくりを積み重ねて行くことが、それぞれの地域が存在価値を発揮して行くために不可欠(p.113)。
・保育所は地域子育ての拠点、小学校あ地域の文化・強度教育の拠点と位置付けて、セットで守らなければならない(p.142)。
・農山村は都市ではないことに価値があるのであって、都市とは違う価値をアピールスことが何よりも大切(p.148)
なお、本書は著者が色々な媒体への投稿をまとめたものなので、若干の重複感もあったが、逆に言えば、どこから読んでも1章1章が独立して読めるため、全体として読みやすい。
ともあれ、本書のサブタイトルにある「先進的な少数社会を目指して=多自然型低密度居住地域」というスローガンに本書の最大のメッセージ、そして過疎問題をどう紐解けば良いかの最大のヒント、あるいは示唆が詰まっていると感じた1冊であった。