2024ファジアーノ岡山にフォーカス34『 幸先の良いスタート~残していく灯~ 』J2 第20節(A)vs ロアッソ熊本
1、スタンディングスタート~巻き返しへ~
レーシングで、例えると一巡目は、予選で、その順位に応じてのスタート位置が決まりますが、2巡目の後半戦の岡山のスタート位置は、6位という悪くない位置でのスタートでした。実際のレーシングとは違い、実際の勝ち点3が、実際の差として重く伸し掛かるというのが、サッカーのリーグ戦での順位とは別の差でもあります。そういった意味では、箱根駅伝での「往路」と「復路」の1日目と2日目のように時間の差がそのまま差として伸し掛かるというのに近いかもしれないですね。それこそ、1節を1区と考えると、後半も各19区を任された選手たちが、1点でも多くの勝ち点の獲得を目指して戦っていくことになります。
この復路の19区(後半の19節)は、その区毎に様々な条件下の中で戦うことになりますが、考えうる勝ち点に左右する条件は羅列すると以下の通りです。
この試合に関しては①の風の影響はあまり感じなかったですが、②の影響は天皇杯を共に戦ったという点は同じではあって、③は、ほぼ同じメンバーで戦っていたという熊本側への疲労の影響は色濃くあったように感じますが、岡山に関しては離脱者は緩和したものの全体としてみれば、まだまだ厳しい状況かもしれません。
④は、恐らく該当者がなく、⑤に関しては、天皇杯の敗戦もあって、推し量るのは難しい部分もありました。⑥に関しては、岡山は、時期的にまだそこまでは感じないものの熊本サイドには、残留するために意識している部分はあったかもしれない。
⑦に関しては、距離の影響はそれなりにあるとは思いますが、③もあって、それでも岡山も優位で、⑧と⑨を考えると、岡山の方が近年の戦いでは優位に進めているようにも感じます。
⑩に関しては、ボールを保持するチームに対しての方が、岡山として組みやすいということで、近年のデータに繋がっている部分はあると思いますが、この試合に関しては、ミラーマッチで、個で戦う部分が強調された中で勝つことができて、岡山の良さをより出すことができた試合に感じました。
こうして、冷静に観ていくと、内容的に岡山が押し込むことができたということは、ある意味自然と感じることがある一方で、⑤に関しては、多少心配する部分を感じた試合となってしまった部分もあります。
一方で、熊本のサッカーも独自システムではなく、3-4-3の形になっていたことに正直驚いた部分もありましたが、ここが、後半戦の勝ち点にどう左右していくのか、その中で、大木 武 監督が、来季もJ2で戦えるか相応しいチームかどうか、残り試合で、試されていくことになるという部分は、対戦してみて感じた部分でもあります。
改めて、痺れるような重苦しいような後半戦が、始まったということを感じられた試合でもありましたね。
それでは、この試合で、ほぼ岡山が主導権を握って試合を進めることができた理由(勝因)について語っていきましょう。
2、戦艦「ファジアーノ」~ファジガード(バンガード)~
岡山の守備は、GKの49番 スベンド・ブローダーセン 選手という岡山の守備のエンジンを搭載した上で、直接的な対人守備に強い強固な装甲を誇るDF3人と、迎撃に優れ、攻撃を未然に防ぐことができるDH2枚の計5枚で守るというのが、岡山の基本的な「堅守システム」であります。
状況に応じて、普段は攻撃に専念している左右のWBと2枚シャドーと1トップの5人も守備で遊撃にまわることで、簡単には撃沈することない攻守に優れた移動戦艦のチームであるのが、戦艦=ファジガード(バンガード)であると言えるでしょう。
この試合に関しては、岡山の攻撃の5枚が、ミラーゲームということもあって、人にもボールにもプレスという圧力をかけ続けることができたことで、奪うことができなくてもパスコースを限定させた上で、前に付けるパスと、プレスを回避する浮き球のパスを、5番 柳 育崇 選手が、弾き返すことで、熊本の攻撃の糸口を与えなかったと言えるでしょう。
熊本にとって、苦しかったのが、繋いで前線で収めて、全体を押し上げて分厚い攻撃という形をなかなか作ることができず、攻撃の時間が非常に短くなったことにあるでしょう。
岡山は、こうして5番 柳 育崇 選手が跳ね返して、24番 藤田 息吹 選手を中心にセカンドボールを回収して、攻撃にスムーズに移行することができていたと言えるでしょう。
この時には、99番 ルカオ 選手のポストプレーと裏やサイドのスペースへの推進力がある突破で、形を作るだけではなく、39番 早川 隼平 選手と19番 岩渕 弘人 選手の連動した崩し、そして、サイドのフィジカルを武器に仕掛ける左WBの17番 末吉 塁 選手と88番 柳 貴博 選手の仕掛けのどれもそれなりに優位に熊本の選手と戦って攻めることができたことで、多くのチャンスを作ることもできていました。
また、この試合では、本艦の攻撃での貢献も非常に高かった。4番 阿部 海大 選手の機を見た攻撃参加は、厚みのある攻撃を実現し、43番 鈴木 喜丈 選手は、攻撃をやり直した際に受けていた熊本のプレスに対して、43番 鈴木 喜丈 選手が答えを持ったことで、周りと一緒に着実に前進し、攻守の切り替えを早くできるコンパクトな陣形を構築できていただけではなく、かつ切れ目がない攻撃に繋げることができていました。
砲撃(CKやFK)では、5番 柳 育崇 選手が、頭で合わせた時に、画面越しのダゾーンの前やスタジアムで、「ヤナギ!」「ヤスタカ!」という掛け声と共に発せられた「ヤナギビーム」と「ヤスタカ砲」を、熊本のゴールへと何度も放つことができましたが、熊本の守護神の1番 田代 琉我 選手の「琉我シールド」の前に何度もブロックされ続けました。
こうした岡山の基本システムの下で、攻守にイレギュラーができることなく、前半は戦うことこそできましたが、「琉我シールド」を中心とした熊本の粘り強い守備というか壁(ブロック)の前に、有効打を見出せず、スコアレスで、前半を終えることになりました。
岡山としては、先制点が欲しかった前半でありましたが、この流れ自体は、大きく崩れることはないのではないかというどこか安心感のある試合推移の前半であったと言えるでしょう。
勝負の後半には、ドラマが待っていました。次章では、その後半について語っていきましょう。
3、総力戦(持久戦)の先のドラマ~守備で掴んだ勝利~
後半も基本的に、前半と同じ流れで入ることができていましたが、43番 鈴木 喜丈 選手が、下がって55番 藤井 葉大 選手が入ってからは、岡山の被守備機会が増えてしまう時間が増えてしまいました。
私の感覚的には、直接的な原因は、いつものように断言できない部分もあって、正直分かっていない部分で、推測になってしまう部分もありますが、「ポジショニング」の差ではないかと予想します。何故なら、サッカーにおいて、組織の中で上手く機能していない選手の原因の多くは、ポジショニングに原因であることが多いからです。多くボールに触れる選手は、やはりポジショニングが良いからです。それこそ、24番 藤田 息吹 選手がとかがまさにそうですね。
先日の天皇杯でも岡山の守備が、シュートに対して、岡山の武器である守備ブロックを構築できなかった通り、距離感やポジショニングの感覚の部分で、ズレがあるのではないかと感じます。
今後の試合で、43番 鈴木 喜丈 選手が、フル出場できることが理想ですが、やはり、一巡目の43番 鈴木 喜丈 選手不在の影響が大きかったですし、彼が出場した時に優位性を作ることができたことを考えると、離脱することだけは避けたいですよね。そして、55番 藤井 葉大 選手も4番 阿部 海大 選手みたいに岡山の将来の主軸として活躍してもらうために、表現は悪いかもしれないですが、チームとして我慢して戦っていくことは、決して悪いことではないでしょう。
こうして、守備機会が増えてきた岡山でしたが、流れを渡さないために、岡山はすぐ攻撃の手を打つ。39番 早川 隼平 選手に代えて、27番 木村 太哉 選手。99番 ルカオ 選手に代えて、10番 田中 雄大 選手。この交代で、19番 岩渕 弘人 選手を1トップに据えるという0トップに近い形で戦うプランを木山 隆之 監督は、選びました。この交代からも19番 岩渕 弘人 選手が、現状の岡山の攻撃において中心選手と考えられていることが分かり、39番 早川 隼平 選手が下がってからは、この試合では、キッカーとして蹴ることも多かった通り、最後まで良い形で、攻撃に関与できていましたが、疲労もあって、目立たなくなってきた中で、交代となりました。
この間に、10番 田中 雄大 選手の高い決定力や27番 木村 太哉 選手の魂の籠ったプレーでの守護神である1番 田代 琉我 選手のセーブ力の凄さを表現した「琉我シールド」をなかなか破ることができませんでした。
流石に90分間、岡山が攻め続けることはできず、前半のメンバーからの攻勢というか勢いは、弱まったものの熊本に決定機は作らせない壁を構築できていた。55番 藤井 葉大 選手が、右流れて1対1になった時には、右に左に何度も振られる中で、何度も何度も食らいつき、根負けした所を味方選手が、カットして、岡山ボールにするといったシーンのように、メンバー代わって、綻びというか隙が出ても11人+αの気持ちで、しっかり気持ちを切らすことなく集中して守ることができていました。
セットプレーでは、5番 柳 育崇 選手の頭から何度も形を作っていましたが、なかなかゴールを奪えないで迎えたアディショナルタイム。6番 輪笠 祐士 選手のなんとか落としたパスを受けた17番 末吉 塁 選手が、一度はシュートが空振りするも、再び持ち直してからショートまで行くと、熊本選手に当たったことで、1番 田代 琉我 選手の逆を突けたことで、ゴールへと吸い込まれるという気持ちで押し込んだというゴールでした。
引き分けも覚悟した中での終了間際の劇的な決勝点を守りきった岡山が、2巡目の1戦目で、価値ある勝ち点3を獲得して、1位清水との勝ち点差9との間に4チームという状況にできて、少しだけ好転させることができました。
苦しみながらではありましたが、後半戦(2巡目)の良いスタートを切ることができた試合となりましたが、どうしても今後も岡山は、決定力に苦しむ試合が多くなるのではないかと思いますが、守備を武器に戦っていく中で、勝ち点1を1点でも多く積み上げていくしかないでしょう。
途中の試合で、勝ち点を失うこともあるかもしれませんが、そうならないと信じて、最後まで応援することで、奇跡の昇格を信じて、最後まで諦めず応援したいですね。
4、独自色から堅実路線へ~ロアッソ熊本~
岡山のホームと対戦した時のような独自のフォーメーションではなく、岡山と同じ3-4-3になっていたことに驚いた。内容から観れば、両チームの状態もあるので、一概には言えないものの、この形の方が、岡山としては戦いやすかった(守り易かった)。
一方で、この試合で、なかなか岡山が得点を奪うことができなかった通り、DF三枚でしっかり守る形は非常に堅く、簡単には崩れない粘りを感じました。1番 田代 琉我 選手がGKとして当たっていたとはいえ、それだけでは、これだけの猛攻を1点で防ぐことはできないでしょう。
どちらかが、正解かという話ではないですが、岡山が攻めていた中でも熊本の繋ぐ力というのは、流石であったものの怖さというのは、和らいでいたように感じましたが、やはり3バックとダブルボランチの形は、中央やゴール前の守備が安定し易いと感じます。
このサッカーの転換の背景にどういったものがあって、熊本サポーターもどう解釈しているのかは気になる所ではありました。
個人的には、私のここまでのレビューを読んでいただいたら分かる通り、光る個性が、とても好きで、熊本のサッカーの独自スタイルには、注目していただけに、正直に言うとショックに感じた面はありました。
同時に、J2を戦うために、選手や監督が、上を目指すためには、そこに伴う力も必要であるという厳しい現実も感じた。どんなに良いサッカーと良い選手がいても、それを維持して、進化させる難しさというのは、移籍が容易であって、各クラブの格差も多く、グローバルでもある難しさというのを改めて感じますね。
熊本が、並び上での自分達のサッカーを一時的に手なばなしてシンプルな形に戻して、残留するために戦う選択をしてまで、勝ち点を1点でも多く手にする。そこからJ2の舞台は、私達が思っている以上に、大きな舞台で夢があるリーグであるとも感じますし、それだけ戻りたくないというJ3の恐ろしさを間接的に感じたところではあります。
J2で戦えることが、幸福であると改めて感じると共に、夢や希望を抱ける戦いができている現状に作ってくださっているファジアーノ岡山ファミリーの全ての方に感謝しつつ、最高の舞台、最高の準備をして迎えて下さっている対戦相手への感謝の気持ちを忘れず、試合での喜怒哀楽を楽しみに、1試合1試合で、試合観戦できる喜びを噛みしめて、1試合1試合を楽しんでいきたいですね。
5、1点を2点にどう変えていくのか?~必要な決定力~
この試合の岡山のチャンスクリエイト力の高さを感じた一方で、最後に誰が得点を決めるのかという課題を改めて突きつけられた試合が、また1つ増えました。
得失点で、岡山が同じ勝ち点で、5位となっている通り、今後は、得失点差も順位で、明暗を分けてくるかもしれないことを考えると、こうした内容の試合で、もっと多く得点を決めていく必要が、間違いなくあるでしょう。
Jリーグタイムで、仙台のゴリさんと呼ばれていた森山 佳郎 監督が、得点を取りにいったら失点も増えたと語っていたので、簡単なことではないですし、そこがサッカーの難しさでもあるでしょう。
岡山としては、3-4-3というシンプルな形、シンプルなサッカーで戦っている通り、形は変えないと思いますので、戦力維持(離脱者を増やさないリスクマネジメント)と復帰してきた選手の組み込みと若い選手の積極起用で、0を1に。1を2にという基本を徹底していくしかないでしょう。
この試合で出場した55番 藤井 葉大 選手や39番 早川 隼平 選手は、とても若い選手ですし、29番 斎藤 恵太 選手も枠外でしたが、カウンターに近い形からシュートまで行けましたし、まだまだ伸びしろがあると信じたいです。
先日出場した2番 高木 友也 選手や42番 高橋 諒 選手のコンディションが戻ってきた時に、左サイドに厚みを作っていくなど挙げたらきりがないですが、チームとして、どうこのチーム状態に強さを上積みさせていけばいいのか。そこを突き詰めていく中で、難しい試合が、ここから18試合続きますが、重みは、1試合1試合続くごとに重くなっていくでしょう。立ち位置的にもクラブ数が多いというJリーグの特性からも他力本願の部分こそありますが、勝負所で負けてきた岡山の歴史を変えること(直接対決で勝利すること)で、新たな景色が、開けてくれるはずです。
皆さんは、岡山が昇格するためには、何が必要だと感じるでしょうか?
そういった自問自答の中で、答えのない中で戦う岡山の戦いを私たちは信じて応援することしかできないですが、それを選手が監督のチームが、一番望んでいることのはずですし、私もサポーターの1人として、そこに応えて、皆さんとまた、喜べる試合が続くと信じて、応援したいです。
それでもそうした先のことよりも、ここ数日は、岡山の通算700ゴールを喜びつつ、勝利の余韻に浸りつつ、週末の試合を待ちたいと思います。
そして、この幸先の良いスタートができたことで、希望という灯を残すことができた試合になりました。今後も皆さんで、少しずつ残していく灯を大きくできたらと願うばかりですね。
文章・図=杉野 雅昭
text・figure=Masaaki Sugino
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