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短編小説を依頼してみた<巨人の足>
ChatGPT に短編小説を依頼してみました。中学2年のユウトの異世界のできごとです。
巨人の足
気づいたとき、僕はむせかえるような蒸し暑さに包まれていた。見渡す限り、見上げても見上げても続く緑の葉。地面には苔や湿った土、そして太い木の根のようなものが無数に走っている。まるでジャングルの奥深くに迷い込んだみたいだ。いや、正直に言えば、この場所がどこなのか見当もつかない。記憶をたどろうにも、頭がぐらぐらしてうまく働かない。とりあえず立ち上がり、周囲を確かめようと思った。
――そのとき、ドスン……ドスン……という地響きのような低いうなりが、遠くから聞こえてきた。何か巨大なものが歩いている。踏みしめるたびに震動が伝わってくる。まずい。とにかく、この場にじっとしているのは危険な気がして、僕は植物の茎や葉の陰を探すようにして身を低くした。
近づいてくる衝撃波を感じながら、そっと振り返る。そこには、ありえないほど巨大な“足”が見えた。まるでビルのような太さをもった脚が、ゆっくりと動いている。足首の上はすぐに雲のような白いもやに隠れていて、顔どころか膝のあたりすら確認できない。あれは……巨人……? 漫画やアニメの中で見た巨人なんてもんじゃない。もっと、もっと桁違いの大きさだ。しかも、それが僕のほうへ向かってくる。振動がますます激しくなる。踏み潰されたら一瞬で終わりだ。僕は反射的に走り出した。
土や小石を蹴りながら、必死で逃げる。だけど、すべてが違和感だらけだ。背中から腰にかけて、何か節があるような変な感覚。足を前に出すときの重心もいつもとまるで違う。けれど、そんなことを考えている余裕はない。ただ、どうにかその巨人の足下から抜け出したくて、僕はがむしゃらに走った。
やがて、ドスン、ドスンという振動が少しずつ遠のいていくのを感じて、僕はようやく大きく息を吐く。周りを見回すと、巨大な植物が生い茂っている――と思ったけれど、それにしては葉の形がどこか見覚えのあるものばかりだ。雑草というか、草むらに生えていそうなものばかり。まるで僕が極端に小さくなったみたいじゃないか。まさか……それは、さすがに冗談だろう。
どれくらい経ったか分からない。足を休めようと大きな葉陰に身を潜めると、どこからかカサカサ、カサカサという小さな足音がする。そちらを見ると、緑色の細長い体が、ゆっくり動いていた。――カマキリだ。だけど、よく知るカマキリのサイズよりもはるかに大きい。僕とほとんど変わらない……いや、それ以上に威圧感がある。
「……誰だ、おまえ?」
唐突に、カマキリが僕に向かって声を出した。ビクッとして息を呑む。虫がしゃべった? そんな馬鹿な。混乱して口がパクパクするだけだ。ところが、カマキリのほうはさらに鋭いカマをかまえながら近づいてくる。
「なぜここにいる。姿を見ないアリだな?」
アリ……? カマキリは僕の姿をアリだと言っている。でも、どうして。僕は――いや、自分の身体がおかしいとは感じていた。まさかとは思うけれど、胸のあたりを見下ろすと、確かに黒い外骨格めいたものがあり、節くれだった脚が複数本……。嘘だろ。どう見てもアリに近い形をしているじゃないか。
「おい、どうした? 聞こえてるのか?」
カマキリが不審そうに首を傾げる。どう答えていいか分からず、僕はとりあえず正直に名乗った。
「き、君は……カマキリ、だよね? 僕はユウト。えっと、中学2年なんだけど……」 「中学2年? なんだそれ」 鋭い複眼が僕を睨みつける。カマキリにそんなことを言っても通じるわけがない。混乱する頭の中で、なんとか言葉を探す。
「……気づいたら、こんな場所にいて。どうも自分が小さくなって、アリみたいな姿になっているっぽいんだ。なんでかは分からない」
カマキリは前足のカマをシャクッと動かして、ひとつ息をついたように見えた。
「はん。アリなのにアリを自覚していないだと? 奇妙なやつだな。まあいい。俺のテリトリーに侵入するなら勝手はさせないが、今はそんな余裕がない。……おまえも見ただろう、あの巨大な巨人の脚。あんなやつの足下に踏み込んで、ただでさえ昆虫たちが混乱してるんだ。おまえも逃げてきたのか?」 「う、うん。まさかあんな巨大な“人間”がいるなんて……」 「人間? そう呼ぶのか。俺もあれほどの巨体は初めて見た。踏まれちまったらひとたまりもないだろう。……とりあえず、おまえに害を加えるつもりはないが、立ち止まるなら他でやってくれ。俺はもう行く」
そう言うと、カマキリは少し距離をとり、すたすたと草陰の奥へ姿を消した。僕はひとり取り残され、思考が止まってしまう。アリになった自分と、この謎の世界。あの巨大な存在が人間だとするなら、いったいここはどこなんだ? 次々と疑問が湧いてくるけど、こたえる術などない。
仕方なく、少しでも安全な場所を求めて歩き出した。どこへ行けばいいのか分からないが、あの巨人の足音が再び近づく前に、できるだけ遠ざかりたい。湿った土の上を慎重に進んでいると、バサッという音とともに茶色い影が視界を横切った。大きなバッタだ。あれは……トノサマバッタだろうか。角ばった頭部、長い後ろ脚。こっちを向いたその顔が、思いのほか凶暴そうに見えて、僕は思わず身を引いた。
「ん? アリがこんなところで何してるんだ?」 バッタもしゃべるのか。もう驚いても仕方ないと腹をくくった。なるべく落ち着いて口を開く。 「ここを通り抜けたいんだけど……この先、行き止まりとかはある?」 バッタは複眼をきょろきょろさせ、細長い前脚で頭をこすりながら答えた。 「さあな。俺は飛べるから壁があってもあまり気にしないんだ。ただ、この先には白い巨大な壁があるらしいぞ。ほとんどの虫はそこから先に行けないんだとか」 「白い壁……?」 「そうだ。ツルツルしてて高い壁だと聞いた。ま、俺には関係ないがな。飛び越えるのも一苦労だが、不可能じゃない。おまえらアリがどうにかできるのかは知らんが」 バッタはぽん、と後脚で地面を蹴ると、ゆうゆうと森の上のほうへ跳んでいった。僕は振り返る間もなく、またひとりぼっちだ。
途方に暮れていたところに、こんどは土の上で何かがうごめいているのに気づく。細長い身体がニョロリと伸び、ゆっくりと動いている――ミミズだ。僕と同じくらい、いや、下手するともっと大きいかもしれない。
「あら、こんなところにアリさん?」 ミミズが柔らかな声で話しかけてくる。ピンク色というか薄茶色というか、とにかく湿っていて、独特な光沢がある。 「ええと……そうなんですが、実は僕、すごく困っていて。巨大な“人間”らしきやつに踏み潰されそうになって、逃げてきたんです。道に迷って……」 「人間……? ああ、あれね。私もときどき地響きを感じるけれど、そんな大きなものなのね。土の中にいるとあまり見えないから、よくわからなくって」 ミミズは首をかしげるように体をクネらせた。 「とりあえず、安全な場所に行きたいんだけど……この先に白い壁があるって聞いたんだ。そこを越えられないと先へ進めないみたいで」 「うーん、私はあまり行動範囲が広くないから詳しくは知らないの。ごめんなさい。確か、壁の近くは日当たりが強いし、土が乾いていて居心地が悪いって聞いたわ。もしかしたら行き止まりかもしれないけど……」
それだけ言うと、ミミズはまた土の中へと潜っていく。なんだか申し訳なさそうだったが、役に立つ情報は得られなかった。僕はため息をつきながら、仕方なく前へ進む。遠くでは、またあの地響きがかすかに聞こえる。いつまたこっちに近づいてくるか分からない。できるだけ早く、ここから脱出しなくちゃ。
ほどなくして、大きな石のような塊の影に何かが丸まっているのを見つけた。灰色の硬い殻を持った――ダンゴムシだ。もしかして丸くなっているところかな? よく見ると、本当にダンゴみたいにコロリと丸まっている。そっと近づいてみると、背中の隙間からこちらをうかがう小さな目と目があった。
「……なんだい? びっくりした。アリか。こんなところで何してる?」 「大きな壁を目指してるんだ。でも行き止まりって話も聞いて……」 「壁か。あそこは真っ白で、どこまでも続いてるよ。ぼくは登れないからあきらめた。だって、ツルツルしてるし、丸くなるしか能がないからね。あんまり高く行けないんだ」 ダンゴムシはそう言うと、背を伸ばして少しだけ形を広げた。なるほど、体が丸いだけで、壁に張りつくのは難しそうだ。 「でもアリならいけるかも。よく壁を垂直に歩いてるじゃないか。足の裏に不思議な力があるんだろ?」 「あ……そ、そうか。アリ……なら登れるのかもしれない。確かに、葉っぱを渡るときも引っかかる感じで進めたし」 「そうだろ? ちょっと羨ましいよ。ぼくは丸まってやりすごすしかできないから。あの巨人が来たら、なるべく小さくなってじっとするんだ。……頑張って登ってみればいいさ。気をつけてな」 ダンゴムシはまたコロリと丸まって動かなくなった。応援してくれているのか、ただマイペースなのか、よく分からない。でも、登れる可能性があるならやるしかない。万が一、その先に逃げ道があるかもしれないし。
さらに奥へ進むと、鬱蒼とした緑が途切れ、そこに白い壁が現れた。見上げても先が見えないほどの高さで、横へ回ってもどこまでも続いている。まるで終わりがない。ほんの少し触れてみると、表面はツルツルとしていて冷たい。こんなところ、普通の人間だったら絶対に登れないだろう。でも、僕はもう普通の人間じゃなくなっている。アリとしての身体能力があれば、いけるかもしれない。
「よし……やってみよう」
そうつぶやいて、僕は壁に脚をかける。すると、思った以上にスルッと手ごたえが消えそうになるが、不思議と足裏と壁がぴたりと吸いつく感覚がある。ゆっくり、一歩一歩、身体を引き上げる。ちょっとずつ高度を稼いでいくと、足元の地面がどんどん遠ざかっていった。
怖い。落ちたらただじゃ済まない。けれど、下にはもう逃げ道はない。このまま引き返しても、あの巨人の足音が追ってくるだけだ。僕は何度か呼吸を整えながら、がむしゃらに登り続けた。
どれくらい時間が経ったのか、途中で何度も「もうやめたい」と思ったけれど、ついにある地点で壁の色が変化していることに気づいた。まるで透明な板がはめ込まれているような部分だ。よく見ると、四角い枠の中が向こう側に開けている。……窓? そうだ。これは巨大な窓に違いない。ガラス越しに、何か広い部屋のような空間が見える。
僕は窓のフチをしっかりつかんで、その中を覗き込む。すると、そこには何列も並んだ机と椅子。その椅子に、“人間”が何人も座っている。大人なのか子どもなのか、遠目にも分かる制服のような服装。しかもその中のひとり……窓の近くにいる少年の姿が、どう見ても僕自身にしか思えない。髪型も、身長も、着ているものも――いや、ここから見上げる僕にとっては巨大だけれど、顔立ちは僕そのものだ。
どうして自分がそこにいるんだ? 僕はアリとしてここにいるはずなのに、あの“僕”は人間として椅子に座っている。まさか、あれが本来の自分? この混乱をどう説明すればいい? 声をかけようにも、ガラスは分厚く、隔たりがある。だけど、どうにかして伝えたくて、僕は窓を小さく叩きながら叫んだ。
「おい! 聞こえるか!? おい、ユウト! 助けてくれ!」
その瞬間、頭の中が真っ白になるような、引き裂かれるような感覚が走った。視界が急にブレて、音も光もぐちゃぐちゃに混ざり合う――。
気がつけば、なぜだか僕は硬い椅子に座っていた。周囲には見慣れた顔のクラスメイトたち。先生が黒板の前で腕を組み、こちらを睨んでいる。教室? 教室の空気、ざわめき、チョークの粉っぽいにおい……すべてが一瞬で視界に広がった。そのなかで先生の声が飛び込んでくる。
「おい、ユウト。いきなり“助けてくれ”なんて叫んでどうした? おまえ、また寝てたのか?」
え……? 寝てた? じゃあ、今の出来事は……夢? 一瞬頭が真っ白になる。クラスメイトがクスクス笑う声を聞きながら、思わず窓際を見る。さっきの“壁”の向こう側にいたはずの自分と、巨大な空間。確かにそこに見たはずなのに。でも、今の僕は普通に席にいる。
恥ずかしさと混乱で胸がドキドキする。顔が赤くなるのを感じながら、ふと視線を窓に向けると――そこを一匹のアリが歩いていた。何かを探すように、ちょこちょこ動き回っている。まるでさっきまで一緒に逃げ回っていた、あの黒い身体のアリ。その姿がやけに愛しく思えた。
誰かに見られていることも忘れ、僕は立ち上がって窓を開ける。小さなアリが風に揺れる窓枠の上で立ち止まるのを、そっとノートの上に誘導し、そのまま窓の外のコンクリートの上に移してやった。アリは少しだけ触角を動かすと、またトコトコと歩き出す。
「おい、ユウト。何やってんだ?」 先生の声に我に返る。クラスメイトがくすくす笑っている。僕はこそばゆい気持ちを振り切るように答えた。
「す、すみません。……ちょっと、教室に春風を入れようかなって」 「まったく、おまえは夜更かしでゲームばかりしてるから、授業中に眠くなるんだぞ。いい加減にしろよ」 先生が苦笑いしながら注意を飛ばす。クラスの笑い声がいっそう広がった。
僕は窓の外を見やる。そこには小さなアリが一匹、僕の置いた場所を離れて何かを探すように歩き回っている。
【おわり】
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