Fendi 「Life Essence」と余白

フェンディのお店の香り…?

それはある方のツイートからだった。


僕はあの界隈ならヴァレンティノの香りしか覚えていない。というのもヴァレンティノが好きだからである。そもそもヴァレンティノは個人的には2008春夏のヴァレンティノ氏のラストコレクションのドキュメンタリーを見てから気になり始めた(見たことない方は是非。ヴァレンティノレッドのドレスに埋め尽くされたラストは圧巻で、またサントラに使われたマクラーレンとドヌーヴの「Paris Paris」も非常に合っている)。

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シニョール・ヴァレンティノ引退後の若干の迷走後、ピッチョーリとキウリ就任。彼らの繊細かつモダンなデザインに魅了され、2015年の秋冬オートクチュール、ローマを舞台にしたコレクションが自分にとっての「ヴァレンティノ愛」の決定打となった。それからキウリがディオールに移り、ピッチョーリのみのヴァレンティノになったが、ピッチョーリのヴァレンティノはシニョール・ヴァレンティノの70年代…一旦置いておこう。

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そんなシックス、ヴァレンティノの並びにフェンディはある。でもフェンディ、ウィンドウに飾られているのはウィメンズでしかも一体、もちろん興味はあるけれど、ヴァレンティノに比べてまじまじと見たことがないしそもそも店内に入ったことがない。しかしよくよく考えてみるとヴァレンティノとフェンディ、イタリア、しかもローマを代表すると言っても過言ではないブランドが二軒連なっており、そんな「イタリア」な香りが漂う通りなのにヴァレンティノの甘ったるい香りしか覚えていないとは…と思いつつ、そもそもフェンディの香水ってあったかしら...と検索、Fragranticaを見ると28種類しかなかった(ちなみにヴァレンティノは39種類、エルメスは115種類だった)。

悲劇の香水…?

フェンディにとって最初の香水は1985年「FENDI」という名の香水である。調香を見る限りはオリエンタルシプレー系の香りと思われ、また結構華やかそうな香り。FENDIはその後、「Asja Fendi」「Fantasia Fendi」、そしてChristine Nagelによる「Theorema」等々、数は少ないものの途切れずリリースをしているが、ライセンス会社がLVMHに移った際にさっぱり売れ行きが良くないとのことで、2007年の「Palazzo」のリリースを最後に香水部門を休止し同時にそれまでの香りを全て廃番したが、2010年に「Fan di Fendi」を発表し新生・FENDIの香水部門として復活。だが2015年の「L'Acquarossa」を最後にまた休止。まさに悲劇である。とはいえ去年、クルジャンに香水を作らせているのでまた香水部門、復活する可能性があるかもしれない。そんなことを思いつつ気になる香りが3点、「Theorema」、「Palazzo」、そしてこの度手に入れた「Life Essence」であった。

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FENDI初の香水「FENDI」当時の広告

大人しい…?

「Life Essence(以降LE)」、ウェブ上ではすこぶる人気である。なんでも「何故廃番にしたか分からない」「似たような香りはあるか」「思い出」「素晴らしい」等々。またボトルに関して、個性的なデザインが並ぶ中で逆にシンプル過ぎて目立っており尚更気になり始めたのだが、プレミアがついているためか元の値段に比べて高く取引されている様子。個人的にファッションフレグランス沼は「金欠でもそれなりに楽しめる沼」と思っているので約1ヶ月、様々なサイトを見て使用済みだが状態がなかなか良く、値段も元値に近い抑えめなものが出てきたので手に入れた。

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〈デザイン〉
箱に関してはズッカは小さめ、木目の模様が全体にプリントされており、フェンディとは思えないほどの大人しさである。ボトルに関してはシンプル、しかしラベルが貼られているところは凹んでおり、シンプルなボトルだが汎用品ではないことをこれまた控えめに示している。ラベルの裏に詳細が書かれており控えめかつ合理的、また木製の滑り止めが刻まれている蓋等、ぱっと見なら普通だがよく見るとそれなりに凝ったデザインと言える。

ちなみに日本の正規代理店はクラランス輸入のものだったそうで、クラランスのものはノズル部分が白いものが採用されている様子。たまに違う代理店のものでバネが見ているノズルもあるので注意(海外ではスプレー無しで販売していた様子だったので、輸入元の方でスプレーを入れた可能性もあり)

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ラベルシールの裏に必要事項が全て書かれているというミニマルさ

〈香り〉
(使用済みではあるので未使用品とは違う可能性があるが)付けたては苦味のあるレモンがけっこう華やかに香るが数分で消え、シダーとサンダルウッドがウッディな要素として(おがくずを思わせつつも)静かに香り、ベチバーとクローヴが若干にゼラニウムのアクセントが長く続く、と言っても全体的に控えめでまさにEDTらしい香り方である。ある方のレビューでは自然派のワイン、田舎のシックなリゾートと例えている方もいたが、なるほどと思った。リフレッシュも兼ねた落ち着く香り、それこそ例えばオーベルジュの客室のリネン類がこの香りだったら多分忘れられないだろう。窓からはワイナリー畑が望めるような部屋…そんなこんなでロメールの「恋の秋」を思い出す。ロメールの「恋の秋」、コート・デュ・ローヌ地方が舞台の作品で、登場人物の1人はビオワインを作ろうとしており、撮影された季節がちょうど初秋、昼間は暑く夜は涼しい気候の頃で、そんな爽やかな気候にぴったりな軽やかな作品なのだが、このLEも同じように今の季節に合うような軽やかな香りと言えると思う。

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似たような香りということで真っ先に思い出したのはエルメスの「Terre d’Hermes」。ただTdHはLEに比べて全体的にビジネス寄りというかLEにあるような淡さがなく、いわばニシャニアンのデザインにあるような遊び心のある紳士服に合うだろう香りで、それに対しLEはシンプルな紳士服、特にとびっきり仕立ての良いというわけではないがまあ安い服でもない、それなりなシンプルな紳士服に合うだろう香り、とでも言うべきか。または仕事終わりでも香りを他人にも感じてもらい、そこから話が広がればいいなと思う人はTdHがいいかなと思うし、基本香水は自分だけが楽しむものでまた、香水に対して「消えゆく儚さ」のようなものを感じたい人にはLEがいいかなとも。

(ちなみにLE、香料の質に関しては「値段相応」なので、付けすぎると「安っぽく」感じられることもあると思うので注意)

エッセンス…?

さて、このLEは調香はFlorbathによる物。このFlorbathは2000年にYSL Beauteに吸収されたそうである。そんなYSL Beauteで紳士物、また発表された年がLEにまあまあ近く似たような名前ということでZegnaの「Essenza di Zegna」を戸棚から出してみる。こちらも今では廃番、海外での人気がいまだに高くプレミアがついているものの、香りそのものには別に目立った特徴はなく、ゼニアだけでなくフェラガモやダンヒル等々よくある紳士ブランドにありそうな香りだがEdZには淡さがありそれらものとは一線を画している。しかしLEと比べてみるとLEはさらに淡く、EdZにはないウッド由来の甘さがある。
ところでZegnaとFendi、どちらもイタリアのブランドだが、Zegnaはオンオフで使えそうな香りなのに対し、Fendiはオフでの仕様がメインになりそうな香りで方向性が違うのが面白い。Zegnaはあくまでもフォーマル、それに対しFendiはモード。その違いが香りにも表れているような気がする。

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ボトルのデザインも全然違う

余白…?

LE、届いてすぐに付けた時に単純に「いい香り」と思った。逆にこの香りが「苦手」という人はなかなかいないのではとも思う。誰にもイヤな気をさせない。昨今のファッションフレグランスはEDTでも香りが長持ちするものが多い分、重く甘い香りやスパイシー、または好みが分かれる香りが多い印象だがこのEDTならではの軽やかさ(「値段相応」なのかもしれないが)、また万人に受けるだろう香りは逆にどこか新鮮に感じている。自重した香りというか、もちろんファッションと自己顕示欲は親和性が高いものだが、その「控えめさ」は既に過去のものになった気もする。ある意味、「L’air de Rien」以上に「L’air de Rien」で、余白のある香り。でも完全に消えておらず、その余白さえも楽しめる香り。ところで李禹煥は「余白の芸術」でこう語っている。

「芸術作品における余白とは、自己と他者との出会いによって開く出来事の空間を指すのである。」

LEには「他者」との出会いがある。そしてその「他者」はもしかしたら「私」かもしれない。香水と私との出会い。肌に残った、既に淡くなった香りに空間を見出せるかもしれない。

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UOMOだけど、女性でも全然使えそうな香り


...ところで、シックスのフェンディのお店の香りってどんな香りなのかな

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