其の四(Chapter91→123)
Chapter91
〜牧野課長とイチトシさん〜
今日から通常業務に戻る。
"現場状況 把握書"を用いて、どこの課が何人足りなくて、どういう状況かを把握、実際に現場へ行き照合する。
そこから入社希望者の配属先を決定するのだが、この頃から牧野課長と、イチトシ推進室長の関係に違和感を抱くようになる。
なんというか、課長の態度がおかしい…。
イチトシさんも難しい顔をしている。
俺:~なんで?~
終業後、帰り支度中の課長を一階更衣室で捕まえ聞いてみた。
すると、今回のアメリカに行くほどの大きな不良が発生した中で、初井課長不在の現場をイチトシさんが責任者として対応していた。
その対応具合が上役(責任者)にはあるまじき立ち廻りで、結果、牧野課長が悪い…的な扱いにされたらしい。
課長とすると、あくまでもイチトシ推進室長が上司で、全てにおいて最終決定権がある為、明確で適切な指示を出さなければいけないのに、結果的に巧くいかず、牧野課長の采配ミスという形にされたとのこと‥、俗に言う"人のせいにした"だ。
そりゃ、牧野課長も怒れるだろう‥。
常々、牧野課長は
牧野課長:「上の者は下の者の尻拭いが仕事。責任とれない上司はいらない」
と俺に教えてくれていたのだから。
また、現場を巡回中にこんな噂も聞いた。
結婚し、子供も出来たイチトシさんだが、夫婦関係が巧くいかず離婚しただの…してないだの…。
私生活は一切表に出していない人だけに真偽のほどは定かではないが、プライベートがうまくいかずイライラしての八つ当たりか?とも思う‥。
後日、それが確信に変わる。
"現場状況 把握書"を元に、どこの課に何人配属しなければいけないか?を俺は決め、承認を貰う為に牧野課長→イチトシ推進室長、二人の席へ行ったところ、牧野課長はイチトシさんの顔色を伺い明確な指示を出さなかった。
イチトシさんは、
イチトシ:「なんでこの課に配属するの?」
と、あーでもない、こーでもない言うだけで一向に結論を出さない。
結果、二人は明確な指示と承認を出せなかったので、痺れを切らし、後ろに控えていた君沢部長が決めてしまった‥。俺は、
俺:~なんなんだ?二人とも~
と思った。
その時、ふと、イチトシさんの手元を見ると指先がガサガサに!!
それは子供がよくやるストレスでの指噛みの跡だった。
俺:〜ほんとうだ…これは普通じゃない‥〜
このころから牧野課長とイチトシさんの関係が明確にギクシャクしはじめる。
Chapter92
〜選挙要員〜
会社とすると"イチトシさん"に経験を積ませ、立派な社長になってほしいのだと思う。
君沢部長も俺にそう言ってたし、そりゃそうだろうと思う。
しかし、部下の牧野課長を巧く使えないのであれば、それは問題だと思う。
そんなとき、イチトシ推進室長から直接 俺に指示が来た。
それは選挙運動の応援についてだ。
この選挙運動とは、親会社が応援する人物が出馬するとき、下請け協力会社に"協力"の要請をする。
すると下請け各社、選挙要員として数名、活動の支援に行くのが暗黙の了解となっていた。
具体事例として以前こんなことがあった。
七海興業から程近くにある部品工場に、当時の某大臣が立候補者の応援に来た。
その時は七海興業事務所全員乗り込んだマイクロバスで駆けつけ、盛大な拍手で出迎えた。
そのぐらい、親会社が関係する選挙については盛り上げなければいけない。
この時も次期選挙に向け、下請け5社が集まらなくてはならないことになった。
この場合、いつもならイチトシさんが行くのだが、その日は都合が悪く、代わりに俺が行くよう指示があった。
俺はイチトシ次期社長の代理ということで、真っさらで下ろしたての作業着を事務員に出してもらい、恥ずかしくない様 取り繕った。
そして集まりの場所へ行った。
既に各社の偉い方、皆さん揃っている。
俺:「大変申し訳ありません、本日 イチトシは別件で不在の為 自分が代わりに伺いました。」
と普段使わない様な言葉で御挨拶。
すると別会社上役風の方が
上役風:「なんだ…今日はボッチャン居ないのか…。ふんっ!」
との事。
俺はこの言葉を聞いて察した。
俺:(イチトシさん、他社の上役から軽く見られている‥舐められてる‥。)
確かに背も低く、ポッと出のパッと出。
実績も無いし人脈もない、そりゃそうだ。
更に別の選挙応援時、会社の2トン車でイチトシさんと2人、選挙詰所の後片付けをしなければいけなくなった。
いざ行くと他社の若い子に、
男:「おーぃ、イチっ!こっちの荷物片付けてっ!」
イチトシ:「はーい」
俺はギョッとした。
ここでも軽く見られてると察する。
七海興業内とは全然違う…。
俺のイチトシ推進室長に対する見方が、また少し変わった。
Chapter93
〜タスケテクダサイ〜
ある日の昼休み、事務所一階食堂で昼飯食べた後、そのまま浜梨さんと雑談していた。
すると、一台の社用車が入ってきた。
車からは人事の日系人班長:春吉(ハルヨシ)さんと、同じく日系で元寮長の八千代(ヤチヨ)さん、そして1人の作業者が両名に抱えられ降りてきた。
この作業者は七海興業が請けもつ主力工場の1つ、老舗の"第一工場"から連れてこられた者らしい。
俺:〜ん?なんかおかしいな?体調不良か?〜
と思っていると、その二人に抱えられ降りてきた作業者は、太陽の方を向いて般若心経の冊子を大声で読みながら
作業者:「タスケテクダサイ!タスケテクダサイ!!(泣)(ᗒᗩᗕ)」
と激しく泣いている…。
昼食中の皆、呆然…。
皆:~なっなんだ?~!!
どうも作業者が狂ってしまった様だった…。
実は七海興業では良くある話。
以前の前村さんの鬱もある種そうだし、他の日系人班長も狂ってしまい身内が連れ戻しに来た事がある。
更に、もっと過去には5階建ての寮から飛び降りてしまった者も居るらしい。
今回のも、かなりキテる…。
すると俺に応援要請が入る。
〜これから彼を病院に連れていくので、八千代さん一人だけではちょっと手こずるから同行宜しく〜との事。
俺:〜だろうね、了解…。〜
俺は後部座席に乗り込み左側へ、作業者真ん中、元寮長:八千代さんが右側に座り、春吉さんの運転で連れていくことになった。
走り出した社用車、車内での彼は涙を流し、ブツブツ訳のわからない事を呟いている。
真面目そうな子なので、七海興業独特の弱肉強食的風潮にやられてしまったのだろう‥。
無理もない、二十歳そこそこで訪日し、日本語も殆どわからない中、頼る相手もおらず理不尽に毎日攻め立てられ、寮と職場の往復だけでは…。
俺も先日の渡米で 痛いほど判っていた。
俺:〜可愛そうに…。〜
そして、向かうのは普通の病院ではない。
そこはガチの精神病院だ。
会社から30分程走り、山合いの細い道を入って行くと、ひっそり、目的の病院が建っていた。
俺:〜こんなとこに病院があるなんて…。知らんかったぞ…。(☉。☉)!〜
と思った。
Chapter94
〜玉:袋:切:内:出〜
外観は全然病院ぽくない。
保育園?幼稚園??の様な平屋の白壁の建屋。
自動ドアの付いた入り口から入り、春吉さんが受付をしに行った。
その間、後部座席で八千代さんと対象の作業者をガッチリホールド中。
作業者は時折泣き出し、訳のわからない事を言っているが比較的大人しい…。
八千代さんと目で合図し 春吉さんが戻るのを待つ。
暫くし、OKが出たので2人で病院内へ連れていこうとした。
すると、突然、作業者が暴れだしたヽ((◎д◎))ゝ。
八千代さんは母国語で落ち着くよう言っている様だが、作業者は全く聞かず更に暴れる。
俺は咄嗟に柔道の体落としで地面にねじ伏せ、押さえ込んだ。
作業者は身動きを制され大人しくなる。
八千代さんもホッとした様子。
俺は医師を呼んでくるよう八千代さんに依頼した。
すると八千代さんが、
八千代:「ウワッ!?ナンダコレッ!!」
どうしたの?と顔を後ろに向けると、作業者の股間が真っ赤に染まっている!!
俺:「えっ…??!!!」
それは作業者自ら、自分の玉袋を裂いたからだった。
その出血で下半身血まみれに…。
~ど、ど、ど、どうやって??、刃物でも持ってたの???~
俺、八千代:「ヒャー!!!」
現場は騒然…!!(╬⁽⁽ ⁰ ⁾⁾ Д ⁽⁽ ⁰ ⁾⁾)
すぐ先生が診てくれたが、精神科のため専門外、応急処置しかできないとのことで他の病院に移送されることに…。
だが、受け入れ先がなかなか決まらず、自分で切り裂き、玉が飛び出した股間を大人用オムツで止血し応急処置、長椅子に寝かせ待機する‥。
でも、いつまでたっても進展せず、すっかり夜に…。
俺は牧野課長に電話した。
俺:「すいません、課長。トラブルありまして、まだ、時間かかりそうなんですが、交代要員なんとかなりませんか?」
と伝える。すると、
課長:「すまん、どうにもならん。
そのまま同行していてくれ‥。」
とのこと。
その後、この作業者は手術の為に市民病院に入院出来た。
が、決まったのは日付が変わる頃だった。
その為、春吉さんも八千代さんも、みんなクタクタ…。
ほんとに参った…長い1日だった…。
それから数時間後の早朝6*00、嫁のきよみが産気づき、待望の長男が産まれたのだった。
Chapter95
〜悪党は悪党〜
悪夢のキンタマ事件から数日経った。あの作業者は手術を受け無事、精神病院に入院したとの事。
定期的に春吉班長が面会に行き、帰国出来るタイミングを見計らっているらしい。
さて、俺の方は現場を廻りつつ各課の現状把握に努めている。
やはり、全ては今を正確に知ることから…"現場状況 把握書"との照合を続ける。
そんな中、第三工場に足を運ぶ。
そう、あの勅使河原の課だ。
第二工場の黒下との極悪二人組は今だ七海興業の稼ぎ頭である3工場の内、2つを担当したままだ…。
納得行くはずもないが、君沢さんが決めた事なので仕方ない‥。
俺は以前の事をなるべく考えない様に巡回する。
しかし、今は以前より比較的巡回しやすい。
それは先日から第二工場より、騎士塚組長が移籍したからだった。
"騎士塚組長"とは、俺が黒下から逃げ出す晩、全てを打ち明けた組長。(※Chapter34参照) あの後、黒下に見事に潰され勅使河原の元へ移ったのだった。
騎士塚組長:「久しぶりだな、どうだ?元気か??」
俺:「組長、お疲れ様です。お陰さまで、なんとかやってます。」
騎士塚組長:「そうか、そりゃよかった。」
この騎士塚組長からこの第三工場の現状を聞く。
相変わらず勅使河原の悪業が酷いらしい。
≪悪業1≫
業務中に携帯で出会い系サイトをやり、無料(タダ)で遊びたい為、部下に自分がやってるサイトを紹介、無理やり入会させ、紹介で得たポイントを使い新たに女性を見つける。そしてその女性と仕事中に待ち合わせをし、そのままホテルで逢瀬を楽しむ…。
≪悪業2≫
月に一回、役職者の飲み会を開催させ、自分は一切支払わず会費を高めに設定。お金を余らせる様に幹事に指示を出し、残った会費は全て自分のポケットマネー化させる。
≪悪業3≫
賞与が支給されたタイミングで
「作業者が日頃から頑張ってくれている御礼をしよう」と言い、独自の半年後のイベントを企画。三万円ほど役職者から徴収し実際は自身のポケットマネー化させる。
≪悪業4≫
会社から支給された作業で使う手袋を、事務員に管理→販売させているが、その売上は課の備品を買うと言いつつ、自身のおやつ代に横領してしまう。
≪悪業5≫
上記の悪態に気付き、指摘非難した者は退社へと追い込まれる。
などなど‥。
更に酷いのが、ここの女性事務員に対するパワハラとモラハラらしい。
以前にも述べたが、勅使河原は直ぐ女性を好きになってしまう傾向がある。(Chapter20参照) 何とか格好良いとこを見せようと立ち振る舞うが、相手が全く興味を示さないと、反転、パワハラに走るのだ。
その陰湿さはなかなかのもの(怖)。
例えば、事務員の隣で事務員の嫌みを聞こえる様に言い精神的プレッシャーをかける。
例えば、整理整頓の実施確認と称し、彼女の机中を不在時に勝手に漁りプライベート情報を盗もうとする。
気狂いなのか?盗人なのか??(怒)。発展途上国のスリ集団みたい、そんな奴が課長…トップって…(ʘᗩʘ’)。
しかもこれが初めてではない。
新しい女性事務員が入る度に毎回やるのだ。
これをやられ、事務員が辞めていく度に君沢部長は
君沢部長:「なぜ、お前のとこはすぐ事務員やめるんだ?」
と勅使河原を本社へ呼び出す。
この時、指導、注意されるのだろうが明確な罰も何も無いため結局そのままに‥。
今回の事務員はセクハラ、パワハラの全てを君沢部長に話した結果、この事を公にしないという約束をとりつけ、半年間の有給休暇を獲得して退職したと聞いた。
つまり、会社は彼女を金で黙らせた…と言うことなのだ。
何度も言うが悪党はどこまでいっても悪党だ…。
部長も何故?こんな奴らを課長に据えておくのか??ホント、疑問に思う…。
上役の多くが職長権限を乱用し悪事を働く会社…それが七海興業。
俺はそんな奴には絶対にならん!!
そう誓った。
Chapter96
〜会長監査の日〜
今日は年に一度の会長監査の日。
この会長監査とは、親会社の会長が自社の主となる工場に実際に赴き、重役達と工場内を歩いて見て回る、そして生産の無理、無駄、ムラの3つを指摘して、より利益がでる会社へしていくという年一回の恒例行事だ。
廻られる現場としては非常に嫌な行事。
もしこの時、指摘を受けたら何がなんでも言われた通りに対応しなければいけない。
出来なければ、担当責任者の降格や転勤など何らかのペナルティがあるらしい恐ろしい行事‥。
これには七海興業も例外ではない。
親会社から構内請け負いとして工場内の一部生産エリアを任されているので、同等の扱いを受けることになる。
この為、七海興業の社長もこの日ばかりは工場に出向き、親会社の会長に同行する事となっている。
そこには君沢部長、イチトシ推進室長、牧野課長、不動部長、浜梨さんも同行する。
(※以下、社長を除く上記6名を七海興業幹部衆とします)
そして当日になった。
その日、午前中は七海興業エリア、指摘を受けることもなく無事終わり、一旦、七海興業幹部衆 、皆、事務所に昼食を食べに戻ってきた。
社長も君沢部長もホッと一息。
午後の監査再開に向け再び支度をし始めたとき、俺は部長から呼び出された。
君沢部長:「イチトシが見当たらない…電話をかけても出ない。もう行かなければいけないのに…探してくれ‥。」
とのこと。
俺はただならぬ事が起こっている様な感じがした。
君沢さんの傍らには社長が相当イライラしている様子で待っている。
部長も早く探してくれと目で合図してくる。
俺は事務所の一階食堂、喫煙場所、駐車場、トイレ、二階…などを探し廻ったがイチトシ推進室長の姿は無い。
俺:〜まずいぞ!早く見つけ出さないと…〜
と事務所三階に上がったところ何やら大きな声が…。
俺:〜なんの声??〜
音がする部屋を覗いてみた。
そこは会議室なのだが、不動部長とイチトシさんが言い争っていた。
イチトシ:「……%¥%$π#√って言ってたじゃないかっ!!!(怒)」
不動部長:「ふんっ?俺は知らない!(怒)」
お互い顔を真っ赤にし言い争っている…俺は(これはイカン…)と思い、
俺:「イチトシ室長!社長と君沢部長がお待ちです!午後の監査が始まりますのでお急ぎください!!」
と大きな声で言い、君沢部長の元へ駆け出した。
先程よりイライラして待っている二人。
俺は部長に駆け寄り、耳元でそっと、
俺:〜三階で不動部長と揉めておりました。理由は解りません。もう降りてくると思います〜
と伝えた。
すると部長は呆れた顔で「ふんっ!」と咳払いをし、社長に状況を伝えに行った。
最近のイチトシさんはおかしい…。
牧野課長ともそうだし、不動部長とも揉めて…。
一体どうしたんだ?と思った。
それから数ヵ月後、不動部長は定年後の契約延長はせず、七海興業にさっさと見切りをつけ退社していった…。
また独り日本人が辞めていった。
しかも超幹部、金庫番の部長がだ…。
いや、辞めさせられたのか…?
日本人がどんどん辞めていく会社、日本に居ながら日本じゃない様な会社、それが七海興業…。
このままでいいのか??
俺は変えたい、世間に誇れる会社に。
そう思った。
Chapter97
〜白い布に包まれた箱〜
俺はいつも樋畑(ヒバタ)さんという方と昼ご飯を食べている。
この樋畑さんは総務(先日退社した不動部長が一応の責任者だった)に所属していて、連絡車の管理や、アパートの管理など、全て担当している何でも屋の方。
今日、この樋畑さんから応援要請があった。
内容は、七海興業のアパートの一室に、既に退社した高齢夫婦が居るのだが、全く連絡取れず、尚且つ、近所で姿を見た者が居ない日が続いている。
今日、室内の確認をしたいから一緒に来てくれ‥とのことだった。
樋畑さん自身、先日、アパートドア前まで訪問したが、人の気配を全く感じ無かった為、躊躇し引き返したとの事だった。
これは嫌な仕事だ…、もし、部屋で○体でも見つけ様なら…(@_@)(汗)
七海興業なので実際ありえると思う。
要請があれば仕方ない。
牧野課長に許可をもらい同行することにした。
移動の車内で樋畑さんに詳細を聞いてみた。
この行方不明の方は以前、君沢部長がまだ現場の課長だった頃の部下らしい。
定年後も数年、契約社員として働き、後に勇退となったが子供がおらず、病気がちな奥さんと二人 、君沢部長のご厚意で そのまま七海興業のアパートに住まわせてもらっていたようだった。
それが最近連絡もとれず行方が判らなくなっている。
部長は何も言わないが、心配している事だろう…自分の部下だったんだから…。
さて、アパートに着いた。
七海興業事務所から車で10分ほどの二階建てアパート。
築年数は数十年だろうか?
外観もかなり古い。
目的の部屋は1階。
まず、俺は玄関ドアに付いてる郵便受けから中の様子を伺った。
人の気配は樋畑さんが言っていた通り無い。
次に室内の匂いを鼻を押し当て嗅いでみた。
‥‥匂いも無い…。
どうやら最悪の事態は無さそうだ…。
ということで、樋畑さんが持ってる合鍵を使って玄関を開けた。
すると…中に入ってギョッとする…!
居間はゴミだらけの埃まみれ…。
挙げ句の果てに床の畳は腐って抜け落ちかけていた。
俺と樋畑さん:〜………(‘◉⌓◉’)(絶句)〜
気を取り直し、室内を物色する。
冷蔵庫を、開けると乳製品が入っている、賞味期限は1ヶ月前…。
隣の部屋に行くと"日めくりカレンダー"があり、1ヶ月前の状態。
ここから判断するに、どうやら、ひと月ほど前から消息を断った様だ。
その時、ある物が目に入り、二人で固まった。
それは机の上に置いてある"白い布にくるまれた箱"だった。
俺と樋畑さんはそれが何かすぐに解った。
それは骨壺…。
隣に小さな遺影写真。
どうやら奥様?が亡くなった様子。
俺:「‥奥さん亡くなったんですかね。荼毘にふせたあと、独りになったのでそれを悲観して…?」
それ以上は言わなかった。
一度事務所に戻り、樋畑さんが君沢部長に報告した。
部長は「ふんふん…」と頷き、なにやら指示を出した様子。
結果、七海興業側で故人を無縁仏として供養してもらうことになった。
供養代の50万を樋畑さんが持って、俺は白い布にくるまれた箱を抱えて、近くの寺に行くことになった。
そして部長の指示通り、和尚に御願いしたところ快く引き受けてくれた。
道中、寺の参道を壺を抱え歩いていると、七海興業の取引先の会社社長婦人とバッタリ会う。
すると…
婦人:「あらっ…身内の方が亡くなったの?大変ねぇ日本まで来て。気を落としちゃ駄目よ…。」
と慰められた。
どうやら俺は日系人で壺の身内の者と間違われた様だ。
そりゃ、そう見えるよね、何も知らず黙ってれば日系人に見えるよね。
俺達は軽く会釈して会社に戻った。
帰り道、寂しい気持ちになった…。
あれからも、部長の部下だった方は見付かっていない‥。
Chapter98
〜小さな金正恩〜
七海興業が親会社から任されている工場には第一工場(禊課長)、第二工場(黒下課長)、第三工場(勅使河原課長)がある。
この3ケ所が七海興業の売上を大きく左右する主力工場、つまり稼ぎ頭なのだが、それ以外でも担当するエリア=課はいくつかある。
先日アメリカまで行った初井課長のとこや、前村さんが以前在籍して居た課、さらに樹脂系の部品を扱っている専門の課もあり、その樹脂工場を担当している課長で頬杖(ホオヅエ)さんという方がいる。
この担当課長、実はとても癖が強いらしい。
噂では、
「独裁政治を貫く"小さな金正恩"」
「自分に歯向かうものは全て抹殺(退社させる)」
と聞いたことがある。
つまり、系統で言えば黒下、勅使河原系と言うコトか…。
俺:「七海興業にはカスみたいな管理監督者ばかりだな‥全く…。」
と改めて思う。
そこの課は、小さく在籍人員が少ない為、社内ではあまり目立たない。
そして長らく後継者(組長)不在の時期が続いている課でもある。
なぜ組長不在なのか?と言えば
頬杖課長直下の組長は皆、事如く潰され退社しているから‥らしいのだ。
辞めていく組長たちは一応に「あそこは酷い」や「頬杖課長は糞」と口を揃え辞めていく。
そんな中、探りを入れるべく、管理は行き届いてるのか?と俺や茨さんが巡回し現場を確認するが、頬杖課長は常に話しやすく、良い対応をしてくれた。
どちらが本当なのか…?
良い人?悪い人??
正直わからない‥。
そんな中、新しい日本人が入社した。それは頬杖課長の息子、実際の身内が入ったのだ。
つまり頬杖課長が後継者として実の息子を呼び入れたという形となる。
この事は誰が見ても明白‥。
俺:〜よく、君沢部長も許可したな…〜
と思う。
みえみえのコネ入社。
弱みでも握られてるのか?君沢部長…。
その後、案の定、息子は直ぐに班長に昇格し、組長代行となった。
そんな時この樹脂工場で、とうとうパワハラで内部告発があり親会社にも話が廻っていると言う情報が入った。
つまり頬杖課長の悪事が発覚したと言うコト‥。
細かい事までは判らないが、親会社から七海興業事務所へ直接、苦情が入り、会社としても放っておけなくなった為、君沢部長は頬杖課長を呼び出した。
事情聴取すると、以外にも、頬杖課長はアッサリ全てを認め、自主退社を申し出たらしい。
それに伴い、息子も同じく退社する事となる。
これには君沢部長と頬杖課長との間で、何か裏取引があったかどうかは判らない。
が、この課はとうとう課長まで不在となってしまった…。
そんな中、部長指示で牧野課長が火消しの為、その課へ足しげく通い、親会社へ迷惑がかからない様に暫定対応し始めた。
もともとは大きな課を担当していた牧野課長なので、小さなところは屁でもなかった様子。
また、息苦しいイチトシ推進室長が居る七海本社事務所よりは良いらしく、生き生きしていた。
だが、これが俺にとって後々大きな災いになっていくのであった。
Chapter99
〜同行依頼〜
今日、禊(みそぎ)課長が担当する第一工場の優秀な日系リリーフマンが突然辞めた。
「国に居る家族の事情で急遽帰らなくてはならなくなった…。」と言って、その日の内に飛行機に乗って帰国してしまった。
ここで、リリーフマンについて説明する。
七海興業の現場役職者は、上から課長→組長→班長という職があり、その下にリリーフマンという異常処置者がいる。
彼らは能力が高い作業者から抜擢され、次期班長候補として働くのだが、この急遽帰国した子も現場では仕事が出来ると評判の優秀なリリーフマンだった。
そんな彼が突然退社とはなぜ?
だいたい辞める1ヶ月前には上司や現場へ事前に知らせ、自分が居なくなっても現場が困らない様に準備期間をつくるものだが、即日帰国なんて…??。
よっぽど家族が大変な目にあっているんだろう…と俺は思っていた。
翌日、本当の帰国理由が判る。
朝、スーツ姿の男性二人が七海興業事務所を訪ねてきた。
事務員が君沢部長へ繋ぐと応接室に入っていった。
それを見た俺は、
俺:〜何かあったな…〜
と直ぐに察した。
案の定、君沢部長から俺に呼び出しが掛かる。
部長:「悪い、この方達(スーツ姿の2人)と一緒に行ってくれるか?」
俺:「わかりました、どちらへ?」
部長:「七海興業の○○アパート」
このスーツ姿の男たち、実は刑事だったのだ。
そして、先日帰国した、あのリリーフマンが容疑者としてあがっていて、共犯者とおぼしき作業者の家宅捜索に同行して欲しいとの事だった。
ちなみに容疑内容は"殺人"…⊙.☉。
それはニュースとなってテレビで朝から放送されていた事件‥。
ニュース:「えー、この山林に背中を滅多刺しにされた外国人○○さんが遺棄されていました…。」
俺はギョッとした。
七海興業、さすがに殺人はまだ無かったが、とうとう…ギョギョギョ‥!!!。
会社内外に衝撃が走る‥。
Chapter100
〜風呂場のルミノール〜
それは容疑者の友人が住んでいたアパートへの同行依頼。
どうやら、出国するときに空港まで送っていったらしく、警察はこの人物が共犯かどうかの家宅捜索をしたい様だ。
この家宅捜索というもの、警察のみでは実行できないらしく、第三者の誰かが帯同していなけれはいけない事になっており、俺がその役をやることになったのだ。
先にアパート着き、駐車場で待機していると、県警の鑑識課が数台の車輌でやって来た。
彼らは手際よく"2手(ふたて)"に別れ、室内の荷物を外へ出していく班と、室内の指紋採取を行う班とで作業し始めた。
俺は初めて見る光景に好奇心をくすぐられ、いろいろ聞きたくなった。
室外班の方ではアパートの駐車場にブルーシートを敷き、部屋から持ってきた物を綺麗に並べている。
その中には住人の保温式の弁当箱まであった。
これの蓋を開け中身を確認し、同じ様に綺麗に並べる。
そしてシートいっぱいに様々な品物が揃うと小さな黒板に調査詳細を記入し、一般的な一眼レフカメラで階段の上からパチリッと撮影した。
俺:「なんでデジカメじゃないんですか?この御時世に‥」
鑑識:「それは、デジカメだと加工できてしまうので不正が無い様、一般的なカメラを使うんですよ。」
以外にも、俺のたわいもない質問にも快く答えてくれる鑑識課の方。
一方、室内では刑事モノのテレビ番組で良く見る指紋採取が続いている。
ポンポンポンポン…耳掻きの後ろ、大きな綿みたいなヤツでTVやゲーム機などの家電を中心にやっている。
やられた家電たちは真っ白になっていた。
俺:〜すげー、TVで観た通りだ〜
その時、風呂場に呼ばれた。
鑑識:「今からルミノール反応の確認をします。この試薬が○色になったら血液反応が出た事になりますので。よく見ていてください」
俺:「はい、わかりました。」
排水溝付近を綿棒で擦り、試薬につけ蓋をする。
それをシャカシャカ振ると…見事に○色に変化した…。
俺:「○色に変わりましたよ!(驚)
‥ってことは血液反応が出たって事ですよね?もしかしてここで…??」
鑑識:「はい、確かに反応がでました。しかし風呂場は髭を剃ったり、身体を擦ったりするんで、出血による血液反応は出易いんですよ。」
そう答える鑑識。
俺は、(恐らく、捜査項目的なモノがあって、この風呂場のルミノール検査もやらなければいけない項目の1つになってるんだろうな…)と思った。
夜も大分更けてきた。
既に23*00を過ぎていて、作業も終盤を迎える。
部屋のベットに腰掛け、見守っていた俺。
外は既に真っ暗で、撮影班も作業が終わった様で室内班に合流、全員でこれから後片付けをするという。
真っ白になった指紋採取済の家電を元の位置に戻し、1つ1つ綺麗に拭いていくのだ。
これはTVでは放送されない部分、(ちゃんと後片付けするんだ…。)
俺は驚いた。
その後、駐車場に一同集まり、鑑識の代表者から
代表:「これは、私達から貴方(俺)への御礼です、遅くまでお付き合い頂きありがとうございました。」
と菓子折りを渡された。
俺:〜そうだったの?菓子折りくれるんだ。これもTVでやらないよね〜
と感心した。
翌日、通常通り出社し牧野課長、君沢部長に報告。
その日のうちに頂いた菓子折りは事務所内で配られた。
《追伸》
※この共犯者と思われた作業者は友人として空港まで送っただけという結果になりシロでした。しかし、帰国した容疑者は未だに逮捕されていない。なぜならこの作業者の母国と日本は容疑者引き渡し協定が無い為らしい。いまでも県警のホームページには殺人の指名手配犯として掲載されている。
Chapter101
〜QC ※Quality Control〜
七海興業では毎年5月に、ある社内イベントがある。
それは"QC社内選抜"というもの。
ここで言う"QC"とは「Quality Control」の略で、日本語訳では"品質管理"を指している。
やり方としては、従業員が5~6名程のグループを作り、業務時間外で自身が関係する業務で起こる問題を、チームメンバーと一緒になって解決していく活動を指す。
この活動には幾つかルールがあって、大前提とし
"1:経営者側の人物は参加せず推奨側に廻ること"
"1:参加する者は役職に関係無く活動すること"
"1:普段口数少ない人に発言の機会を与えること"
などがある。
このQC活動、TOYOTAを始め大きな自動車会社ではどこも実施推奨しており、親会社も無論、年一回、下請けを巻き込んで大々的に発表会を実施し、世界大会まで開催するイベントとなっているのだ。
その大会予選に向け、下請け各社は前哨戦とし社内選抜大会をやるのが通例。
そのQC活動をより円滑に進めるためのスキルを身に付けようと、今日から1泊2日で親会社主催の研修へ行くことになった。
また、今回の研修、各下請け会社より2名出席ということから浜梨さん(※Chapter65参照) にも同行してもらうことを俺は提案、会社側も浜梨さんも快く引き受けてくれた(・∀・)。
浜梨さんには、俺が運転する社用車 助手席に乗ってもらい研修会場へ向かった。
道中の車内では話が弾む。
浜梨さんとは、あれからも何度か一緒に釣りに行き、仕事上、工数について教えてもらったりし、良い関係を築いていた。
俺の中では近い将来、俺が君沢部長の様になって、浜梨さんが不動部長の様になるイメージ。
それは車の両輪の様な感じ。
一緒に七海興業を運営していくだろう未来予想。
だから、今回の研修は更に仲を深める為の絶好の機会と捉えていた。
さて、車を走らせて20分ほどで目的の旅館に着く。
ここを親会社が貸し切り、元工場長クラスの偉い方が講師となって、
「QCは素晴らしい、是非御社でも進めてくれ、さすれば親会社も良くなる!」と熱く語るのだ。
夜は夜で飲みニケーション。
「この仲間意識が大切なので忘れるな!」と熱弁されてた。
翌日は他社の方々と混成グループを作り、擬似的サークル活動を行い報告までした。
そして自社社長まで閲覧される"研修受講報告書"を書いて終了。
これにより、今回得た知識を自社で普及させ、よりQCを推進させる事が社命となった。
数日後、俺と浜梨さんは本社事務所でこの教えを忠実に守る為に活動に入る。
なにせ社長まで承知している社命だから"やらざるおえない"。
やるからには、七海興業のモデルとなる様、基本に乗っ取った忠実なQC活動に徹する。
昼休みに自腹でコーヒーとお菓子を用意、楽しい雰囲気を作った中で掃除のおばちゃんから、女性事務員にまで積極的発言権を与え、要望が上がれば、俺の出来ることなら速やかに対応し信頼関係を築く。
そこでQCの知識を教え、実践し効果金額として出せる過程を体感させた。
こうすればQCに興味をもってもらえる様になるし、コミュニケーションもしやすくなる。
殺伐とした事務所も情報共有が行われ、働きやすい環境となり皆が生き生きしてきた。
この活動計画、実施状況、結果報告をその都度、君沢部長、イチトシさんへ報告し、地道に、確実にQCの教えを守って進めていった。
これには、近い将来の次期社長体制→イチトシ新体制へ向けた地盤作りと考え、俺と浜梨さんがイチトシさんから受けた指示を今後、事務所内でスムーズに回る様にする狙いもあった。
結果、翌年には今まで
社員A:「私はそこまでやらない」
とか
社員B:「なんでそんなことやらなければいけないの?」
とか
社員C:「恥ずかしい」「無理」「出来ない」
と言っていた者たちは
〜私がリーダーやりますよ。〜
と自発的な行動をする様になり、
社内選抜大会では発表者を勤めるまでに成長してくれた。
間違いなく、俺と山梨さんの活動は実を結び 研修で教えられた通り、宣言した通りの結果を得られる様になっていった。
そう、QCは結果を追い求めるだけでなく、過程を大切にし、結果、人材育成をする最も良いやり方なのだ。
人は宝、人罪(じんざい)→人財(じんざい)に変える事が究極目標と教わった事を実行できたのだった。
Chapter102
〜嘘〜
だがQCには裏がある。
俺は気付いていた最初から‥。
あれは絵に描いた餅、机上の空論、皆、知ってる。
社内選抜大会は、もはや盛大な嘘つき大会。
役職者が一瞬でやった問題解決を、さも作業者が自ら、チームを作って時間をかけて解決した…風に演出、その感動の"ウソ報告書"を部長、イチトシさんは「良くやった!」と拍手し、賞状を与え、賞与査定に反映させる。
これは言わないだけで周知の事実‥。
無論、俺も浜梨さんも知っていた。
だが、こんな嘘だらけのやり方はもうヤメだ!俺は本当の事を、真実を、推し進める!クリーンでやりがいある、地域に誇れる会社にするんだ!!
推進室立ち上げ当初、アホほど言わされた"管理とは…『全てのモノを"ゼロ"から見る観点で現状を把握し、明日に向かってより良くすること』" (※Chapter46参照)
コレを社内に推進するのは今なんだ!
さすれば悪い奴が昇格し、未だに課のトップで居れる時代も終わる!
イチトシ新社長体制になったら、パワハラ、モラハラ、嘘は許さず、地域に誇れる会社、自分の子供を是非入れたい!大人にしてやってくれ!!と思われる会社にするんだ!!!
と‥。
その効果が現れ始めたのだ、やっと…。
君沢部長もこの状況を望み、俺にやらせているのだろう。
なぜなら計画も、経過も、結果も逐一報告し、考えにズレがあってはいけないと擦り合わせも随時行いながら進めてきた。
俺にしか出来ない!現場で酷い目にあった俺だから改革出来る!会社も望んでる!事務所は見本!これを現場の悪党どもに解らせてやる!!と意気込んでいた。
すると、イチトシ推進室長がおかしなことを言い出した。
イチ:「チームを解体し、自身が頭になってQC活動をやり直すから‥。」
って。
俺:〜えっ?(ʘᗩʘ’)ちょっと待ってくれ…、ここまでの環境とメンバーへの指導をしてきて、やっっぁあっと形になった矢先にソレ?おいおい、止めてくれ…。〜
無論、浜梨さんも同じ意見。
QC活動は、大前提として経営者側の人間が活動に直接参加するのは御法度‥となっている。
自主的活動ではなく、業務になってしまうから駄目!ってある。
なんでそんなことになるのか?
QC解ってる??
と思った。
この為、浜梨さんと二人で君沢部長に直談判した…が、結果は駄目…。
結果、イチトシ体制での活動が始まることに…。
俺は既にやる気を失くしていた。
それは教わった真のQCではないから…。
それからは案の定、イチトシ推進室長は何も行動に起こさない…いや起こせない。
なんせQCを知らない、活動したことないんだから。
指示したのは一度だけ「チーム名を決めろ」だって。
いやいや、形なんてどうでもいいんだ、実際に行動に起こすことが大切なんだよ!言う通り決めたら決めたで「なぜそのチーム名にした?」ってしつこく聞いてソコから先へ進まない。
俺:〜どちて坊やかっお前はっ!ಠ_ಠ
俺:〜屁理屈ばかり言って…。明日に向かってより良くする行動しないの??〜
俺と浜梨さんで部長に再び掛け合う。
俺&浜梨:「このままでは社内選抜、事務所は発表できません!部長からイチトシさんへ活動する様、言ってください!」
しかし、部長は何もしない…。
結果、その年の事務所は発表出来なかった。
そりゃそうだ活動してないんだから。
これにより、事務員達のやる気は失せてしまい、「結局ダメじゃん…」となる。
俺はイチトシ推進室長に不信感を持つようになった。
それを牧野課長も判っていた様子。
エンジンの不具合対応の責任を擦り付けられた過去があるから。(※Chapter91参照)
本音と建前、真実と偽り。
これが七海興業はアリ過ぎる。
しいてはこの体質、経営者のヤリ方で現場にそのまま波及してるだけなのか…?。
いや、そうであって欲しくない。
俺は願っている…違うって。
なんて思い始めていた。
Chapter103
〜まじない〜
今日もいつも通り出社する。
自主的に6*30には会社近くまで来て車内待機、7*00頃に事務所に出社する。
その後、パソコンを開き、現場から送信されてくる"現場状況 把握書"に目を通し、事務所の始業8*00までには何かあれば動ける様にしておく。
俺のルーティーンだ。
しかし、事務所で俺より早く出社している方が居る、それは牧野課長。
課長は、御自身が七海興業の稼ぎ頭、第一工場の元責任者をやっていた事もあるし、現在、課長不在の樹脂工場(先日、担当課長 頬杖さんが退社した為)の対応が有るため、早く出社しているのである。
そんな牧野課長は常々、
牧野課長:「朝が一番大事。朝、グウタラしてると1日台無しにする。だから余裕を持って出社する。」
と言っていて、俺もそれを見習って早く出社しているのと、以前にも述べたが、現場にグズグズ言わせない為もある。
俺:「課長、おはようございます。」
牧野課長:「おう、おはよう」
挨拶を交わす。
すると課長が自分の左隣にある"イチトシ推進室長"の机の角を擦り始めた。
俺:「課長、何してるんですか?」
牧野課長:「‥まじないだよ」
俺:「えっ?まじないすか?」
課長はそう言って現場に行ってしまった。俺は (何のまじないだろう?) と思った。
それから数日後、社内の集まりがあり、夜、宴の席となった。
牧野課長はお酒を嗜み上機嫌になっていた。
俺は思いきって先日の"イチトシ推進室長"の机の角コスリ"を質問してみた。
俺:「課長、この前、イチトシさんの机を触って "まじない" っておっしゃってましたけど、何のおまじないなんですか?」
丁度よい具合に酔いが回った課長。
牧野課長:「んっ?あれか…。あれはな "死" って机に書いてるんだ。」
俺:「えっ?…ホントすか…?(⑉⊙ȏ⊙)」
牧野課長:「あぁ、ほんとだよ。毎日、奴が居ないうちに朝、書いてるよ」
俺:「……そうすか。」
このころ、牧野課長とイチトシ推進室長の関係は悪化の一途を辿っていた。課長が何かすれば、それに対し室長はグズグズ言い、やらなければやらないでグズグズ言う…。
ことある毎に会議室に入り、時には言い合ってる声も聞こえ、君沢部長が間に入って嗜める姿もあった。
俺:〜課長、酒の量も増えたって言ってたし…。〜
俺は牧野課長の事を尊敬しており、管理のイロハを教えてもらって、実際に実行しているところも間近で見ている。
牧野課長は有言実行の人。
まだまだ教わることは沢山ある。
どうか…どうか、巧くやっていただきたい…と心から願った。
が、それから暫くして牧野課長の移籍が言い渡された。
Chapter104
〜喝ぁぁぁあつっだぁ!!!〜
牧野課長が居なくなってしまった。
俺の上司は、直(ちょく)でイチトシ推進室長となってしまった。
あのQCの一件以来、不信感を抱き始めていた中での、尊敬する牧野課長の移籍…。
落胆し、尚且つ警戒している。
あの温和な牧野課長が"呪いのまじない"をするまで追い詰められ、樹脂工場へと追い出されたんだから…。
最初はイチトシさん=帰国子女、大卒、エリート、次期社長、とキラキラした印象だったが、最近は 仕事しない、出来ない、プライド高い、外面良いが人脈も人徳もない、気に入らなければ潰す、他社から舐められている…と見方が変わった。
俺の中のイチトシ株は下がる一方だ…。はっきり言って期待外れで見損なった。
が、君沢部長から『お前は将来、いちとしの右腕になれ』と言われているので仕方ない。
仕事と割り切り、より一層 自分を磨き、仕事=管理が出来る人材(人財)にならなければイケないと思っていた。
そんな俺、昼休みに事務所三階の窓際で10分程昼寝をするのがルーティーンとなっている。
この窓際には長椅子があり、昼寝には絶好の場所なのだ。
この長椅子の脇には社内で"開かずの間"と呼ばれる第2応接室がある。ここには高そうな装飾品が多数あり、普段、鍵が掛かっている為、誰も入れない様になっている。
ある日の午前中 室長はずっと不在だった。
車はあるのに、ずっと居なかった。
書類は机上に溜まりっ放しで、事務員も「どこ行ったの室長は?」なんて言い始めていた。
イチトシさんの認め印がなければ、進めれない案件もあったので、事務所内の仕事も止まっていたのだ。
そんな中、室長と会ってしまった。
"開かず間"から出てくるところを昼休み、バッタリ会ってしまったのだ。
イチトシさんも、ちょっと驚いた表情をしたが、俺を無視し、寝癖がついた頭で足早に非常階段から出ていった。人目に触れたくないのだろう…。
俺:〜開かずの間で寝てたのか…(呆)〜
いろんな事情があるとは思うが、部下に見付かっては不味いだろ…。
少しは場所と時間を考えろよ…と思った。
それからは度々、"車はあるのに席には居ない"状態が多くなる。
恐らく、またあの部屋に籠っているのだろう…。
いつしか事務所の皆の知るところとなってしまった。
俺は自分の上司であり、次期社長がそんな事していていいのか?もっと親会社に出向き、現場を見て、役職者と語らい、人脈を作り、明日に向かってより良くする行動をしなければいけないんじゃないか?と強く思っていた。
アホみたいに何度も何度も"管理とは…「全てのモノをゼロから見る観点で現状を把握し、明日に向かってより良くする事」"なんて言わせてきたんだからアンタがっ!。口だけじゃ駄目!!
アンタが出来てないよ!あんたが!!喝ぁあっ!!!」
強く強く言いたかった…。
Chapter105
〜選任さる‥〜
今日もイチトシ推進室長は席に居ない。
でも車はある…。
ということは三階の第2応接室に閉じ籠り、「ぐーすか」鼻提灯ぶら下げて寝てるのだろう‥。
この頃、事務所の"安全衛生委員"というものが任期切れ間近となり、新たに専任しなければいけない事となっていた。
この選任を行ってるのがイチトシ推進室長と安全事務局の前野(兄)。
この前野(兄)、以前、俺が居たウグイス鳴く工場で『仕事をやらない』で有名だった人物(※Chapter4、5参照)。
俺が第2工場に移籍になった後、いつの間にか七海興業全体の安全に関する本部、安全事務局としてやっていたのだった。
この前野(兄)に対する現場の評価はやはり駄目。
遅い、的外れ、センスない等 良い話は聞かない。
さすが生粋の怠け者、事務所内での評判も勿論同じ…良い話は聞かない。
俺がパソコンで"現場状況 把握書"を確認していると斜め前に陣取る前野(兄)が目に入るのだが、相変わらずウグイス鳴く工場の時と同じで居眠りこきながらグウたら仕事してる。
俺:〜こんな奴が会社の安全事務局責任者?はぁ??そりゃ、現場に馬鹿にされるわ…(呆)〜
さて、この安全衛生委員なるもの、正直、誰もやりたくない。
前野(兄)に偉そうに指示されるのも嫌だし、自分の今の業務に丸々、安全衛生委員分の仕事が増えるから。
この前のQCの件もある…。
ある種、選任されたら"ババ抜き"のババを引いた的な感じなのだ。
更に、基本的に2年やらなければいけない長期の業務となる為、余計イヤなのだ。
現在、候補者は浜梨さん、茨さん、俺の3名。
人事の春吉班長は、現場の日系人の世話がマジ忙しいので候補に上がらなかった、これは致し方ない。
さらに分析すれば、浜梨さんは不動部長退社後、管理を独りで回しているので厳しいだろう。
茨さんは高齢だし他人を面倒見る様な人物ではないので嫌がるだろう。
やはり俺しかいない…。
~あいつ(俺)にババ引かせとけ~
こんな具合に押し付けられるんじゃないかな?こりゃ俺、選ばれるな…と思っていた。
だけど、考え様によっては良い事もある。
管理監督者として仕事を進める上で守らなければいけない大切な三大優先順位『1:安全 2:品質 3:生産性』の一番大切な"安全"部分をよりスキルアップできるからだ。
今後の自分自身の為にも知っておいた方が良いだろう‥とも思っていた。
だから一応、心の準備はしていた。
数日後‥‥‥‥→→→やはり選ばれた‥。
俺は先日のQC活動の件があったので
会社を変えたい!良くしたい!!という気持ちから
俺:「僕にやらせるならば、精一杯やらせてくださいよ。」
とイチトシ推進室長、前野(兄)、さらには君沢部長にまで釘を指した。
手始めにその一週間後、事務所で行ってなかった"指差呼称入り朝礼"を現場同様に開始した。
俺は、指示がなければ動かなかった事務所内を、従業員自ら考え、コミュニケーションが活発な職場へと改革し、会社の利益向上に貢献する体制づくり、現場から遅い、出来ない、現場で使えない奴らの集まりと言った声に、逆らえる様 職場を変えていきたい!
と考えていた。
それは君沢部長から言われた
君沢部長:『お前はいちとしの右腕になれ…』
に答える為でもあり、俺自身、牧野課長の様な管理監督者になるため、自分が将来働き易い職場にしていく為でもあった。
しかし、これも歯車は噛み合わなかった…。
Chapter106
〜拳のカサブタ〜
イチトシ推進室長に呼ばれる。
俺が安全衛生委員として率先垂範してやった事に対し「あーでもない、こーでもない」言ってくる。
俺が「やるなら精一杯やるからね」と釘を指した‥にも関わらず「あーでもない、こーでもない」言ってくる。
朝礼に対しては「なんであんなこと連絡するんだ?」とか「なんでアレを言わなかった?」とか…。
俺は、(本来、朝礼って事務所をまとめていかなければいけない貴方がやることなんじゃないの?。それをやってなかったから、俺がより良くする為に導入したんだよ。後だしジャンケンじゃないんだからグズグズ言うな!)
と思っていて"糠に釘"‥。
ヤツの言う事は全く心には響かない。
更にこうも思う、
(ああ、牧野課長もこうやって潰されたのか…)指摘に対して、取り敢えず俺は
「ハイ、わかりました‥。鼻ホジホジ‥」
と言うが、腹の中では全くの逆。
(言うだけじゃダメ、口だけ番長じゃ誰もついてこない!やってみせ、言って聞かせて誉めてやらねば人は育たず…山本五十六だよ、知ってる?)
と半分馬鹿にする様にもなっていた。
俺:〜内弁慶のボンボンの言うことは誰も聞かないよ!寝てるだけじゃ何も進まんぞ!いい加減に気付け…アホ。〜
とも思う。
俺はこの頃から、イチトシさんのことを"チビ将軍"と呼ぶ様になっていた。
背が小さくて、権力を振りかざす者。それは、まさに北の将軍様そっくり。俺:〜一体、この人はQCの社内審査員までやっているが、何を審査してるんだろう?〜
俺:〜QCを知らないのであれば、頭を下げ教えを請うのが普通ではないか?しっかり勉強し、まず、自分自身が成長しろよ!!〜
と思う。
そんな中、日に日にチビ将軍(イチトシ推進室長)の指先は荒れ、拳に瘡蓋(かさぶた)も出来る様になっていった…。
この頃、七海興業が担当させてもらっている主力工場の1つ、老舗の"第一工場"を親会社が老朽化により閉鎖する事を発表した。
Chapter107
〜禊(みそぎ)の去就〜
親会社より、七海興業が担当させてもらっている主力工場の1つ、老舗の"第一工場"が閉鎖となった。
俺は、その工場で働いている役職者がどうなるのか、特に担当者であり責任者の禊(みそぎ)課長がどうなるのか‥興味津々だった。
この禊課長には様々な逸話があり、実際の人物像も混ぜて説明する。
≪人物像≫
*身長170㌢ 体重90㌔ ほどある肥満
*糖尿病あり
*勅使河原、牧野課長と同じ年
*一卵性双生児の弟が居る
*実家は農家
*奥さんは看護師
*金に困っていない
*プライドが高い
≪逸話≫
*若い頃、現社長と揉め、一度会社を辞めている。
*辞め方に怒った社長が反社会勢力を雇って報復に出たらしい
*↑寸前のところで本人は気付き、難を逃れたが、ツレはやられたらしい。
*再入社している。
*再入社時の面談で『まずは服脱いで背中見せなさい』とおばあちゃん部長に言われた。
*双子なので常に誰かそばに居ないと不安な性分。
*お金があるので無茶はしない
*お金があるので自身のプライドと体裁を優先する
*自身は動かず他人にやらせる手法をとる
*チビ将軍が七海興業に入社するとき、君沢部長から『禊には気を付けろ』といわれたらしい
*ある組長言わく、『一番怖いのは禊さん。勅使河原でも黒下でも無い、禊課長だ。』と言っていた
こんな具合だ。
だからチビ将軍(イチトシ推進室長)も君沢部長も気を遣っている様だし、勅使河原も黒下も禊課長には従う。
本来、これだけ睨みを効かせれる人物なら、課長をまとめる職=部長職についてもいいものだが、過去に社長へ対し謀反(むほん)=反乱を起こしている事や、トップに立つと責任をとらなければいけないので、そこには行きたがらない。
お金がある為、身体を動かさなくて、収入もあり、虚勢を張れる今のポジションが気に入っている。
この人の職場が無くなった今後、どう立ち回るのか?
このままいけば、事務所の空いている牧野課長が居たポジションではなかろうか?
俺とチビ将軍の間に入る?
これ↑は俺にとってはプラスだと考える。
どうなるか…?
幸い俺は、毎年第一工場の忘年会に呼んでもらってる。
この忘年会、禊課長が目をかけてる選ばれた人間(禊課長のお気に入り)しか参加出来ないイベント。
事務所では俺と浜梨さんだけ出席している。
この席で出た禊課長は会社への愚痴、禊課長:「ボンボンで、何も知らない、出来ない、しようとしない、イチトシ推進室長が社長になったら七海興業は終わる、このままではでは駄目だ。」
と言っていた。
だから、そんなチビ将軍に睨みを効かせ、教育し、俺を守ってくれる事だろうと考えた。
そうなればQCで言う『指示待ちではなく、従業員一人一人が自身で考え、会社の利益に貢献できる人財』がいる職場に変える事が出来る!いいぞっ!!と思っていた。
Chapter108
〜怪しい車〜
ある朝、元寮長の八千代(ヤチヨ)さんが、俺にこう言ってきた。
八千代:「アパート、ヤクザイル、コワイ((゚□゚;))」
俺:「はっ?何て??八千代さん」
八千代:「アパート二、ヤクザミハッテル、コワイコワイ((゚□゚;))」
俺:「ヤクザ??…」
俺は人事の班長である春吉(ハルヨシ)さんに確認してみた。
すると七海興業が、あるアパートの一室を物置として使っているのだが、そのアパートの周辺に黒塗りのワンボックスが最近、常に張り付いていて監視している様だ‥という事らしい。
そして、そのアパートへ近づくと仲間だろうか?別の車が追いかけてきて、とても怖いらしい‥。
あれは七海興業に勤めてる日系人が悪さをして、そいつを探しに来たヤクザだ…との見解‥。
俺:「本当にそんな事あるの??(汗)」
にわかに信じ難い…。
だが、この件は既に春吉班長から君沢部長へ報告済みで、部長からも「デジカメで怪しい車を撮影し、警察に提出せよ」と指示を受けたとの事だった。
この為、一緒に来て欲しいと言うコト‥。
今まで様々なトラブル応援をしているので、俺は、今回も協力することにした。
早速、春吉班長と2人で行ってみることにする。
事務所から10分ほど車で走ったところにある古い二階建てアパート。
全部で8部屋あるのだが、丸々一棟、七海興業が借りており、ここの1階1室を倉庫として使っている。
車で辺りを走ると、春吉さんが言った。
春吉:「あれだよ‥。※指差し」
俺:「?!!」
指さす方を見ると、確かに黒のワンボックスが不自然に駐車されている。
近隣都市ナンバーで、フルスモークの為、中の状況は全く伺い知れない。
だがエンジンかけたままの状態なので居るのだろう‥。
俺:〜うーん…、確かに不自然だ。〜
そのまま横を素通りし、倉庫である一室へ入る。
俺:「ほんとだね、確かに不自然に停まってるね‥。」
すると春吉さんはカーテンを少しずらし(あちらを見ろ)と言う。
覗くと、アパートから200メートルほど離れた畑の中に営業車らしきステーションワゴンが駐車されていた。
先程のワンボックスと違い、ガラスは透明で、車内には誰も乗ってない様だ。
春吉:「あれも仲間の車だよ‥。」
俺:「えっ?あれも??」
春吉さんはうなずき、デジカメでカシャカシャ撮影し始めた。
俺:〜うーん‥‥‥。〜
本当だった‥。
確かに不自然に駐車してるし、こちらのアパートを見張ってるようにも見える…。
俺はこう提案した。
俺:「春吉さん、あの畑の営業車っぽい方はガラスにスモーク貼ってないみたいだから、帰りがけに横を通って車内覗いて見ようよ。」
春吉:「そうだね誰も乗ってないみたいだし、そうしよう。」
俺達は怪しい車の脇を通って、会社に戻ることにした。
Chapter109
〜車内には〜
さも倉庫に用事があって来たんですよー…といった具合に何食わぬ顔で部屋から出て社用車に乗り込む。
そして、畑に駐車している車の脇を通ってみた。
スピードを落とし、至近距離から車内を覗いてみると…
〜!!!!ヽ((◎д◎))ゝ〜
車内に居たのだ!しかも2人!!
運転席と助手席に座り、シートを目いっぱい倒して隠れていた!!!
見えなかっただけで実際には居た!
その2人と目がバッチリ会ってしまう!
お互い無言のまま、すれ違う!
俺:「春吉さん、居たじゃん2人!!目が会ったよ!こっち見てた2人共!」
春吉:「ほんとだね…コワイよ。なんなのアイツら………あっ!!!」
俺:「??!何?」
いつの間にか別の車が後ろにピッタリついてる…。
ナンバーを見ると先程の黒いワンボックスと白いステーションワゴンと同じ近隣都市ナンバー!
俺:「ヤバい、ケツにつけられた!あいつら3台居たんだ!!」
春吉:「ヤバいヤバい!!」
春吉さんはアクセルを踏みスピードUP!なんとか巻こうとするが、猛然と追いかけてくる!!!
細い路地を曲がってもついてくる!これは危ない!!そこで、
俺:「春吉さん!そこのコンビニに入って!!なんかあったら警察に連絡して貰えばいいし、人も居るから派手な事は出来ないでしょ!入って!!」
春吉:「わかった!!」
そして急ハンドル、コンビニ駐車場に逃げ込んだ。
俺はミラーで後方を確認し何かあったらすぐに動ける様にした。
すると、追いかけてきた車はそのまま直進し猛スピードで走り去っていった…。
俺:「」……ふぅ…よかった。行ったみたいだね(汗)。」
春吉:「恐かったね…(汗)」
その後、事務所に戻り春吉さんから君沢部長に撮影した写真を見せ、今回の顛末を報告した。
翌日、そいつらが何者か‥正体か判る…。
Chapter110
〜ひと睨み〜
朝、ひと仕事終え、八千代さんや
春吉さんと1階食堂で休憩していると数台の車が事務所に入ってきた。
俺 :〜?ん、お客さんかな?〜
そう思って見ていたら
俺:〜!!!!!!!!( ; ロ)゚ ゚〜
なんと、昨日、畑の中ですれ違った車の中でシートを倒して隠れていた2人と、その仲間とおぼしき数名が事務所に乗り込んで来たのだ!
俺:〜あぁぁぁ((( ;゚Д゚)))…〜
とうとう奴ら事務所に乗り込んで来やがった!これはエライ事になるぞ…((( ;゚Д゚)))
奴らはこちらに気付き、「なんだコラっ(怒)」と言わんばかりに、ひと睨みしたあと階段を上がっていった…。
春吉さんと俺は血の気が引きながらも、奴らが上がって行った暫く後に、2階に戻ってみた。
すると…奴らは応接室に通され、部長と何やら話している。(◯◯という作業者を出せ!)って脅迫してるのだろうと思っていた…‥‥‥。すると、
実は、そいつらは厚生労働省:麻薬取締捜査官:御一行だったのだ!(; ゚ ロ゚)
あのナンバーの近隣都市で悪さをした日系人を捕まえ取り調べをしたところ、「七海興業が倉庫として使っている例のアパートで麻薬の取引をする‥」という情報を得た為、極秘裏に、出入りしている人物全てを調べていたとの事だった。
な、な、な、なーんだ!そうか!それなら納得!七海興業はなんでもあるからね!よかった血の雨が降らなくて!
わはははははは…((((*≧艸≦)ププッ)
って‥、"極秘裏に捜査"って言うけど
バレバレでしたよ…。
もうちょっと巧くやれよ麻取(マトリ)さんよー…(呆)
こんな事もありました。
Chapter111
〜秘密兵器〜
事務所の安全衛生委員に就いて、やっと満期を迎える‥長かった…、ホント嫌だった。
チビ将軍(イチトシ推進室長)が、やればやったでグズグズ言うし、やらなきゃやらないでグズグズ言うし、ホント辛かった…。
でも今週で終われる。
さぁ、最後の仕事、PDCAサイクルの結果の確認と、そこからの更なる問題点の改善行動だ‥ということで、その日、俺はある行動を起こそうと思っていた。
それは事務所の安全衛生委員をする上で、役職者なのに具体的行動を起こさない、依頼したことをやろうともしない茨(バラ)さんへの指導だった。
データを見ても顕著、提出書類が格段に少ない。
同じ推進室のメンバーだが、臆病で引っ込み思案な性格なのか…一向に動こうとしない茨さん、何度か
俺:「お願いしますよ、茨さん!」
と言ったのに、全く変わらない上に
一般の事務員からも
事務員:「なんで茨さんはやらないの?」と言われる始末。
事務員:「役職者の茨さんがやらないなら、一般職の私はやらない!」
なんて言われたら、只でさえQC潰されたのに 唯一の希望さえ失くなってしまう。
だから俺は今日、茨さんに強く言う決意をしていた。
ただ、本当は言いたくない…。
年上だし、大ベテラン…。
しかし言わなければ他に示しがつかない!だから言うんだ!!……とても憂鬱だった。
更に茨さんは、コトあるごとにチビ将軍と一緒にタバコを吸っている、きっとウマが合うのだろう…。
俺が言い出したらきっと黙っていないだろうなチビ将軍は…とも思っていた。
その為、俺はある秘密兵器を前日から用意していた。
それはチビ将軍のすぐカッとなる性格と、すぐ人を見下した悪い言い方をする特性を利用したボイスレコーダーだった。
胸に潜ませ、茨さんを呼び出す。
俺 :「茨さん、ちょっといいですか?」
茨 :「んっ??」
そのまま、事務所内で皆に見える様に、判る様に、間接的だが「やらなければ俺に言われるよっ!」と言う姿勢を見せつけるために、会議室ではなく、同じフロアーの客人用簡易テーブルへ呼び出し問い正しはじめた。
俺:「茨さん!俺、お願いしましたよね?なんでやってくれないんです??」
茨:「えっと…うーん…」
俺:「それで役職者って言えるんですか?いいんですか?」
段々ヒートUPしてくる俺…。
すると案の定、チビ将軍が動く。
俺の傍へ来て、上着の襟元を掴んで「ちょっと来い!」と会議室へ連れて行こうとした。
俺は咄嗟に手が出そうになったが、こうなるだろう…と予想していた部分もあるので、大人しい素振で、指示に従い会議室に入った。
そしてチビ将軍と向かい合って座った瞬間!
イチトシ:「お前はぁ!!!!◯✕□▦◊◣♂☆!!!!ಠ益ಠ」
‥怒鳴ってきた。
めちゃ怒ってる…💢😠💢
だが、俺は冷静に
俺:「やるなら一生懸命やらせて貰うと宣言した上での行動ですよ。役職者なのにやらないのは困ると指導していた所です、なぜ止めるんですか?」
と受け流す。
あくまでも冷静に…。
なぜなら俺のポケットには秘密兵器の録音ボタンを押したレコーダーが入っているのだから。
俺:〜言うだけ言えよ、バカがっ〜
という姿勢で終始ギャーギャー言うのを聞く。
チビ将軍の手法はよく判っていた。
弱い者には断然強く出て小馬鹿にするタイプ。
牧野課長もやられたし、数か月前には事務員とも口論となり、退社へと追い込んだ過去がある。
1人はポルトガル語が話せる有能な日本人女性。
もう1人は只の掃除のオバサンだ。
なんで次期社長ともあろう御方が掃除のオバサンと喧嘩する必要があるのか???!
全くの疑問だ…呆れる。
俺は2人とQCをやったり、親会社の秋祭りを一緒に運営したり、よく動いてくれた方達だったので非常に残念だった。
もちろん話をし、
俺:「短気を起こしちゃ駄目ですよ、皆、寂しがるし俺も辞められると仕事が廻らなくなり困ります。お願いです、残ってください‥(礼)。」
と引き留めたが、2人は同じことを言って辞めていった…。
退社した2人:「あんな人間(イチトシ推進室長)が次期社長なら七海興業は潰れるよ!」って…。
だから、俺は余計に奴(チビ将軍)のトップとしての自覚が無い態度に腹を立てていた。
そして腹の中で(もっと言えアホ)と思い、蔑んだ目で真っ直ぐ奴を見ていた。
まだ口論は続く…。
Chapter112
〜決定的な溝〜
イチトシ:「俺がそこまでやれって言ったか?!なぁ!言ったか?!」
俺 :「俺にやらせるなら、精一杯やりますよ!って言いましたよね最初に。」
イチトシ:「はあっ?そこまでやれって言ってないだろ!!」
俺:「貴方はいつも"後出しジャンケン"ですね、事が起こってから行動しても遅いんです。事が起こる前に行動:是正してこそ管理でしょ?先手管理しろっ、先手管理しろってアホみたいに皆に言っておいて、御自身の行動、全てが後手じゃないですか!!そんなんで、これから社長に成る御方がいいんですか???」
イチトシ:「はあっ?」
俺:「逆に質問します。貴方は将来、七海興業の社長になる方です。自分の時代になったとき、どういう会社にしたいと思っているんですか?答えてください!どうお考えなんですか??」
イチトシ:「そ、それは……。……後世に伝えていく…(;-Д-)」
俺:「はぁ?後世に伝える??なんすかそれ?伝説か何かですか??あなたは勇者なんですか???(笑)」
イチトシ:「……そんなに僕の言うことが聞けないなら、自分の好きな事ができる様にすればいい…」
俺: 〜ははーん…俺に辞めろって言いたいんだな。もう少し押せば言うぞコイツ〜
俺:「それはどういう意味ですか?」
※もちろん録音中
イチトシ:「…自分で考えろ…」
俺:「わかりません、教えてください。どういう意味ですか?」
イチトシ:「自分で考えろっ!!」
バタンっ!
そしてイチトシ推進室長は会議室を出ていってしまった。
結局、俺が言わせたかった「お前はクビだ!」とは言わなかった。
俺:〜そこだけは立派だな…ふんっ!〜
俺はその後、録音した音声を聞き返した、経緯は全て録れている。
その後の現場巡回時に「お前は仕事してない」だの「仕事してない室長に指導してみろっ」と罵った課長どもに聞かせてやった。
俺:「俺は奴に言ったぞ!!!」
ってね。
もちろん、牧野課長にも…。
俺はやっている。
明日に向かって会社がより良くなる様にやっている!
自分の身を犠牲にしても、上の奴だろうが言ってやる!!
黒下!勅使河原!!お前らも俺が上に立ったら100倍返しだ!
一生懸命、正直にやってる者が正当に評価され、自分の子供を七海興業に入社させたい!一人前にしてくださいっ!て言われる様な立派な会社にするんだ、七海興業を!!!と強く思った。
この頃、俺は嫁と義母の押しに負け、建て売り住宅を購入することになる。35年ローンのシロモノだった。
Chapter113
〜扱い辛い?〜
俺はいつの間にか扱いづらくなっていたかも知れない‥。
君沢部長に『いちとしの右腕になれ』と言われたが、少しやり過ぎたのかもしれない…。
しかし間違った事はしていない。
リーダーたるもの、皆に明確に行く道を示し、自分が犠牲になろうとも正しく、見本に成る様にしていかなければならない。
指示待ちではなく明日に向かってより良くする…そう教わったし、そう思っている。
会社で行かされたQCの講習会。
わざわざ早朝から二時間かけて山奥の親会社がやってる研修センターで缶詰めになり勉強させられた。
会社としては『そういう人材になって欲しい』から行かせるのだろうし、俺は七海興業を地域に誇れる、自分の息子を入れたい!と思える立派な会社に変えるんだ!だからやりきるんだ!と強く思っていた。
そんなとき、閉鎖された第一工場の役職者の行き先が決定した。
ほとんどが第二工場(黒下課長)と第三工場(勅使河原課長)のとこに振り分けられた。
そして、禊課長は…というと課長職のまま事務所に移籍決定!牧野課長の穴を埋める形で収まった。
俺が望んでいた通りだった。
だが、ひとつ誤算が…(;-Д-)
それは組長1人、自分のテコとして事務所に連れ入れたのだ。
俺:〜……むむむ…(-_-;)?〜
禊課長は俺をテコに使うのではなく第1 工場での部下、本堂(ホンドウ)組長という方を連れて事務所に移籍した。
これは読めなかった…。
いま、事務所の組長職は…
管理=浜梨さん
推進室=茨さん、俺
そこへ本堂組長も推進室に所属となると、多い様な気が…。
俺はこの頃から朝の出社後、資格取得の勉強をするようにした。
毎朝 約30分、朝礼までの時間にインターネットで過去問をやる、取りあえず第一種衛生管理者を。
その様にした…。
Chapter114
〜ニンゲンシカク〜
俺は一抹の不安を感じていた。
それは、禊課長が本堂組長を連れて事務所に入ったから。
俺が居れば禊課長をサポートするのになぜ?うーん、チビ将軍ともやりあったし…まぁ、改革するのに仲間は多い方がいい👍
数は力!そうだ多い方がいい!
こんな時は自身のスキルアップを図り、一騎当千となる為の準備をすべき!!と考えた。
そこで俺は過去に取り損ねた"第一種衛生管理者"再取得を目指し、再び勉強を始める事とした。(※Chapter70参照)
この頃、既に牧野課長は衛生管理者に合格しており、推進室時代の課長の勉強方法を見て俺も真似してみた。
やり方は、とにかく過去問を毎日毎朝やる事が大事!というもの。
最初は点数が低いが、やり続けると傾向が判ってくるし、問題自体を覚えてしまう。
それを繰り返すことで合格ラインまで持っていくという手法。
これがバッチリハマり一発で合格となった。
俺:~高い金払ったユーキャンは何だったんだ…。~
次に何が出来るか?と考え、会社で取らしてもらった大型免許(※Chapter52参照)を軸に、嫁さんにお願いし、大型特殊と牽引免許を同時に取得した。
更に、一度受験して不合格となっていた危険物乙四種を衛生管理者同様、インターネットで過去問を毎日やり、再受験→合格!
更に更に、大型免許、牽引を軸に危険物=タンクローリーに乗れると考え、これからは天然ガスも…と思い高圧ガス移動監視者も取得した。
なんの為?と言われれば何の為…?┐( ∵ )┌だが、有るものを軸に取れる資格は取りまくった。
そして牧野課長の教え『常に自分を磨け』を貫いた。
俺は尊敬され、若い者の目標になる様な素晴らしい管理監督者になる!
一騎当千の社員になる!!
そう決めた。
Chapter115
〜本堂組長〜
禊課長は双子で誰か必ず傍につかせる…と牧野課長に聞いていた通り、一番従順で、指示された事は何でもやる職人気質な本堂(ホンドウ)組長を連れて事務所に入った。
本堂組長は身長165㌢くらい、体重55㌔ほどの志村けんの変なオジサン似の御方。
仕事では、とても苦労した方だ。
過去に一度、勅使河原の部下となり第3工場で働いていたが、勅使河原の拝金主義に同調しなかった為、現場で虐げられ、嫌な仕事ばかりされられ苦渋を嘗めさせられていた。
それを助け、自分の課へ移籍させたのが禊課長。
本堂組長はコレを大変恩義に感じ、課長の親衛隊みたいになった御方。
現場でも、親会社でも、事務所でも、どこへ行っても人当たり良く、本堂組長の事を悪く言う者は居ない。
もともと東北の方だが、七海興業がまだ小さかった時に、同じエリアの別の派遣会社で働いていたところ、その会社が倒産‥性格の良さを買われ、そのまま七海興業に拾われた御方。
その時、職場の親会社従業員だった女性と結婚し、養子に入ったと聞いた。
タマタマだが、俺が買った建て売り物件から程近くに持ち家で暮らしているらしい。
家が近くになったということもあり、俺は親近感を抱いていた。
さて、チビ将軍とは、あの一件以降これといって変化はなく穏やかな日が続いている。
そんな中、禊課長に
禊:「悪いけど、本堂に現場状況把握書の事、教えてやってくれないか?」
と言われた。
俺は(そりゃ事務所に移籍となったけど毎日やることが無く困るだろう)と作り方からルールまで全てをしっかり教えた。
"誰でも見易くて、判りやすい帳票"をテーマに立ち上げた書類だから、本堂組長も直ぐに理解してくれた。
素晴らしい帳票で良かった。
Chapter116
〜部長の眼帯〜
今日は本堂組長に報告書の見方と処理方法を教えようと思い段取りしていた。
すると、見たこと無いスーツ姿の男女数名が階段を上がってきて、何やら事務員に伝えている。
俺:〜なんだ?また警察か??またウチの作業者が悪さしたのか???〜
と思っていると、案の定、応接室に通され君沢部長が対応している。
そして部長は、引き出しの中から慌ただしく書類を取り出し、応接室を出たり入ったりしていた。
俺:〜んっ?警察じゃないのか??ちょっといつもと違うぞ…〜
すると部長が応接室のドアを少し開け、俺を呼んだ。
部長:「すまん、"現場状況把握書"持って、この方達に説明してくれるか?」
と言ってきた。
俺:「はい。(なんだ?なんだ?)」
その頃、七海興業関係の会社、全てに一斉に同じグループの男女が入っていた。それは…国税局!!!
七海興業は脱税容疑で捜査をされていたのだ!詳細はこうだ。
前にも書いたが、七海興業に於いて君沢部長が使用している作業者数を把握する帳票:作業者要員帳に実際には存在しない24名の従業員が居た。
(※俺が部長から同業務を教えてもらった時の事。 Chapter75参照)
この存在していない24名の給料を、以前、君沢部長が課長だった頃に担当していた職場に入っていた派遣会社(反社会的勢力の色が強い会社)に流し、自分の指示に従わせていた…と噂で聞いた事がある。
これは君沢さんが部長になってからも続いていて、ある日、この派遣会社での不可解な経理を国税が嗅ぎ付け調査、それを辿っていったところ、七海興業に繋がり今日 一斉捜査となった…らしい。
俺はビビった…((( ;゚Д゚)))
国税局員から、いろいろ質問されたがどこまで本当の事を言って良いのか判らない…、かと言って嘘を伝えてもいいのか???
突然の一斉強襲の為、何も準備できず(そりゃ向こうはプロだから当たり前)君沢部長はじめ、皆、顔が引きつっている。
要員に関する書類、俺の現場状況把握書も含めゴッソリ持ち去り国税局は帰っていった…。
いやぁ、とうとう国税局まで…。
ホントになんでもありだね七海興業…。
翌日、君沢部長は片目に眼帯をして出社した。
ある人は(脱税をしていた君沢部長に激怒した社長がぶん殴ったからだ)とまことしやかに噂する…。
君沢部長は何も言わず、いつも通り席に座り、平然と仕事している…。
ホントにすげー人だ…と感心した。
Chapter117
〜部長からの指示〜
禊課長と、本堂組長が事務所にだいぶ慣れた頃、俺は君沢部長に呼ばれた。
部長:「ちょっといいか?」
俺:「はい?」
あの一件依頼、チビ将軍は俺と目も合わそうとしないし、何も言わなくなった。
とても仕事がやり易くなり、あるべき会社像に向かってのびのび行動していた俺。
只、ちょっと空気がかわったなとは感じていた…。
そのタイミングでの呼び出し…。
会議室に入る。
君沢部長と久しぶりに相対して座る。
そして着席したところ、開口一番、君沢さんは
部長 :「もう一度現場でヒト花咲かせてこい‥。」
俺:「えっ?」
部長:「まだ若い。もう一度現場に戻ってヒト花咲かせてこい…なっ。」
俺は全てを悟った。
俺は事務所で不要とされた。
次期社長であるチビ将軍に逆らって、恥をかかせたからか?やれっ!て言っておきながらやり過ぎたから、お前はもう邪魔だってか??
俺は頭が真っ白になったが、君沢部長も言葉を選んで言ってくれているのが判る。
そして、どこかでこうなるだろう…とも予想していた部分もある。
俺は泣きも喚きもしない…。
部長のお陰で今まで居れたから、良くして頂いたから…、貴方の指示に従います…。
俺:「わかりました…。」
部長:「そうか、頑張ってくれ!」
俺は必死に平静を装ったが、事務所の皆には気付かれていたかも知れない。そのまま会議室を出て通常業務に戻ったが、なかなか書類は手につかなかった…。
Chapter118
〜移籍再び〜
俺の新しい職場は溶接課となった。
最近、親会社が七海興業に新たに任せるエリアがあるらしい…という噂があったが、まさかソコに俺が行くとは…。
作業者は全部で20名ほどの寄せ集め集団で構成される。
俗に言う"箸にも棒にもかからない"使えない人材が各課から出され、俺もその1人に含まれた‥と言うわけだ。
俺の役職は解かれ一般作業者からの再スタート…。
俺:〜ははは( ゚∀゚) チビ将軍に逆らうとこうなるって見せしめか…?〜
ここは小さい職場なので、同じ溶接課の笹山課長が責任者兼任となった。
早速、課長が俺に言ってきた。
笹山課長:「大丈夫か…?」
全てを知ってる顔、既に七海興業中で噂になってる。
~チビ将軍に逆らって一般にまで降格させられたうえに、現場に放り出された奴が居る…~
って‥。
俺:「ははは、大丈夫ですよ(笑)」
笹山課長:「……そうか。」
笹山課長は、何も言わないが、全てを察してくれている様子。
推進室時代は口うるさくて厄介な人だったが、本当は優しいんだなと感じた。
この移籍に伴い、俺の生活は大きく変わる。
まず給料、今までは組長待遇だったのに、これからはヒラ社員、もちろん下がる。
そして出社時間、一週間交替の昼夜勤務が始まり、駐車場が事務所と違い職場からは凄く遠くなるので更に早く出社しなければならなくなるうえに、家を購入し引っ越した為こちらでも相当、遠くなってしまった。
更に更に、経験無い溶接作業…。
全てが不安だが、寄せ集められた他の者たちもきっと同じだろう…。
俺はちっぽけなプライドだけで、平静を装っていた。
俺:〜チビ将軍の仕打ちなんぞ屁でもねえぜ!〜って。
Chapter119
〜喰らわせたるっ!〜
そんな寄せ集め集団による新しい職場の立ち上げ、様々なやらなければいけないことがある。
親会社としても、七海興業にしっかり指導したという実績が欲しいらしく、今日は安全に関するミーティングをQC形式でやると言ってきた。
司会は親会社の品質担当組長。
品質組長:「えー、◯◯であるから、◯◯に注意し、安全第一で…」
七海興業の皆、ポカーンと口を開け聞いている。
そんな人材の寄せ集めなのだ、ここは。
これを見た同席している親会社の安全担当組長が、
安全組長:「みなさん、質問あれば是非して下さいね。(ニヤニヤ ಡ ͜ ʖ ಡ )役職は関係ありません。その品質組長をギャフンと言わせて下さいよ!そのくらい厳しい質問してくださいね、さぁ、遠慮しないで!」
馬鹿にした様に煽ってきた。
だから一般職の俺は手を上げ質問してやった。
俺:「では質問します。最近、三菱自動車で酷いクレーム隠しがありました。三菱自動車といえばISO(※9000番台は品質、14000番台は環境の事を言っている、持っているとヨーロッパなどで効力を発揮する国際規格)を取得していますが、実際は酷い偽装工作をし問題が起こりました。これはニュースでも、連日取り上げられ大きな社会問題にもなっています。そんな中、親会社様は三菱同様にISOを取得していますが、同じく"絵に描いた餅"にならぬ様にどのように対応しようとお考えですか?品質担当組長という立場から意見を聞かせてください。」
俺は親会社が三菱同様、裏でデタラメやってるのを知っていたので敢えて聞いてやった。
もし当たり障り無いことを言えば、より突っ込んで聞くし、本当の事を言えば品質組長自身のクビが飛ぶ!だから聞いてやった。
品質組長:「そ、それは……えっと…(;´゚д゚)ゞ(汗)」
俺 :「はい、もう結構です」
案の定、この回答…。
まさか、一般作業者からそんな質問を受けるとは想定していなかったのだろう…。
俺:(ボケが!!下請けの一般職だからって舐めんなよ!)
七海興業の皆、よくぞ言ってくれた!と喜んでいた。
Chapter120
〜眠気との闘い〜
俺は班長候補のリリーフマンとして再スタートすることになった。
が、結果は判っている‥役職者には間違いなく戻れない。
なぜなら、チビ将軍が七海興業の実質的頂点にいる以上、絶対に阻止するからだ。(※社長はこの頃ほとんど出社しなくなっていた。)
まぁ、考えても仕方ない。
取りあえず立ち上げの混乱期だけでも落ち着かせないと格好つかない。
とにかくやるだけだ、家族を守るためにも。
だが、現実は本当に厳しい…。
特に昼勤時の出社はとてつもなく辛い…。
家を買ったのが拍車をかける。
嫁さんの実家近くで、職場から更に遠くなったからだ…。
≪昼勤務時の流れ≫
am3*45 起床
am4*30 自宅出
~自動車専用道路を100キロで爆走~
am5*15 職場駐車場着
am5*30 徒歩にて職場着
am5*35 職場設備立ち上げ
am6*10 ラジオ体操実施
am6*20 朝礼参加
am6*30 ライン稼働 開始
~ひたすら現場を駆け回る~
pm5*00 終業
pm5*00 自己業務対応
pm6*00 頃 職場出
pm6*30 駐車場発
~酷い渋滞の中、自動車専用道路を居眠りに耐え自宅へ向かう~
pm8*00頃 自宅着
俺の家は七海興業内でも一番と言っていいほど遠くなってしまった。
帰宅の道中コンビニ駐車場に車を停め、仮眠を取ってから帰る事も度々となった。
明らかに疲弊していく俺…。
俺:(このままでは、いつか大事故するなぁ‥)
そう感じていた。
Chapter121
〜部長からの手紙〜
溶接課に移籍して5ヶ月が経った。
立ち上げ時の混乱も落ち着き、何とか災害も、大きな不良も無くここまできた。
この間、俺の母方おじいちゃんが亡くなったり、正式に班長が決まったり(勿論、俺では無い)様々な事があった。
そして俺は決意していた。
俺:~退社する、もう辞めるんだ…これ以上、七海興業にいても仕方ない…。〜
あのチビ将軍が正式に社長になったら、どの道この会社は潰れるだろう。
ならば今のうち、まだ俺自身に伸びしろがあるうちに新たな会社でやった方がいい…。
さまざまな資格も取った。
第一種衛生管理者、牽引免許、大型特殊免許、危険物乙四種、高圧ガス移動監視者…。
俺には武器がある、大丈夫だ、きっと。
そして笹山課長に言った。
俺:「課長、おれ、辞めます。」
笹山課長:「?!。…そうか。牧野(以前の俺の尊敬する上司。チビ将軍と揉め、事務所から移籍になった先の樹脂工場で課長として現在も活躍中。※Chapter103参照)のとこに移ったらどうだ?俺が言ってやるぞ‥。」
俺:「いえ、結構です。奴(チビ将軍)が居る以上、この会社に未来は無いし、ずっと奴のケツを舐めるつもりは無いです。」
笹山課長:「…そうか、わかった。」
笹山課長は判っていたようだ、俺がいつか辞めるつもりだと。
そりゃ、推進室時代にいろいろ言われたけど、最後はやるだけの事やって奴とのバトル内容(録音したレコーダー)も聞いてもらった…。
いやぁ、期間工から始まって長く居たなあ…。
少し感傷的になる。
その翌日だった。
君沢部長から一通の封筒が届いたのだった‥。
Chapter122
〜青天の霹靂〜
君沢部長からの1通の封筒が、職場の俺のロッカーに届く。
俺はそれを見ただけて涙が溢れていた…。
そう、アレを思いだしたから。
入社直後のウグイス鳴く工場時代、グウタラ嘘つき前野(弟)に怒れ『辞める!』と君沢さんに言った結果、第2工場へ移籍となった時の事を‥。
その時、君沢さんから1通の封筒を渡され、中には『頑張れ』とだけ書かれた手紙が…。
俺はそれを思い出し、自然と涙が溢れていた。※Chapter7参照
俺:〜君沢部長…まだ、俺の事を…〜
涙を堪えて、出てくる嗚咽を圧し殺し、封筒を開けた。
すると そこには…
~離職票~
俺:〜はっ?………(; ゚ ロ゚)。〜
そうか、そういう事か。
やっぱ辞めるしか無いな。
よし!辞めよう!!
うん、そうだ!!!!
その時、今までの君沢部長の言葉と行動、頭のなかで全て繋がる。
君沢部長は血縁無い社長一族で一族の中では一番弱い立場。
↓
息子(チビ将軍)を溺愛してる君沢部長の嫁さん(社長の実姉)には絶対服従。
↓
チビ将軍が次期社長確定。
そのお母さんが君沢部長の奥さん
↓
イチトシを立派な社長にしなさいっ!て言われてる。
↓
勅使河原が裏で黒下を操っているという君沢部長の見解だったが、勅使河原は今も課長のままで一切罰は与えられていない。
↓
課長時代から、勅使河原の事が苦手だった君沢部長は、奴の大きな弱みを握り、従順な部下にしたかった。
タイムカード空打ち横領事件で弱みを握れたので、しっかり現場で利益を出してさえいれば不問とする。
↓
黒下が職権乱用し逮捕されてもおかしくない悪さをしたのに今も何の懲罰も無く課長職のまま居る
↓
君沢部長が故意にやらせていた。
黒下と密約を交わし、勅使河原の弱みを敢えて作らせていた。計画が完了した今、黒下の罪は当然不問。
↓
禊課長と牧野課長を入れ替え、本堂組長も事務所に入れた。本堂組長は俺の業務を引き継いでいる。
↓
チビ将軍と反りが合わない牧野課長と俺を事務所から追い出したい。
牧野課長のポストは現場に穴が出来たので移籍させ丁度OK。
↓
牧野課長の穴は禊課長が埋めることで、他の課長に睨みが効かせれるのでチビ将軍を守れると考えた。
↓
俺の代わりは、行き場所に困っていた禊課長の部下、本堂組長も事務所に入れさせてあげる事で、ひと癖ある禊課長に恩を売る形にする。さすれば昔、現社長に謀反を起こした様にはならない。
↓
再三『もう要らない!』と言っているのに、ずっと運行手当てとして3万円、俺の給料に付け続けた※Chapter52参照
↓
君沢部長は俺の性格を熟知しており
俺に恩を売っておく。
↓
俺に毎月三万円支給しつづけれは、退社しても社内の様々な出来事(タイムカード事件、殺人、麻薬、喧嘩、脱税)を口外しないだろうと読んでいる。
↓
↓
↓
あっ、あぁぁ?!!(‘◉⌓◉’)
全ては君沢部長の掌の上?
全ては計画通り??
一番の悪党って実は………???。
Chapter123
〜最後のカマシ〜
真の黒幕は君沢部長だった…?のか???。
数日後、俺は残っていた有給を全て消化し退社することにした。
その間にも、事務所の日系人事務員がチビ将軍に理不尽な言い掛かりをつけられ退社に追い込まれたと聞いた。
俺: (また、あいつ1人潰しやがった…。)そして、彼から『訴えようと思うんだけど、協力してくれないか?』と電話があった。だが、俺はもう七海興業とは関わりたくないので断った。
あぁ…七海興業在籍、期間工時代も含め25年、本当に様々な事があった。
どちらかと言うと悪いことが多かったが、子供から大人へと人間的に成長させてもらった。
最後の日、お袋に会社まで送って貰い作業服を返却しに行った。
すると1階の外、喫煙所で君沢部長が1人、タバコをふかしていた。
俺は背後からそっと近づいた。
俺:「部長、お疲れ様です…………。
‥‥長い間お世話になりました‥‥。
"お前はいちとしの右腕に…"って指示されたのに…すいません、俺、守れなくて…(泣)」
文句のひとつでも言ってやろうと思ったのに、自然と↑こんな言葉が出た。
声が詰まり、涙が溢れる…。
やはり部長には感謝の気持ちが勝ってしまった。
君沢部長:「もう、泣くな。これから大変だけど、がんばらにゃいかんぞ、な…。さぁ、涙を拭いて2階で挨拶してこい…。」
俺:「は…はい…。」
そう言って部長は俺の肩をポンッと叩いて2階に上がって行った。
俺は慌てて涙を拭き、ひと呼吸、ふた呼吸して平静を取り戻した。
ちなみに七海興業の事務所では、退社時、すべての同僚の席を巡り『お世話になりました』と声を掛け、一言二言、話をするのが通例となっている。
恐らく、皆もこれから俺が来るだろうと言うことで準備し待っているだろう‥‥‥。
だが!俺はやらない ᕙ(☉ਊ☉)ᕗ。!!
特にチビ将軍には絶対にやらない!!
君沢部長にはもう済ました!
だから他の社員にもやらない!
‥そう決めていた。
俺は2階に上がり、事務員に渡すものを渡し、玄関の大扉の前に立って廻れ右をした。
事務所の皆、君沢部長も含め
皆:(えっ?何??)
という具合に注目した。
俺はまっすぐ、前を向いて、背筋をピンと伸ばし、そう、静かな事務所に似つかわしくない大きな声で
俺:『長い間お世話になりました!失礼しまっす!!』
と言って会釈。
クルッと向きを変え、お袋が待つ車に向かった。
その時、皆の顔をチラッと見たら
狐に摘ままれた様な顔で(≧▽≦)
チビ将軍なんか、俺を睨みつけていたなあ(☆▽☆)
禊課長と本堂組長は俺に会いづらかったのか、現場に行って事務所にいなかったなぁ。
わはははははは(((*≧艸≦)ププッ、
最後にカマしてやったぜ!
さらばだ!七海興業!!
口数少ない、腹の据わった、頭のキレる、悪い奴が結局は一番成功する。
チカラ無き正義は無力、俺はチカラが無かった。
本音と建前、理想と現実…。
これからは、他の会社で答え合わせをしようと思う。
そして、俺もこれからは悪いニンゲンにっ!
なれるかなぁ……。ᕙ( ͡° ͜ʖ ͡°)ᕗ
七海興業は今現在も、昔のままで運営している。
次回最終話 "乱" へ続く