ネタバレ:女王陛下は別に出てきません。『女王陛下の航宙艦』【読書メモ】
あらすじ
人類が宇宙まで生存圏を拡げていった未来。地球上の国家はさまざまな惑星に植民地を樹立し、それぞれの領土を拡張していった。
ある日、人類の辺境植民惑星が異星人により壊滅させられたという衝撃のニュースが報じられる。さらに悪いことに、奪還に向け出撃した最新鋭の艦隊も異星人艦隊の前に全滅してしまった。
そんな中、建造から70年が経過し、もはや骨董品同然の英国航宙軍航宙母艦"アーク・ロイヤル"とその老艦長"セオドア・スミス"に対し下された特殊任務とは……。
良いところ
・ツギハギだらけの骨董兵器(分厚い装甲、強力な一撃、鈍重な機動力を兼ね備える)が活躍するのってロマンだよね。
・飲んだくれの不良軍人がいざ人類の危機に立ち上がって英雄的な働きをするのもロマンだよね。
・先が読めない展開でドキドキした(途中までは……)。
うーん……なところ
・SFとして練り込まれていない。たとえば恒星間航行技術に関していえば「隣の恒星系の重力経路を捉え、プラーエンジンにより瞬間移動する」以上の描写はない。プラーエンジンって何?色々ウソをつく余地はあると思うが、謎の用語で説明を放棄している感じ。ハードSFではなくスペオペだといえばそれまでだけれども。
・流石に鼻につくご都合主義。三部作ということだからこれ以降の作品で秘密が明かされるのかもしれないが、作中に描かれる敵性宇宙人は御都合主義の産物に見えてしまう。アーク・ロイヤルとそのクルーを活躍させるためだけの存在というか。敵側の作戦行動が行き当たりばったりで、本気で殺しにかかってきていない。特に最後の展開、より進んだ航行能力を持っている設定なのに、なんで拿捕してくださいと言わんばかりにノコノコ巡洋艦一隻で追ってくるの?と思ってしまった。恒星間移動の設定が悪い方に作用したような。
・副長の人物像もあまり魅力的でない。イヤなヤツが最後仲間になる展開ってありがちだけどアツい展開。多分そういうロマンは作者も持っていて、この作品では副長がその役を与えられるはずなんだけれど……。物分かりが良すぎるというか、特に印象的なエピソードもないまま艦長を尊敬するようになったと言われても。アンタ割と序盤で絆されてたやんと感じてしまった。
・戦闘艇隊の隊長と部下のロマンス(結構露骨な性描写があります)に対して「これいる?」としか思えなかった。戦記物で共に戦う男女の間で(ときには道ならぬ)恋が芽生えるというのはよくあるストーリーラインですが、くどく感じるレベルで繰り返されます。オレはメロドラマが見たくて読んだわけじゃねえんだ……。
総評
この感想はあまり共感されないだろうな、と思いながら書いていますが、ロマンを詰め込んでいるけどエンターテイメントに昇華し切れていない作品と感じます。設定や展開の粗が無視できませんでした。
ただ、スペオペ的なケレン味は存分に詰まってますし、(謎の用語や微妙な翻訳を無視すれば)わりとサクサク読めるので、難しいことを考えずに一気読みしてロマンに浸るには良い作品だと思います。
ハードSFというより、SFという領域でいろいろ描こうとしたという感じでしょうか。
詳細情報
題名:女王陛下の航宙艦(原題:Ark Royal)
作者:クリストファー・ナトール
邦訳:月岡小穂
発行:2017/6/25
版元:株式会社早川書房
読書の時期:2023/4/8〜2023/4/8