ペンネーム:四十雀

「犬も猫も勝ち組」


「なぁ、お前もそう思うだろ?いっつも閉じ込められて、満足に外に出ることもできないなんて、うざったく思ってんだろ?」

 そう彼に言われて僕は戸惑ってしまった。確かに僕の家は狭いと思うけど、外が暑かったり、寒かったりすれば主人は自分の家に上げてくれるし、ご飯もいつも決まった時間に出してくれるし、おやつだってくれるときもある。つまり現状に対する大きな不満が余り思い浮かばないのだ。そうやってもじもじしていると、塀の上にいた別の彼があくび交じりに声を投げた。

「やめとけって、そいつはいっつも尻尾振って「ゴシュジンサマに付き従います~」って『猫なで声』出してんだから。」

そういうと塀の上の彼はフンッと鼻で笑って狸寝入りを始めた。そうすると今度はまた目の前の彼があきれたように息を吐きだしてあきれたように僕に語りだした。

「なんだよ、おめぇは飼われてることに不満はねぇのかよ。俺はとっとと自由になりたいってのに。まぁ、俺たちとお前は何もかも違うから仕方ねぇけど、それにしたって従順すぎるってのも間抜けじゃねぇか?もっと自由に生きたいと思わねぇのか?」

そういわれたって僕はご飯をたくさん食べられる今の方がよっぽどいいと思っている。それは君たちの『負け犬の遠吠え』じゃないか、と言った。そうすると壁の上で寝こけていた彼がぴょんと目の前まで下りてきて皮肉っぽく笑って言葉を投げた。

「ハハ、言うじゃねぇか。けどまぁその通りだ。言われてるぜ『負け犬』エリザベスちゃん。そんなに自由を謳歌したいなら早いとこ俺みたいな野良になるこったな。」

投げられた言葉は僕と、さっきまで僕の前にいた―間に野良さんが入ってしまったけど―彼ことエリザベスちゃんにも投げられていた。

するとまるでノミにかまれたときみたいに気持ち悪そうに体をくねらせながら「ちょ、その名前で呼ぶのはよしてくださいよ。俺の立派なタマが縮み上がっちまう」といった。そして今度は腐った魚を食べてしまった時みたいな顔でつづけた。「それに、野良になれったってどこに逃げてもななぜか飼い主が追っかけてくるんだから無理なんすよ……この前なんて10ぐらい隣の縄張りに行ったのに3回目の飯時にはもう捕まっちまったんですから。こうやって抜け出すのは簡単なのに逃げ切るとなると途端に追いかけてくる。怖いなんてもんじゃないっすよ……」

疲れたような顔でエリザベスちゃんはそう語った。少ししょんぼりしたエリザベスちゃんが顔を下げたせいで、彼の背中が少しだけ見えた。背中の一部だけ毛の生え方が変わっている。たしか前の雪の頃、彼の背中側がちょっと剥げていたんだった。そういやあのころから日が落ちる頃に彼の飼い主さんが此処に迎えに来るようになったなぁとどうでもいいことを考えていた。

暫く僕らはにゃあワンにゃあと何でもない話をしていると、日が落ちるときの「ゴーーーン」という音が響いた。そしてそれに呼応するように少し遠くの方から「ブモォォォォォ」と低いうなり声が聞こえてきた。僕たちはそろってそっちの方を見て、そしてそのあとに顔を見合わせて笑いあった。野良さんが「まぁでもあいつらより俺たちも、お前もかなり恵まれてるよな」と薄く笑いながらエリザベスちゃんに言った。「そうっすね。食われるより飼われる方が全然マシっすわ」とエリザベスちゃんも同意した。そして僕は昨日主人から分けてもらった彼らの味を思い出して、よだれが落ちるのを我慢しながら「ワン!」と同意した。


【出題されたなかで使用した題材】
①人間以外の視点で描写する


「記憶」    

 赤猫博士が笑っている。夏の夕暮れ、オレンジ色に染まる縁側の隅で何をしているでもないけど、たぶんいつもの思い出し笑いだと思う。僕がそっと近づくと、その屈託のない笑顔を僕に向けて、やぁ調子はどうだいなんて聞いてくる。どうせ聞く気なんてない癖に、僕が何を話したって博士は「ふぅん、そいつはよかったな。」としか返してこない。そのくせ何も答えないとそれはそれで不機嫌になる。まったくもって面倒な人なのだ。

 今日の赤猫博士はいつもと違っていた。いつもなら縁側で胡坐をかいて、その幼い顔立ちに似合わないタールのきつい煙草をふかし、豪快に笑っている。今日は胡坐をかいて煙草をふかしている事には変わりない。けれどいつもの思い出し笑いじゃなくて、まるでいたずらを思いついた子供みたいな、何かを企んでいるような、そんな不気味な笑顔を浮かべながら一心不乱に足の上の何かをいじっていた。僕が近づくと、いつもの調子で「やぁ、今日はいいものができたぞ」なんていうもんだから少し肩透かしを食らったような心持になった。何ですかそれと聞く前に博士が自慢げに語り始める。これは記憶を見せる機械だ、と。そこから先はニューロンが、電気信号を、映像情報に、なんていう専門用語ばかりで聞き取れたものではなかったが、得意げに話す博士の邪魔をしてはいけないと黙っていた。

 ひとしきり語り終えた博士は「さぁ、モルモットもいることだし、さっそく実験を始めようか」とぼーっと聞いていた僕の後ろにいつの間にか回り込んでいて、件の機械を僕に取り付けた。抵抗しようにも博士の見た目によらない怪力のせいでそれはかなわない。僕に取り付けられた機械はもう博物館や大昔の資料にしか残っていないよう黎明期におけるVRゴーグルのようなものだった。頭の前に確かな重量を感じる。未だ視界はゴーグルをはめられた時の暗闇から変わる様子はない。ガチャガチャと何かをいじる音が耳元でなり、その数舜後、パチッと何かのスイッチを入れたような音が聞こえると、真っ暗な視界に徐々に光があふれてくる。視界が白に染まったところでプ―――――――――と間抜けな音が頭の中で響く。どういうことかと混乱しているとついで頭の圧迫感が消えた。どうやら博士がゴーグル型の機械をはぎ取ったようだった。

「あーまた失敗か。駄目だねこりゃ……また一から作り直しだ。」

頭をボリボリと搔きながらはぁっと深いため息をつく。そんな様子の博士を心配そうに見つめていると「あぁきにすんな。最初っからわかってたし。まぁ今に待ってろ。昔お前が見た世界をもう一度見せてやるからな。それに今はこんなゴテゴテしたもんだが軽量化も考えてる。楽しみにしてろ」

そういって、またがははと豪快に笑った。そして僕から外したゴーグルを脇にやって胸ポケットから取り出した煙草に火をつける。鼻を刺すようなタールの匂いと夕闇に立ち上る紫煙は儚くて、とても寂しかった。そんな煙草を吸う博士の姿をみて僕は、耐えられなくなった。いろんなものがこみあげてきて、あふれ出そうで、どうしようもなかった。我慢できなくて、僕は眼鏡をはずした。

 眼鏡をはずした先にあったのは夕暮れに染まった世界。オレンジ色の空に夜が顔を出し始めたころに僕は一人立っていた。僕の目の前には大きな石がある。それ以外には目立つものはなく、油断すればこの石さえも風景に溶け込みそうな不安定さを持っていた。それは墓だった。赤猫博士の墓だ。名前は掘っていないけれど、代わりに蹲って寝ている猫が描かれていた。

 「ずいぶんと、軽くなりましたね」

僕は手に持っていた眼鏡型の機械を撫でる。

「今日はあいさつに来たんです。ここから離れるから、あんまり頻繁にこれなくなると思って。」

墓の下から返事もないのに話しかける。

「ずいぶんと面倒なものを残してくれましたね。言いたいことがあるなら言えばよかったのに。」

また話しかける。返事はない。当然だ。

「今度来たときはちゃんとしたお供え物持ってきます。今回はこれで勘弁してください」

そう言って僕は博士がいつもふかしていた煙草に火をつける。煙草の先から紫煙が立ち上る。煙が口の中に広がって焦げ臭い。喉に刺さるような感覚があって思わずせき込む。

「こんなもの、よくずっと吸ってられましたね。僕には無理そうです。」

火が付いたままの煙草を博士の墓前において、踵を返す。辺りには博士の煙草の匂いが広がって、煙が僕の方に向かってくるものだから目が痛い。涙が出そうだった。まとわりついてくる煙草の香りが鼻を刺してくるようでそれも痛かった。また涙が出そうだった。でもそれが博士の存在を主張しているように思えてしまって、涙が出そうだった。

 帰りながら僕は、博士からもらった眼鏡型の機械をケースにしまう。次にこれを出すときは、また墓参りをした時にしよう。そう思って僕は夕暮れを後にした。


【出題されたなかで使用した題材】
②時間軸の中を1回以上移動する文章
(舞台となる時間が2つ以上出てくる文章)にする
(例:語り手が現在から過去を振り返る、など)


「デュエル開始!」*ネタです。温かい目でお読みください


「『サムライ:サナダ』を召喚!効果により種族:サムライを持つモンスターはこのターンの間パワーを3000アップだ!さらに『魔法:六文銭の覚悟』を使用する!このターンの間、自分の場に『サムライ:サナダ』がいるなら自分の場のモンスターすべてのパワーを1000アップだ!行くぞ!場の『サムライ:ケンシン』で『龍巫女サファイア』に攻撃!」


「へっ、んなもん効かねぇな!『魔法:緊急集会〈龍〉』を発動!自分の『龍巫女』と名の付くモンスターが攻撃対象になった時、デッキから『龍族』のカードをコストを無視して召喚!来い!『龍族:ブルーサファイアドラゴン』!このカードの召喚時効果でお前の『サムライ:サナダ』を破壊だ!さらに『龍巫女サファイア』が場にいるとき、こいつは『特性:破壊者』を得る!『龍族:ブルーサファイアドラゴン』で防御!『特性:破壊者』の効果によりお前も道ずれだ!そしてこいつはターンに一度まで破壊されても復活することができる!次のターン、お前の敗北は確定だ!!」


「ハハハ、こんな展開はお見通しだ!今度はこっちの番!『魔法:不滅のサムライ魂』を発動!効果によって『サナダ』は復活する!そしてさらに――――「ご飯できたよー!とっとといらっしゃい」


「はーい」


母親からお呼びがかかった。いいところだったけれど仕方がない。腹が減っては戦はできない、と『シンゲン』も言っていた。それに今日は忙しい父親が久しぶりに家にいる。家族三人が全員そろっている珍しい日なのだ。家族のだんらんを過ごすのも大切だと『サナダ』も言っている。僕は二つのデッキを片付けて部屋を後にした。


【出題されたなかで使用した題材】
③「信頼できない語り手」の視点で書いてみる
(語り手が嘘つき、無知、世間知らず、強がっている etc.)

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