My Favorite Best Album〜伊勢正三『伊勢正三 WORKS』(ちょっとした伊勢正三論)
ベスト・アルバムで重要なのは選曲もですが、実は曲順も相当大切なものですよね。
最近、アンソロジー的なベスト・アルバムで多いのは発表順に曲を並べるというものですね。
これは録音状態やその音質、演奏形態などを考えると、曲順で違和感が少ない形という意味ではベストに近い形ですね。
伊勢正三さんには数多くのベスト盤が存在して、その中にもヒストリカルな編集がされているものが多いのでした。
この『伊勢正三 WORKS』はかぐや姫〜風〜ソロ(クラウン時代)〜ソロ(ポニーキャニオン時代)〜ソロ(フォーライフ時代)とかなり長い期間の楽曲が選ばれています。
その中でも音楽性の変化などに起因される質感の違いが生じているわけなんです。
ちょっとした伊勢正三さん論みたいなことになるかもしれませんね。
じゃ、行ってみよー。
・伊勢正三『伊勢正三 WORKS』(FLCF3819/フォーライフ)
かぐや姫時代からと最初に触れましたが、実はかぐや姫時代の楽曲「なごり雪」と「22才の別れ」に関しては当時のライヴ録音が使用されていて、オリジナル・ヴァージョンであるアルバム『三階建の唄』に収録されたものは使用されていません。
ちなみに後者は風時代のシングル・ヴァージョンも使用されていないことを付け加えておきます。
かぐや姫の楽曲としては「わかれ道」が収録されていますが、これは1978年の再結成時のアルバム『かぐや姫TODAY』からでして、このアルバムに収録された風時代の「海岸通」や「暦の上では」以降に発表された楽曲になるんですね。
これは結構重要です。
かぐや姫〜風の初期を大雑把にカテゴライズするとしたら、富沢一誠さんいうところの叙情派フォークという感じなんですよね。 すいません、安易に表現してしまって。
まー、風の音楽性が大きく変化したといわれているのはサード・アルバムの『windless blue』以降にクラウン・レコードのハウス・ディレクターだった中根康旨さんが担当するようになったからとされることが多いんですが。
実は先ほど挙げた「暦の上では」はセカンド・アルバム収録曲なんですが、その演奏メンバー(ギター水谷公生さん、ベース武部秀明さん、ドラムス田中清司さんという顔ぶれ)と瀬尾一三さんの編曲でかなり素晴らしい仕上がりになっていることを強調しておきます。
勿論、ティンパンアレーやムーンライダーズのディレクターでもあった中根さんの手腕によることも大きかったとは推測できますが。
昨今「ほうづえをつく女」や「海風」がシティポップの文脈で語られるとというのも当然だと思います。
風の中期〜後期にかけてはバンド色が強い演奏というより、日本トップクラスのスタジオ・ミュージシャンによる確かな演奏力と瀬尾一三さんや佐藤準さんの編曲がそのクォリティの高さを支えたと解釈しています。
風はフォーク・デュオの形態で活動していたように思われていましたが、実は伊勢正三さんと大久保一久さんのソロ・ユニットがレコーディングではセルフ・プロデュースにセルフ・ディレクションしていて、ライヴの時のみデュオという形になっていたのでは?と推測しております。
伊勢さんがソロ活動にスムースに移行して、このCDで時代を超えた曲順でも違和感がない理由はこの辺にあるんじゃないですかねー。勿論、リマスタリングでかなり聴きやすい内容になっていると思いますが。
そんなに単純に語るべきではありませんが、流れの中ではこうだったと推測するくらいは許してほしいですね。
実際、ポニーキャニオン時代にはこのアルバムから漏れたような尖った時期(ミニ・アルバム『Half Shoot』などはそうでしたよね)があったり、バンドを従えての活動時期もありましたから。
このベスト盤を聴くと伊勢さんの洗練された部分だったり、ソングライターとして充実した時期を伺えて、かなり興奮してしまうのでした。
この凄さわかってほしいなー。
ではまたー。