2020年のベストアルバム25選
いよいよ2020年も終わるということで、各所で発表された年間ベスト系の企画で盛り上がっている今日この頃。かくいう自分も12月から毎日1作品ずつnoteを書いていくアドベントカレンダー形式でベストアルバムを発表してきました。
改めて今まで行ってきた企画の内容をおさらいするとこんな感じ。
対象作品 : 2020年1月1日以降の音楽アルバム(ミニアルバムも含む予定)
12/1〜12/24 : ノミネート作品を毎日1作品ずつ発表(発表する順番と順位は関係なし)
12/25 : 12/24までに発表した24作品のランキング(2位〜25位)および1位の作品を発表
これを書いているのは12月30日。クリスマスにランキングを発表することを前提とした企画でしたが、途中で発熱など体調不良が続いた関係で当初予定していた毎日1作品発表は途切れてしまいました、、、
予定よりは遅れてしまいましたが、無事全ての作品のnoteが完成したので、これまでnoteで1枚ずつ発表してきたベストアルバムノミネート作品のランキングおよび1位の作品をカウントダウン方式で一挙に発表していきたいと思います。各アルバムごとにnoteのURLと、そこから抜粋したショートコメントを載せております。作品ごとのnoteも是非読んでみて下さい。
2020年ベストアルバムTOP25
25. Base Ball Bear 「C3」
今作が出来たことで3ピースバンドとしての基礎編が確立出来たとメンバーは語っている。「EIGHT BEAT詩」のような新たな引き出しもあるが「C3」の軸となっているのはギター、ドラム、ベースの普遍的なギターロック。今作は初めて聴く人にとっては確かに基礎的な作品かもしれないが、次作はより幅広いリスナーを唸らせる"応用編"が出来るのではと今から心待ちにしている。
24. Disclosure 「ENERGY」
様々なジャンルや国の音楽を横断しながらも、それらをダンスミュージックという直感的なスタイルで放つことで、言語の壁を無視して音楽がもたらす高揚感へとグイグイ導いていく。この作品から得られるパワーは全世界共通の感覚なのだ。
23. 17歳とベルリンの壁 「Abstract」
同期音をふんだんに盛り込み、シューゲイザーとチルウェイヴをブレンドしたような低体温の質感でとても気持ちが良い。曲名からも伝わってくる、人の気を感じない海の幻想的な美しさと少しのディストピア感も、2020年の8月というタイミングにピッタリだったと思う。
22. Novo Amor 「Cannot Be Whatsoever」
美しさ、儚さ、そして親しみやすさが共存したファルセットを丁寧に重ねたボーカルは先述したボン・イヴェールを彷彿とさせ、背後で微かに揺らめくシンセの音色が奥行きのある豊かなサウンドスケープを生み出してゆく。10曲30分ちょっとで聴ける、軽やかでドラマチックな1枚。
21. Soccer Mommy 「color theory」
過去を遡るノスタルジーの深さと心で渦巻く葛藤の深さがサウンド面の深化と共振している。痛いけど心地よいアンビバレントな感情を抱きつつ、この1年を通してUSインディーの平熱感のある音色に魅力を感じるきっかけの1枚となった。
20. ROTH BART BARON 「極彩色の祝祭」
厳かな雰囲気のサウンドは、極彩と祝祭という言葉の一般的なイメージとは異なるかもしれないが、カラフルで煌びやかな音色とは違う、繊細な音色と感情の重なりをもって極彩色とし、少ない人数で集まって音を鳴らすささやかな喜びをもって祝祭なのだ。人工的でカラフルな光や娯楽的なフェスティバルの根源にある風景が、この作品には丁寧に描かれている。
19. HAIM 「Women In Music Pt. Ⅲ」
振り切る部分は全力で振り切りこだわる部分は全力でこだわる。アルバムを通して前面に出ている"素直さ"は楽曲制作の背景からも感じ取れる。今作の楽曲のほとんどがメンバーのパーソナルな体験を基にしており、サウンドの芯の強さとは裏腹に詞はシリアスでナイーブな内容が多い。苦悩や葛藤が刻まれた楽曲が並んだアルバムだが、苦しみの果ての難産のような楽曲ではなく、曲を作ることで苦しみを癒し、解放していく方向に向かっていったとメンバーは語っている。アーティストにとって作品と向き合うことがセラピーになるのはとても良いことだなと感じた。
18. Age Factory 「EVERYNIGHT」
正解の無い時代に大人になった自分にとって、どこまでもピュアでオルタナティブな同世代のロックバンドが躍動しているのは本当に頼もしい。清水エイスケの生まれた年をタイトルにした「1994」で歌われているように"間違った答えを 僕らは求めてる"のだ。一瞬で過ぎゆく儚さに魅せられるロマン、心の奥にある原風景を追い続けながら、時代の新しさとも共振しながら、3ピースパンドとしての表現力をこれからも高めていって欲しい。
17. Thundercat 「It Is What It Is」
アルバムを1周した後にもう1度1曲目から聴き返してみると、最初に聴いた時とは"陽気さ"の意味合いが違って感じられる。もう取り戻せない喪失感こそが、サンダーキャットを"生きている証"としての音楽活動へ向かわせているよう。悲しみを忘れるために踊るのはない。人生はいつだって陽と陰のグルーヴの上に存在するのだ。
16. yonige 「健全な社会」
2人とも今年で20代後半に差し掛かり、生き急ぐよりも息を長く活動をしたいと思うようになったという。自分も同世代としてその気持ちはとてもよく分かる。エモーショナルな熱気が飛び交うロックシーンの渦から外れることでyonigeなりの「健全な社会」を求めたのではないか。
15. 羊文学 「POWERS」
文字通りパワフルなナンバーもあるが、個人的には曖昧さや揺らぎを描いた楽曲の中に大切な感触が沢山込められているように感じた作品だった。分かり合えなかったり、救い出せるか分からないからこそ、塩塚モエカの歌声は祈りのように、無償の愛のように響く。まだまだリリースから日が浅いので、お守りのような神秘的なパワースポットのような作品として今後も聴き続けていきたい。
14. 君島大空 「縫層」
スッと入り込んではパッと消えてしまうような儚い歌声と、夢と現実の狭間をさまようような幻想的なサウンドが広がっていく。多彩な音色を散りばめ丁寧に世界を描いていく楽曲の中で、歌とギターはどこにも染まることなく隙間を縫うように漂っている。繊細で煌びやかなアコースティックギターで揺らめくこともあれば、メタリックな轟音のうねりに飲み込むことも。めくるめく曲展開に浸る一方で、その真相には決して触れられないような神秘的な世界。ゆえに心地よい。
13. Childish Gambino 「3.15.20」
インターネットでしか外部と繋がれない期間は、世界各地で起こっている様々な問題との距離感をグッと近づけた。音楽を聴くということは、カッコ良いビートで踊る自由と共に、背けてはいけない現実と向き合うこと。アルゴリズムに踊らされるのではなく、己の五感で世の中を感じ取るために音楽は鳴っている。
12. Taylor Swift 「folklore」
サッと聴いただけでは静かで素朴な印象を受けるかもしれないが、背後で聴こえる緻密なエレクトロ/アンビエントな音色が森林をかぎ分けるように奥が深く、幻想的で、時に壮大なスケールを描き出す。芸術的趣向を凝らした音響に溶け込むようなロートーンでエレガントな歌声も素晴らしい。次世代のポップスターがどんどん登場する中、30代を迎えたテイラーがアーティストとして更なる進化を求めた結果として誕生した素晴らしい1枚。
11. Sufjan Stevens 「The Ascension」
時に繊細に時に暴力的なビートを刻むエレクトロニカ。そのサウンドは心地よく快楽的とすら感じるが、出口のない迷路を彷徨うような歌を聴くと無邪気に楽しんでいて良いとは到底思えない。自分の身の回りに潜む病の存在に気付き、向き合い、戦った先で、快楽的なトラックを真の意味で楽しみ、心地良い幻想的な世界へ昇天する音楽体験が待っている。
10. 米津玄師 「STREY SHEEP」
この禍中において音楽をはじめとしたアート・エンタメカルチャーは真っ先に犠牲を被ったが、アートには時代の変化を映す役割がある。その信念のもとに希望も絶望も詰め込んだ1枚だと感じた。迷える時代のサウンドトラックとして、混沌の中でこそ力強く存在感を放ち続ける。
9. 藤井風 「HELP EVER HURT NEVER」
日本の原風景から吹く風の便りのようで、全く新しい未来の発明品でもある。実体を持たないはずの音楽に抱擁され、心の重荷が浄化される。アルバムタイトルに込められた"常に助け決して傷つけない"というメッセージに偽りはない。
8. GEZAN 「狂(KLUE)」
狂騒的なカオスの中で踊る。踊るというのは自分のビートで日々を乗りこなすことかもしれない。その過程で孤独("Lonely"ではなく"I")を取り戻す。その先で、ひとりとひとりが生身の体温と心を通わせる場所を取り戻す。この1年なんかで成し遂げられることではない。何年もかけてこの作品は問いかけを与え続けるだろう。
7. The Killers 「Imploding The Mirage」
砂煙を巻き上げながらウエスタンの荒野を駆け抜けるカウボーイのように、歌と演奏はどんどん馬力を上げていく。「Imploding The Mirage」というタイトルを直訳すると"蜃気楼の破裂"。ロックフェスに行けない夏という状況も相まって、まさに先行きの見えない時代の閉塞感を打ち破ってくれるスタジアムロックはとてもダイレクトに響いた。
6. iri 「Sparkle」
スタイリッシュに弾むビート、甘く溶けるスロウなバラード、更には攻撃的なヒップホップテイスト、どんなスタイルの楽曲でも乗りこなすiriのクールで煙たい歌声は作品を重ねる度に風格が増していく。リードシングル「24-25」で周りとの違いを自分らしさと捉え、より一皮むけた自然体な姿勢がスパークしている。このポジティブな波に乗って自分も折り返しの20代を謳歌していきたいと思う。
5. WONK 「EYES」
"情報社会の多様な価値観と宇宙"をテーマに、長編映画のような脚本を作り、そのストーリーを全22曲に落とし込むように作られた超意欲作。R&B、ソウル、ジャズを軸にしたクールなグルーヴを軸に、スペイシーなシンセもふんだんに加えたサウンドが流れ行く様は、まさにSF映画を体験しているような気分になる。分断を繋ぐように様々なジャンルを横断しながらストーリーを描いていく75分超というボリューム感。リスナー1人ひとりに合わせてAIが似たような楽曲をレコメンドし、アルバムではなく曲単位で次々と消費していく、ストリーミングが主流になった現代のリスニング環境に対するカウンターとも言えるだろう。
4. Gotch 「Lives By The Sea」
ヒップホップとゴスペルを中心に据えた、ささやかで誇り高い1枚。ゴッチがステージから言い続けてきた「誰の真似もしなくていい」というメッセージは、それぞれが自分のペースで音を感じ、その先にある日々を自分らしく進むためのものだと思う。人の数だけ存在するビートに伴走するように、人の数だけ存在するありふれた日々を抱きしめるために、音楽はすぐそばにある。
3. Tame Impala 「The Slow Rush」
徐々に飲み込まれるサイケデリックな渦に溺れていく音楽体験。その一方で直感的に踊れるリズムでファンキーに揺さぶる楽曲も。立体的に配置されたビートは時に軽快に時に壮大なスケールで響き渡る。曲目とアートワークを見れば分かるように「時間」がテーマの12曲。時間をテーマにした背景にはバンドの首謀者ケビン・パーカーの結婚も大きく影響している。いつまでも続いて欲しい自由と、いつか迫り来る覚悟の境界を曲ごとに行き来しながら、心地よさとスリルの繰り返しに誘われる。
2. The 1975 「Notes On A Conditional Form」
バンドを取り巻くインナーでパーソナルな世界観を様々なジャンルの楽曲で旅する22曲80分の大作。"Music For Cars"の時代を終えるにあたって、このバンドが何を聴いて育ち、どんな曲を育んで成長してきたかという軌跡を記し、ロックバンドという存在がどれだけ人生を彩り続けているかを刻みつけた。慣れ親しんだ居心地の良い車を降りて、次に彼らは何のための音楽を鳴らすのだろうか。
1. BBHF 「BBHF1 -南下する青年-」
丁寧に構築された美しいサウンドに乗せて、ここではない何処かへ誘う旅のような物語でもあり、愛情と継続、身近にある終わりのない日々の心情の記録と変化の物語でもあった。バンド離れした先鋭的なサウンドメイクと、ロックバンドの肉体的なダイナミズムの融合、そして今の自分が共感する人生の普遍的なメッセージ、どれを取っても2020年で最も深く響いた音楽作品。来年も再来年も、変わらぬ日々の中に鮮やかな陽の光を求めるべく、そして素晴らしい音楽と出会うべく旅を続けて行きたいと思う。
ベストアルバムを選んでみて
今年から初めて国外のアーティストの作品も選出することにしました。まだまだ掘り下げられる余地は無数に存在しますが、様々な音楽をボーダーレスに聴いていたのが2020年の自分の日常だったからです。もともとブログ等では邦楽のロックバンドを中心に扱ってきたので、そのイメージと比べるとかなり見栄えは変わりましたが、エモーショナルな響きとかビートのカッコ良さ、ダンサブルなテイストなど、自分が音楽に突き動かされる要素は昔から一貫してる部分が多いと思っています。国内外でベストを分けるのも考えましたが、先述した出自も踏まえて両者の隔たりを繋いでいくことで自分らしさも出てくると思うので、来年以降も分けずにやっていくと思います。
選んだアルバムを振り返ってみると、長尺で作り込まれたアルバムがかなり多くランクインした印象があります。去年はかなりプレイリスト頼みな聴き方をしていたので1曲2曲しか知らないアルバムが自分の中で沢山出てきてしまったのですが、今年はやはり外に出れず自室でじっくり音楽を聴ける環境にあったので、アルバム単位で好きになった作品が多く出てきました。やっぱり単曲が物凄いスピードで消費されていくよりもアルバムをじっくり聴く方が楽しい。
とはいえ、もっと聴き込んでいたら評価も変わっていたと思うアルバムも沢山あるし、一回聴いてカッコ良いと思った曲も一週間後にはまた新しいリリースラッシュの中で忘れてしまったり、というケースも沢山ありました。自分に合わせた音楽を取り入れるペースを守らないとストリーミングの情報量の渦に飲まれてしまうし、一方でめちゃくちゃ良い音楽との出会いを逃しているかもしれない。だからこそ、年間ベストなどの企画で色んな人が色んな作品を掘り起こして再び脚光を浴びさせるということを定期的に行うのはとても大切だと思います。
来年は月単位とかもう少し短いスパンでこういうベスト系を定期的に出せれば、、、というのは毎年思っているので来年もどうなるか分かりませんが、引き続きどのジャンルにも属さず、それぞれのジャンルの壁や分断を緩やかに繋ぐように広がりのある音楽の楽しみ方を伝えられればなと思っております。あとはいわゆる「音楽好き」じゃないリスナーに向けてもカジュアルに音楽の話が出来る場所が生まれたら良いな〜といった感じです。2020年も素晴らしい音楽を生み出してくださりありがとうございました!!