3年前に書きたかった「初めてのアルバムレビュー」 - 2010年代の音楽を振り返る(5)
先月から不定期更新している「2010年代の個人的名盤を振り返る」企画。今回が第5弾。2010年代の終わりにも差し掛かってきたので今回も含めてあと2~3回ぐらいになるかと思います。
これまでの4回分のアーカイブはこちらから。
第5弾は2016年の作品から個人的に思い入れの強い1枚をピックアップ。
そもそも2016年という1年が自分にとって思い入れの強いというかターニングポイントになった年で、こうしてインターネットに文章を書くようになったのもこの年の9月からだったり。
3年経った今も続いているぐらいに、自分から「これがやりたい」と思って始めたことだし、それまで主体的に何かをやりたいと思うことがなかった身としては1つの大きな"発見"だった。
そんな2016年の9月にリリースされた作品が今回の1枚。
フォーリミこと04 Limited Sazabysの2枚目のフルアルバム。タイトルはユリイカと読む。
そして「eureka」は"発見"を意味する言葉。自分がやりたいことを発見したタイミングで、彼らも何かを発見したのだった。
そんな縁?もあってこの時期とにかく聴いていた思い入れのある1枚。
ただ、当時は文章を書くのも始めたばかりで、大好きなアーティストだからこそ、この音楽を言葉で表現する自信もなかった。
ので、3年前の自分が書きたかったこのアルバムのことを、今の自分なりに書いてみようと思う。
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まず「eureka」というタイトルをつけたフォーリミは、2016年に一体何を発見したのか。
それを一言でいうなら、バンドにとっての「居場所」「立ち位置」のようなもの。
そしてそれを守り、育てていくための「決意」と「希望」を背負った時期だと思っている。
フォーリミは男勝りなパンクロックのシーンが出自ではあるものの、彼らの武器である日本語の歌やポップでキャッチーなキャラクター、ビジュアルなどは当初周囲のパンクバンドと馴染めない要因になっていたそう。
だけど、それ故にフォーリミはインディペンデントな活動を続ける強さを獲得し、様々なジャンルと付かず離れずの関係を築くことで自らの音楽を確立していった。
そんなフォーリミの活動の1つの集大成と言える、毎年4月に地元の愛知県で開催される主催イベント「YON FES」がスタートしたのもこの年から。
各所からカッコ良いロックバンドが集うこのフェスは、様々なジャンルに顔を出してきたフォーリミだからこそ実現出来るラインナップで毎年多くの人々を楽しませている。
1つのジャンルに馴染めなかったバンドが真ん中に立って多くのアーティストを繋げる、まさに彼らが見つけた居場所であり役割だ。
決意と希望に溢れたアルバムのオープニングを飾る「Horizon」の「地平線を越え届けたいよ」という歌詞からも、自分たちの音楽やスタイルを今までよりも多くの人へ届ける意志、そしてYON FESにも通じる、世代やジャンルを越境しようという意志を感じる。
続く「紡ぎ出す言葉に乗り込め」という詞から曲は一気にスピードを増していく。
フロントマンのGENさんが紡ぐのは、誰かの背中を押す言葉ではく、常に"背中で見せる"言葉だ。つまり、紡ぎ出す言葉の主語はフォーリミ自身だと思っている。
バンドが見てる/目指してる景色をそのまま投影していたり、誰かに向けた歌ではなくて自らの想いと感情を率直に言葉に込めている。その姿勢こそ、自分にとってフォーリミが特別な存在となった大きな要因だ。
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自ら大型フェスを主催して居場所を獲得したように、自分を含めて多くの人が04 Limited Sazabysに居場所を見出した。
色んなジャンルのアーティストを繋げる彼らだからこそ、ファン層も広がっていった。
アルバム9曲目の「discord」は激しく重たいハードコアとポップで軽快なサビが曲中で交互に登場する目まぐるしい展開の曲。
ライブで激しく盛り上がりたい人と、大人しくかつ近くでステージを観たい人との確執を表現した曲だと語っている。この確執は今に至るまで続いていて、SNSで両者の意見を見る機会も多い。
3年前は自分も口出したりしたけど、今になって思うのは、お互いが"分かり合えなさを理解する"ことが重要なのかなと。そして"誰かが言う正しさに流され過ぎない"こと。
遊び方も感じ方も自分次第。自分の居場所は自分で見つけて作ることをフォーリミに教わったからこそ、どっちの方が良い悪いとかではなく、各々で自分が”正しい”と思う基準を持って、色んなジャンルや楽しみ方の良いとこ取りが出来ればいいなと思っている。
こんな風に、アーティストが発する歌や言葉、思想に影響を受けて自分の考えが形成されている経験をしたのもフォーリミが最初だったかもしれない。それまでは音楽もライブも日常から離れて楽しむためのものだと思っていたから。
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「3年越しのアルバムレビュー」的なコンセプトにしてみたものの、結局主観と客観の行き来でレビューと称せる文章ではなくなってしまった。笑
04 Limited Sazabys自身が居場所と役割を発見した1年にリリースされた「eureka」は、04 Limited Sazabysに居場所に見出したファンを大きなステージに引き連れて行くアルバムだ。リリース前のタイミングでメンバーは名古屋から上京し、活動拠点においても新たな居場所に向けた船出となる作品でもある。
大きなステージの最初のステップとも言える日本武道館でのワンマンライブも、このアルバムの実質ツアーファイナル的なタイミングで行われた。
分かりやすい目標に向かっているストーリー上にいたこともあり、アルバムの楽曲は全体的に大きな会場をイメージさせる曲が多かったり、尖ってるというよりは明るくて丸みがある。
「eureka」を経て2018年に3枚目のフルアルバム「SOIL」をリリースした際のインタビューで「"eureka"の時は正しくあろうとし過ぎた」と話していた。
今となっては確かに"フォーリミにしては襟を正した作品"と感じたりもするけど、もちろんそれが間違いな訳はなく、バンドにとっても自分にとっても重要だった2016年の記憶が詰まった思い入れのあるアルバムだ。
3年前に自分で居場所を発見した経験があったからこそ今がある。