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【AOTY2020アドベントカレンダー Day8】 The Killers 「Imploding The Mirage」

2020年の8月。ロックダウンも解除されて街には活気が戻りつつあったが、30度超えの猛暑の中、マスクをして人混みとアスファルトの熱気の中をかぎ分けようという気持ちにはならず、海沿いを走りながら聴きたくなるようなチルなナンバーや、寂れた海岸が似合う轟音のシューゲイザーを聴いてジメジメした暑さを落ち着けていた。

ただ、何かが足りない。だだっ広い草原に響き渡るロックンロール、海沿いのスタジアムに響き渡るシンガロング、そしてその熱狂を伝えるSNSの声。こうした光景が当たり前だった夏は何処へ行ってしまったのだろうか。水曜日と金曜日にチェックする新曲のプレイリストをチェックしても、対面する必要も無くフットワーク軽く楽曲制作が出来るアーティストばかり。かくいう自分自身からも"ロック"の存在感が薄れていっている気がした。


そんな8月の下旬にリリースされた新しいアルバムの再生ボタンを押す。広大な荒野で新しい朝を迎えるような幻想的な音色に包まれ、グラマラスな歌声が静かに響き渡る。徐々にビートの拍動が高揚感を煽り、曲の開始から58秒。一気にビートが躍動し、開放感溢れたシンセの音色が広がっていく。

砂煙を巻き上げながらウエスタンの荒野を駆け抜けるカウボーイのように、歌と演奏はどんどん馬力を上げていく。閉塞感漂う夏から解放するまさに魂の叫びのようだ。この夏に足りなかったのはこの感覚だ。脳内で広がる夕暮れ時の大草原に集まるオーディエンスの情景、アリーナの前方で汗を飛ばしながら周りの人たちと歌っている情景。壮大なスケールで揺さぶるロックアンセムの到来に歓喜した。

勢いあまったオープニングを経て、重なるコーラスと哀愁漂うギターが心地よくなびく2曲目の「Blowback」はゆったり揺れるナンバーだが、音の広がりはスタジアムロックそのもの。続く「Dyling Bleed」はミニマルなリズムのループから始まり、後半で豪快なバンドサウンドへ切り替わる瞬間の気持ち良さがたまらない。

更に続く「Caution」も一緒に叫ばずにはいられないサビと歌えるぐらいにメロディの立ったシンセのリフに奮い立つ。バッキングのアコギの力強さも曲の味わい深さを引き立てている。

冒頭の4曲を怒涛の勢いで畳み掛けた後も、緩と急を行き来しながらサウンド面では伸びやかに遠くまで広がり行くスケール感が徹底されている。うねるベースラインとひねりの効いたシンセのアレンジがクセになる「Fire In Bone」でもドラムの重厚さとアコギの力強さは失われていない。

昨年リリースされたアルバムがインディーシーンに高い評価を得た女性ミュージシャン、ワイズ・ブラッドを迎えた「My God」では聖歌隊の如く神聖なコーラスと勇ましいビートの厚みに鳥肌が立つ。そしてカラフルな音色と軽快なリズムに心が踊る表題曲まで10曲で駆け抜ける潔さ。壮大なアンセムの連打に心を動かされ続けたとは思えないスッキリとした余韻がまた良い。

「Imploding The Mirage」というタイトルを直訳すると"蜃気楼の破裂"。ロックフェスに行けない夏という状況も相まって、まさに先行きの見えない時代の閉塞感を打ち破ってくれるスタジアムロックはとてもダイレクトに響いた。

今作をきっかけに色々なことを調べてみると、キラーズというバンドはどうやら日本でのビッグステージとの巡り合わせが良くないらしいが、この傑作を携えてそのイメージを払拭して欲しいと思う。個人的には山々の大自然よりは海辺のスタジアムの方が似合う気がする。大砂塵のようなロックアンセムを体感出来る日を心待ちにしている。

12/1〜12/25にかけて2020年のベストアルバムを毎日1枚ずつ発表していきます。


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