【AOTY2020アドベントカレンダー Day19】 GEZAN 「狂(KLUE)」
ベストアルバムに入れるべきか最も迷った1枚。聴いてどう感じたか容易く語れるような内容でもないし、聴くたびに自分が試されているような緊張感があったし、最初から最後まで通して聴く必要があったし、内容のタフさゆえにそこまで沢山再生したわけではないから。この作品をしっかり聴いた方なら分かって頂けるのではないだろうか。
それでも、多くの方がこの作品に触れて感じたのと同じように、2020年の1月、つまり新しい10年の始まりに世に放たれるべくして放たれた作品だと思う。色んな方の年間ベストを見ていると"この大混乱の1年を予期していたかのように〜"というような言葉をよく見かけるが、この1年どころじゃない、より長いスパンで起こりうる未来のディストピアを見据えている。たとえパンデミックが起きようが起きまいが、2020年のムードにハマるのは必然だったと思う。
BPM100というビートをキープしシームレスに繋がっていく楽曲。ダブ処理が施されたトライバルなビートの奥行きの深さ、低域の震え上がるような響きからはSFの終末感を感じ、目の前の景色や考えごとなどをシャットアウトするぐらい圧倒的なオーラで迫って来る。
曲の舞台は東京。川を挟んですぐ隣の千葉のベッドタウンに住む自分にとって馴染み深いはずだが、今年はここ数年で最も行く機会が少なく、今となって馴染みがあるのはニュースで見る感染者数ぐらい、、、というより、昨今の高層ビルの再開発のように無個性化していくネットの大衆、更にはその大衆の心を理解する気のない権力のメタファーとしても"東京"は描かれているようだ。
曲中に何度も登場するように、GEZANは今作を"レベルミュージック"と明確に言い放っているが、巨悪として映る"東京"に対して一方的に反抗しているだけではない。疑いや批判の目を向けながらも、それ無しでは生きていけない無力さが、うねるような叫びの根底には込められているのではないだろうか。ゆえに彼らは反旗を翻してこちらへ訴えかける。
一方で、彼らはこの音楽を聴いたリスナーが盲信的になり、連帯感が生まれることを何より恐れている。自身が集団を束ねる権力的な存在にすり替わってしまうからだ。だから、ここで歌われているの政治の歌ではない。思考停止の連帯から解き放つべく、1人ひとりに向けられた日々の生活の歌。
狂騒的なカオスの中で踊る。踊るというのは自分のビートで日々を乗りこなすことかもしれない。その過程で孤独("Lonely"ではなく"I")を取り戻す。その先で、ひとりとひとりが生身の体温と心を通わせる場所を取り戻す。この1年なんかで成し遂げられることではない。何年もかけてこの作品は問いかけを与え続けるだろう。
12/1〜12/25にかけて2020年のベストアルバムを毎日1枚ずつ発表していきます。