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2019年の邦楽ベストアルバム20選

※このnoteは私が執筆・編集した元記事(https://www.ysugarock.com/bestalbum2019)から大部分を抜粋し、note向けに再投稿したものです。


CDから配信・ストリーミングへ。音楽のリスニング環境が大きく変化した2010年代も間も無く終わりを迎える。

個人的にもほぼサブスクリプションにお世話になっていた1年。従来とは比べ物にならない膨大なライブラリーを獲得し、国内外ジャンル問わず多くの音楽に関心を持てるようになった。週単位で更新されていくプレイリストも聴く音楽を選ぶ判断基準として大きく機能した。

アーティスト側も単曲のリリースが多くなったり、短いスパンで曲数の少ないアルバムをリリースしたりと、リスニング環境の変化によって活動スタイルを変えるケースも多く見られた。


そんな中、フルアルバムを1枚通して聴くという体験は今まで以上に貴重なものになっている。サブスクがもたらした圧倒的な情報量とスピード感は、30~40分ほどの時間を取って1組のアーティストの楽曲を聴くことすらも困難にしているような気がする。

だからこそ、その貴重な時間を使うに値するアルバムに出会えた時の喜びも大きかった。


そんな訳で、ここでは2019年の個人的ベストアルバムを20枚セレクトし、ランキング形式で発表していく。先述した時代の変化という点も踏まえて、今回はミニアルバムやEPまで範囲を広げて選出した。是非とも順番に読み進めていって欲しい。

ベストアルバム2019


20. King Gnu「Sympa」

1月にリリースしたこのアルバムを皮切りに「今年の顔」として大躍進を遂げたのは言うまでもない。ポップミュージックを鳴らすことを"目的"としている彼らにとってこの1年は大成功の年になった。

だが、シンパを募り群れが大きくなった先でいつかKing Gnuは"手段"になると思う。今作は彼らの真の野望に至るほんの序章に過ぎない。

インタールードを駆使して1つの世界観を構築するスタイルは来月にリリースを控える次作「CEREMONY」にも継承されそうだ。「Sympa」以上に大ヒットしたシングル曲を携え、2020年代の先陣を切る彼らにより一層期待したい。

19. 佐藤千亜妃「PLANET」

先行していたEPやシングルを踏まえて、打ち込みやR&B感の強い作品になると思いきや、ノイジーなギターが炸裂するバンドサウンドも王道バラードも含めて様々な顔を持つ楽曲が並んだアルバム。

それは言うまでもなく、彼女の音楽のアウトプット先が1つになったから。1曲目を聴いて伝わってきたのは、これからソロアーティストとして生まれ変わるのではなく、バンドマンとしてのストーリーとDNAを受け継ぐ意志のようなものだった。

18. ONE OK ROCK「Eye of the Storm」

世界で勝負する覚悟が伝わってきた前作で見せた変化から更に大きく変化を見せた1枚。

日本からはみ出したロックバンドが世界の音楽シーンに馴染むための通過儀礼として、今作は型にはまる選択肢を選んだのだと個人的には思っている。

世界を股にかけて躍動する時間も体力も限られているからこそ、こうした作品に振り切った勇気ある決断を尊重したいし、それでいて前作を超える雄大なロックアルバムの誕生も心待ちにしている。

17. BUMP OF CHICKEN「aurora arc」

前作からの数年間にリリースした楽曲を集めただけになってもおかしくない所を、ストーリー性のある立派なコンセプトアルバムを作り上げた。

各所への多種多様なシングルやタイアップ楽曲にまさにアーチを架け、アルバムタイトルの名に既発曲が集約されていく。いざアルバムを聴くとこうなることが始めから決められていたかのよう。

短いスパンで単曲リリースが増えている今の時代において、こういうアルバムを作る力がこれからは求められる気がするし、2010年代のうちにそれを成し遂げたバンドは20年代も敵なしの活躍を見せてくれるだろう。

16. KIRINJI「cherish」

今年の邦楽の作品の中では群を抜く圧倒的なローサウンドの心地良さ。2曲目のベースラインは随一で、夜の深い時間帯なんかには特に沁み入ってくる。

前作に引き続きラッパーとのコラボや、言葉遊びのように見えて時代を風刺しているような詞も含めて、歌もサウンドもとにかく聴き甲斐のある1枚だ。

15. THE NOVEMBERS「ANGELS」

"世界のポピュラーミュージックのサウンドをどう取り入れるか"という問いに日本のロックバンドが取り組み、問いに対する各バンドなりの答えになるようなアルバムが今年は数多くリリースされた印象がある。

そして、その中でも最もハイレベルハイクオリティだなと感じたのがこのアルバム。

冒頭2曲で一気に飲み込まれる。荒々しさと妖艶さと暗さが混ざり合った従来のバンドらしい演奏に、打ち込みのローサウンドやトラップビートが違和感なく融合している。美しさとカオスが共存したまさにアーティスティックな作品。サブスクに復活する日を心待ちにしている。

14. 崎山蒼志「並む踊り」

アコギ1本で一体何人分のバンドサウンド鳴らしてるのかと驚愕していたのが今年の春頃の話で、弾き語り以外にも凄い曲作れるのかと更に驚愕したのが秋にリリースされた今作の話。

目玉は何と言っても、お互いの才能を認め合うゲストアーティストとの共作曲。若き才能と感性にただただひれ伏すばかりである。

13. 菅田将暉「LOVE」

アルバムを聴くきっかけになったのはこのインタビュー。アートや表現の在り方、消費のされ方に関してとても意識的でシビアな視線を向けているからこそ、様々なトップアーティストが共鳴するのだと思うし、菅田くんが表現活動の1つとして音楽を必要としていることも伝わってきた。

豪華アーティスト陣の提供曲に負けず劣らず、自身で作詞作曲した「ドラス」「あいつとその子」がとにかく良い曲。普段ドラマも映画もあんまり見ないので、このアルバム以降は同世代のロックンローラーとして彼を認識している。

12. 赤い公園「消えない - EP」

バンドの顔とも言えるボーカルの脱退&新加入から1年半、現体制になって初めてのフィジカル作品。生まれ変わったバンドが覗かせる自信と、それぞれの確かなバックグラウンドと、それらが合わさって水を得た魚のように躍動する瑞々しさが詰まっている5曲。

バンドを続けることを求め、歌とステージを求めた先に見つけた今。新しく生まれ変わったフレッシュさと、メンバーそれぞれの今までの蓄積が混ざり合って、これからも様々な化学反応を起こしていくだろう。

11. FIVE NEW OLD「Emulsfication」

初めて観たライブでガッチリ心を掴まれたボーカルの表現力は今作でもピカイチ。打ち込みや管楽器も駆使した楽曲は良い意味で邦楽離れしていて、休日の午前中なんかに聴くととにかく心地よい。

普段は混ざり合わないものが混ざり合っている状態を指す「乳化」を意味するアルバムタイトル。ポップパンクからキャリアをスタートさせたバンドがここまで幅広く境界のない音楽を奏で、海外での活動にも意欲的なのは期待せざるを得ない。「Emulsfication」をスローガンに、様々なジャンルの良さを活かしつつ、それらのボーダーを繋いでいって欲しい。

10. OKAMOTO'S「BOY」

10代は何も考えず遊んで勉強して、大人になって色んな人と夢を見てきた自分からすると、10年続けてきたバンドが改めて立ち返った「BOY」というタイトルの下に鳴らされる楽曲は何だか胸に刺さるものがあった。

憧れの誰かになりたい気持ちと、何者にもならなくていいという気持ちが交錯しながら過ごす日々を力強く支えてくれた、このご時世に愛と夢とロックに突き動かされるカッコ良さを詰め込んだアルバム。彼らが劇伴を務めた映画のエンディングソング「新世界」も泣けた。

9. Official髭男dism「Traveler」

世間的には今年のベストポップアルバム。それぞれの楽曲の馴染みやすさは流石だし、それでいてアルバム単位で聴くのが楽しい1枚。それ以上に、最後の曲で歌われているように、繰り返しの人生の記録の隣に、大事に持っていたい作品でもある。

リスナーそれぞれのらしさが滲んだ1点モノになっていって欲しい。個人的にも今まさにライフステージの変化の中にいるからこそ、この先の5年10年の繰り返しの中でこのアルバムの曲に色んな自分を投影していきたい。

8. My Hair is Bad「boys」

夏の青々しい情景、バッドエンドの雰囲気を醸し出す恋愛描写といった従来の得意技を俯瞰的に描いた楽曲がバンドの成熟を確かに感じさせる。曲の物語の当事者から遠ざかることで、作品としての物語性がグッと増しているのだ。

アルバム終盤の2曲には「役」という概念も登場する。つまり、限りなくバンド自身のことを歌った歌でありながら、楽曲の主人公は自由に置き換えても良いということ。

リスナーにとっても、一人ひとりに書き換えの効かない自分自身という「役」を全うしてもらうために鳴っていることに、今の彼らの優しさ、頼もしさ、懐の深さが感じられる。

7. the HIATUS「Our Secret Spot」

最低限の音数で最大限を引き出す、ミニマムだけど正確無比な演奏。各楽器が鳴ってる場所が確かに伝わる立体感のあるサウンド。このバンドらしい厳かな緊張感にも包まれている。

the HIATUSの音楽には薄暗い一面があるがゆえに居心地の良さを感じてきた。それは今も同じで、他のリスナーにとっても、当のバンドにとってもそうだと思う。

だが、今までの作品と比べると何だか軽やかというか、イヤホンの向こうにいるバンドメンバーがとても自然体で明るく演奏し、歌っているような気がする。

それは10年間続けてきたことで生まれたメンバー間の信頼関係ゆえ。ソロでもプロジェクトでもない、感情と体温を持つロックバンドになった。

6. BBHF「Mirror Mirror / Family」

打ち込みを駆使して1音1音がスタイリッシュでデジタルな雰囲気を纏った楽曲が並ぶ「Mirror Mirror」と、生楽器中心の構成で、スタイリッシュでありながら人と人とが有機的に繋がって伝わって届いていくような楽曲が連ねる「Family」

2作が対になる部分もあり、またそれぞれの良い所がブレンドされて形づくられているBBHFの音楽。ロックバンドとしての新しさと普遍の追求、1人でいる時の心地よさと悩み、誰かといる時のそれ、そして仲間と何かを成し遂げることに対する憧れを感じ取った作品だ。2枚セットでバンドの二面性と一貫性を堪能して欲しい。

5. the chef cooks me「Feeling」

現代的なトラックメイクに突き抜けていく開放感溢れる歌。耳から全身への馴染みがとても良い楽曲たち。1日の始まりによく聴いたアルバム。

1人になったバンドに多くの仲間のミュージシャンが参加。何人だろうと誰とでも自由に鳴らし合ったらバンドになることをこのアルバムで証明しているし、改めて自分がバンドという"1人ひとりの集合体"が好きなことを再確認した。

原曲の本人がゲストボーカルで参加したASIAN KUNG-FU GENERATION「踵で愛を打ち鳴らせ」のリメイクも素晴らしい。

4. UVERworld「UNSER」

時代の真ん中で鳴っているサウンドと骨太なバンドサウンド、そしてエモーショナルな日本語詞の歌の融合。

作品を重ねるごとに、いわゆる「ロックバンドの音楽」からどんどん刷新されていくが、それとは裏腹にバンドは今年のROCK IN JAPANのヘッドライナーに象徴されるように、然るべきステージに立ってロックを体現してきた。

UVERworldなりに日本のロックに接続した10年のアンサーとして相応しい、10年代の終わりの終わりに誕生した20年代の橋渡しになるアルバムだ。

3. NICO Touches the Walls「QUIZMASTER」

実験作的な2枚のEPを経てたどり着いたのはバンドサウンドの核心に迫るような楽曲たち。

人の数だけある”謎だらけな人生”を歌ったロックアルバム。制作している段階で既にこの作品でバンドを終わらせるつもりだっったのかも謎のままだ。

「18?」や「2nd SOUL?」を聴いて感じた。ロックバンドは答えをわかりやすく教えてくれる存在でも逃げ場的な存在でもなく、日々を生きていく上での問いを与えてくれる存在だということ。

一時代に輝いたロックバンドのDNAを少しでも受け継ぎ、彼らが残した「どうして夢を見るの?」という人生の大きな大きな命題に立ち向かっていく。

2. SEKAI NO OWARI「Eye」

世界デビューと並行して2作同時にリリースされたアルバムのうちの1つ。

ヒットナンバーがズラッと並んだ前作のファンタジーな世界観が転じて、ダークでミステリアスな空気が漂う作品。「Re:set」や「Witch」など攻撃的で内なる本心をえぐり出すような言葉が次々と飛んで来る。サウンド面もとてもシャープな楽曲が多い。

ポップスターとダークヒーローどちらを取ってもトップクラス。同時にリリースされたもう1枚の「Lip」は言わば"表向き"な楽曲が多く収録されていて、対となる2枚と言えないわけでもない。

かといって「Eye」の楽曲全てがダークサイド=悪というイメージでもない。それに、人が二面性を持ちながら日々を生きていくことは至極当然のことで、時々頭がおかしくなるのが普通の日常なのだ。リアルな世界と密接した普遍を歌った1枚。

1. サカナクション「834.194」

トレンドと普遍性、マジョリティとマイノリティ、広げることと深めること、その間に軸足を置いて、大衆と向き合い、時にはカウンターも打ってきたサカナクション。

長いスパンを経て出来たアルバムだからこそ浮かび上がってくるバンドの物語。マルチに活躍してきた6年間を総括するように「グッドバイ」や「新宝島」などのシングルで歌われたメッセージが今作で1本の線で繋がっている。作った時期の異なる楽曲をまとめ上げた2枚組のアルバムコンセプトも見事だった。

音楽の消費スピードも早い時代、アルバムに収まることで過去のシングル曲は普遍性を獲得することが出来るし、それだけ長い時間軸で音楽と関わる楽しみを教わった作品。新録曲もこれから長い時間をかけて深く味わえるものになっていくだろう。

総評 〜ベストアルバム2019を選んでみて〜

と言う訳で、今年もベストアルバムを選んでみた所、今までと比べていわゆるロック色の強い作品はかなり少なくなりました。個人的な好みが少し変わってきたのもあるけど、やっぱりリスニング環境の変化によって耳に入る音楽が変わったのも大きな理由かなと。

後は冒頭でも少し触れたように、作品性なり物語性があって"アルバムにする理由"がはっきりとあるアルバムを大きく評価したつもり。

アルバムのために曲を作るのではなく、まず曲があって後からアルバムのテーマが決まっていく方が健全だと思うし、一定期間のアーティスト活動を上手く作品にパッケージする力がこれからより一層求められるのではないかと。

今年のベストアルバムに選んだサカナクションや、SEKAI NO OWARI、BUMP OF CHICKENのアルバムのように、年代が幅広い収録曲を繋ぎ合わせるコンセプトがキマっていると個人的には良い作品だなと感じました。

次から次へとやってくる流行りの波に流されないように、アーティストの歩みを記録して楽曲に普遍性を持たせるためにも、アルバムはこれからも重要な役割を持つと思うし、アルバムの価値に気づき、アルバムからアーティスト魅力を引き出せるように、2020年代も音楽リスナーの立場から出来ることを続けていきます。



最後に、今回紹介したアルバムの楽曲を多くセレクトした2019年のマイベストをSpotifyのプレイリストにしたのでこちらも合わせてチェックして頂けると嬉しいです。

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