激動の04年間を経て、ロックバンドとファンが得た大きな「収穫」
今からちょうど4年前、2019年の2月21日。
当時自分が全国各地追いかけていたロックバンドのツアーファイナルがバンドの地元名古屋で開催された。
大好きな音楽と共に日本中を旅する。やりたいことの一つが叶った満足感と、この先音楽とどう向き合っていけば良いのか、楽しかった想い出もいつか記憶から消えてしまうんじゃないかという不安や寂しさが同時に押し寄せてきたのを覚えている。
地方まで足を運んでその場限りのライブを体験した先に待っていたのは、スマホの画面から世界中の音楽にいつでも気軽にアクセス出来る世の中だった。
2019年はストリーミングで海外のアーティストや様々ジャンルの音楽を聴くと同時に、フェスなどの現場では今まで応援してきた日本のロックバンドの成長した姿を目撃することが出来た。音楽を好きでいられる寿命が一気に伸びた気がしてとても充実した1年だったと思う。
当時自分が熱狂していたロックバンド、04 Limited Sazabysの3rdアルバム『SOIL』はバンドの結成10周年イヤーの2018年にリリースされ、バンドの一番のルーツであるメロディックパンクの養分が強い、ソリッドで攻撃的でそれでいてポップな作品だった。
そんなアルバムを引っ提げた全国ツアーを終えた後も、2019年は彼らがバンドとして初めて出演したフェスのヘッドライナーを飾り、9月には現時点でバンド最大規模となるさいたまスーパーアリーナでワンマンライブを開催。だが彼らは更なる人気やスケールを追い求めることはせず、あくまでライブハウスのヒーローという役割を全うしていた。
翌2020年も彼らのツアーや主催フェスを観に行く予定だったが、政府からの要請によって開催中止を余儀なくされた。様々なライブイベントの開催中止が一斉にアナウンスされる光景に、同日25歳の誕生日を迎えた自分は今後の先行きの見えない恐怖を感じたのを覚えている。
間もなくコロナ禍に突入し、ライブの現場が遠い存在となったことで、日本のロックバンドの音楽は自分の中で鳴りを潜め、より一層海外の音楽や未知のジャンルの音楽を求めるようになった。パンデミックという世界共通の敵が登場したことによって、音楽を通じて世界の社会情勢を理解しようとする機会が生まれたことに、個人的にはポジティブな感情を抱いていた。一方で日本のバンドシーンの当事者の1人でいながら、この窮地を救うための大したアクションが出来なかったことに対する後ろめたさも。
04 Limited Sazabysは2020年の4月の「YON FES 2020」をもって、GEN(Ba/Vo)とKOUHEI(Dr/Cho)のコンディション不良に伴い活動休止を発表する予定だったが、フェスが中止となったことで表向きに活休を発表することは無かった。この期間にライブのスケジュールを入れていなかった彼らはある意味運が良かったが、彼らを取り巻くシーン全体が致命的なダメージを受けて現在に至っている。2020年の年末、音楽シーン復活の狼煙を上げるべく開催を発表した「COUNTDOWN JAPAN」でメインステージでのカウントダウンアクトに決定していたが、こちらも開催直前に中止に追い込まれてしまった。
翌2021年、夏のオリンピックを中心にライブやイベント間でも足並みが揃わず、あらゆる場所で分断や対立が起こっていた。そんなオリンピックの直後にバンドは2年ぶりのフィジカル作品となるCDシングルをリリースしたが、当時の感染状況の中で行われた「メンバーが直接ファンに作品を届ける」という企画も含めて個人的には良いとは思えなかった。ファンとの信頼関係を強固にすることが、アーティストにとってこのご時世をサバイブするための最善策であることは頭で理解出来ても、それぞれの音楽が内輪に閉じるばかりの状況が続くことにモヤモヤしていた。
そんな中でも足を運んだシングルのリリースツアーは、自分が今まで一番足を運んだZepp Tokyoでの最後のライブだった。様々なドラマを生み出してくれた会場への名残惜しさや、自由が保障されていたはずのフロアに椅子が並べられた異様な光景や、先述したバンドへの違和感を抱えながら、愛憎入り混じる感情で久々のライブを見届けた。
彼らへの関心や愛着がフェードアウトしつつあった自分に引っ掛かったこのフレーズ。大切な何かを失いかけていないか。その問いに立ち返るのはその1年後だった。
2022年の10月、04 Limited Sazabys4年ぶり4枚目のアルバム『Harvest』がリリースされた。実りや収穫という意味を込めたアルバムタイトルは、前作の『SOIL』と2019年のシングル『SEED』の流れを汲んだもので、ファンにとっては既定路線のタイトルだし、音楽的に特別新しいことはやっていないし、個人的にはもっと変化やパンチが欲しいと思ったり、この数年間で荒れ果てた音楽シーンの土壌の上で『Harvest』を名乗るのはちょっと早いんじゃないかというイメージとのギャップもあったりで、リリース当初はあまりハマらなかったのが正直な感想。その一方で、4人の楽器だけで音を鳴らすロックバンドのストロングスタイルを変えずに貫くことの潔さを見習いたいとも思ったり。
アルバムを聴いただけでは彼らの想いを掴みきれなかったが、リリースに伴う全国ツアーが始まるタイミングでライブハウスキャパも100%で声出しが出来るガイドラインになったのが大きな追い風となった。ツアー初日に千葉LOOKという小さなライブハウスで目撃した、ふとしたタイミングで溢れ出るオーディエンスの抑えきれない衝動だったり、意図的に「出す」のではなく思わず「出てしまう」歓声だったり。そして久しぶりにロングツアーに出れる感慨深さを語るメンバーの、歳を重ねて丸みを帯びた表情を見て、この数年間で失いかけた大切な感覚と再会出来た気がした。
ライブの現場が本来の姿を取り戻しつつある中で、自分の20代を支えてくれたライブハウスのヒーローを求める気持ちも取り戻した。年末の「COUNTDOWN JAPAN」では2年越しにメインステージのカウントダウンアクトの大役を全う。ライブの現場が本来の姿に戻るまでのあと一歩の所に漕ぎ着いた2023年、その幕開けを彼らと共有出来たことはファンとしてとても誇らしく思えた。
年が明けてツアーはワンマンシリーズに突入。アルバムの新曲はもちろん演奏するが、それ以外の楽曲はほぼ日替わりかつ、フェスで演奏する定番曲を外したセットリストには、ライブハウスでの再会を待ち続けてきたバンドとファンとの信頼関係が体現されていた。
バンドが名古屋から東京に拠点を移し、大きなステージへと駆け上がる最中にリリースされた2016年の2ndアルバム『eureka』の楽曲は、環境やライフステージの変化に直面している今の自分自身の境遇とリンクしたし、全国各地まで追いかけていた時の『SOIL』の楽曲は、当時とは距離感は変われど彼らや音楽に対する想いが巡り巡って今も続いていることを胸に刻みつけてくれた。
ライブを重ねるに連れて『Harvest』の楽曲に対する印象も変わっていった。
前作に比べるとポップで丸みを帯びた楽曲とコロナ禍の心情が滲んだ歌詞には、同じ4年間を過ごしたバンドの等身大な姿が映っていた。
等身大でいること、それはここ最近の自分が見失っていたもう一つの大切な姿勢だった。
自分自身この4年間、公私ともに音楽と関わりながら、好きなものに囲まれる充実感と、これからもこの道を進んで良いのかという不安で後退りする日々を過ごしていた。歳を重ねる度に周囲と自分を比較することが増え、焦りから軸が揺らいでしまったり、悔しさから背伸びをして空回ったり、大した自信も無い弱気な自分を受け入れる余裕も無くなっていった。
この数年間は世の中に対する問いや答えを正しく示してくれるアーティストに魅力を感じていた。それは今も変わらないが、どうしても頭に心が追いつかない時や気持ちが落ちてしまった時に傷ついた精神を武装してくれるのが04 Limited Sazabysの音楽であり、彼らのライブは自分が近頃見失っていた等身大で身の丈の自分自身に立ち返らせてくれる空間だった。
決してリスナーの背中を押そうとせず、常に自らもがき迷いながら進んでいく背中を見せることで我々を引っ張ってきてくれた。ただネガティブな感情に寄り添うだけでなく、悔しさから心を奮い立たせてくれる存在だ。変わらないまま等身大で居続けることは現状に身を委ねるということではなく、実は変化することより難しくて、そして自らに対する強い自信の表れなのかもしれない。
ここまで書いてきたことを感じているのはきっと自分だけではないと思っている。SNSのタイムラインを眺めていると、4年前から繋がっている04 Limited Sazabysのファンの方のほとんどが今回のツアーに足を運んでいるように見受けられた。自分と同じく関わり方は変化したと思うけど、どこかのタイミングで現場での再会を望んでいたのではないだろうか。一方で、この4年間で新たに04 Limited Sazabysの音楽を日々の拠り所にしてきた人が身近にも増えた。再会ではなく、新たな出会いから生まれる強固な関係性も全国各地で築かれていったのではないだろうか。
4年ぶりのアルバムツアーのクライマックス、2/15のセミファイナルの日に彼らにとってのヒーローの訃報が飛び込んだ。突然の事態に茫然とする中、どうかこのツアーを乗り切って欲しいと東京から名古屋へ念を送った。翌2/16にファイナルを迎え、このご時世の中で全36本のライブをキャンセルや延期なく完走した。日本中のライブキッズの悲しみを背負ってツアーファイナルをやり遂げた彼らの表情を見て、自分ももらい泣きしてしまった。
音楽との関わり方が変化せざるを得なかったこの数年間を経て、ライブの現場での関係性を構築していくことは現在の音楽シーンにおいてより一層求められるのではないだろうか。どれだけストリーミングの再生数が伸びたとしても、実体を持った関係性が見えないことに頭を悩ませているアーティストは多いだろうし、ファンにとってもリアルな空間に集まる機会が求められているのではないかと思う。
04 Limited Sazabysは決してストリーミングや今のトレンドに強いアーティストではないと思うが、ファンにとって一番必要とされているタイミングで、彼らが一番輝ける距離感で、音楽シーンの未来を照らす一つの結果を残したのではないかと思う。
『Harvest』という作品自体を客観的に良いと言えるかどうかは分からないが、アルバムツアーの期間は自分自身の音楽との向き合い方を見つめ直す最高の収穫のタイミングだった。これからも愛憎入り混じる関係性で、適度な距離感で、だけど人生のターニングポイントでは必ず助けられる存在でいてくれるんじゃないかなと。
04年経ってもヒーローはヒーローのままだった。またしばらく音楽を好きでいられる寿命が伸びた気がする。