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【AOTY2020アドベントカレンダー Day23】 米津玄師 「STRAY SHEEP」

2020年のトップチャートを見ていると、ストリーミング発のヒットというのが分かりやすく上位に並んでいた昨年までとはまた違う様子がうかがえる。曲名もアーティスト名も至るところで見かけたが、どこで流行ってどんな人が聴いていてどんな部分に魅力を感じているのか、その理解に追いつけなくなりつつある。

一方で、2020年で最もヒットしたアルバムが米津玄師の「STREY SHEEP」だったのは、人気面実力面ともに踏まえて納得しかなかった。

古いもので「Flamingo/TEENAGE RIOT」以降の大ヒットシングルがズラッと名を連ねる上に、世代を超えて愛された親しみやすさから和の情緒とノスタルジー漂う大人のベースミュージックへ生まれ変わった「パプリカ」や、壮大さは失わずにデジタルクワイアを駆使したクールな質感に仕上がった「まちがいさがし」など、提供したヒットソングのセルフカバーも一級品。新録曲も含めて、前作以上に時代と世界と近づいた音楽性の豊さだけでも2020年を感じられる1枚だが、これだけ幅広い層に支持される理由として、やはり彼の歌と言葉の表現力は欠かせない要素だと思う。


まずはオープニングトラックの「カンパネルラ」などに見られる"美しさと醜さの表裏一体"

煌びやかな音色とサブベースの低域が相反するように、誰かの犠牲やそれに伴う罪悪感を抱えて生きていくことへの赦しを歌った楽曲。傷をつけるほどに宝石のような輝きを増すのは、逆境の時代であるほど求められるアートの宿命なのかもしれない。シングル曲の「馬と鹿」では深く刻まれた傷に歯を食いしばった先に広がる大きな愛を描いている。続く「優しい人」では"酷い目に遭うのが自分じゃなくて良かった"と、傍観者の視点で優しくなれない心の醜さを歌っている。シリアスなテーマと向き合って生まれたのは醜さとは対照的な美しいメロディ。この欠落感こそ嘘ひとつないありのままの姿であると言わんばかりに、繊細かつ生々しい心の声が響く。

また、美しさの裏に人間の傷跡が刻まれている楽曲に加えてこの作品に流れているのは"死生観"

生と死の表裏一体をレモンの瑞々しさと苦さに象徴させたこの楽曲がアルバムの8曲目、ちょうどど真ん中に位置している存在感もとても大きい。

そしてオートチューンされた歌声にオーケストラとサブベースが合わさり大波のように飲み込む「海の幽霊」がアルバム終盤でこちらも圧倒的な存在感を放つ。国内では唯一無二と言っていい臨場感と迫力のあるサウンドに加え、砂浜を舞台に現世と彼岸を描いた詞がとても儚く美しい。もう1年半ほど前の楽曲だがいつ聴いても鳥肌が立つ。

まさに突然の大波に飲まれたように、この1年で人々や街の姿は変わってしまった。だからこそ人間の醜さや傷、そして生死を描い続けてきた米津玄師の近年の楽曲は2020年に聴かれるべきだったし、単に人気だからという理由ではないもっと深い部分で彼の音楽が求められていたのではないかと思う。

アルバムの最後を締めくくる「カナリヤ」は実際にコロナ禍を踏まえた上で作られた数少ない楽曲。迷える時代だからこそ、大切な人を繋ぎ止めるだけでなく変化を肯定し合うこと、すれ違いや傷をつけ合いながらも愛を深めていくことの尊さを歌っている。

"炭鉱のカナリヤ"という言葉があるように、そのさえずりには身を犠牲にして周囲に危険を知らせる役割がある。この禍中において音楽をはじめとしたアート・エンタメカルチャーは真っ先に犠牲を被ったが、アートには時代の変化を映す役割がある。その信念のもとに希望も絶望も詰め込んだ1枚だと感じた。迷える時代のサウンドトラックとして、混沌の中でこそ力強く存在感を放ち続ける。


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