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King Gnu 「CEREMONY」に感じた、大衆を巻き込む覚悟と激動を戦った傷跡

この1週間はこの話で持ち切りだった。King Gnuの3rdアルバム「CEREMONY」のことだ。

結局発売初週に20万枚を越えるセールスを記録。前作からちょうど1年でここまで大きな存在になるとは正直思っていなかった。


ただ、バンドが掲げる大きな野望に至るまでの1つ大きなステップを踏んだに過ぎないし、こういうヒットソングばかりの作品を次作るとは到底思えない。

大衆を巻き込む覚悟と、激動を戦った傷跡を2019年のドキュメントとして刻んだアルバム。そして彼らの次なる一手がますます楽しみになるアルバムだ。


2019年の祝福と2020年代開幕のセレモニー


2020年代、新しい10年の幕開けに相応しい。というよりはその序章となった2019年のバンドの活動を総括するような内容。どちらにせよ時代の繋ぎ目に今後も確かな存在感を残すアルバムだと思う。


バンドにとっては振り返る間もない壮絶な1年だっただろう。

こちらを予想を遥かに上回るスピードでヒットを飛ばし、外からKing Gnuの音楽が求められるようになり、その要求に応えることで一気にビッグなバンドに成長した。


それに応じて楽曲のスケールも鳴ってる会場のイメージもデッカくなった。夏フェスシーズンに先行リリースされた「飛行艇」はその最たる曲だと思う。

過去を祝え
明日を担え
命揺らせ
命揺らせ

- King Gnu「飛行艇」


「CEREMONY」という今のバンドのスケールに相応しいアルバムタイトルからは、まず第一に多くの人と出会い、期待に応え続けた2019年のKing Gnuを我々リスナーが祝福しているような印象を受ける。アルバムジャケットもそんなイメージを想起させる。

だから、このアルバムで新しい景色を見せるというより、大衆を惹きつけるバンドとして一気に大きくなったこの1年間のドキュメントのような作品になった。ただ、ここまでポップでロックで日本的なアルバムになるとは思わなかったが。


シーンに開けた風穴は自らの傷口でもあった


King Gnuは多くの人から求められること、世間に幅広く浸透する楽曲を作ることを前提としてスタートした。つまりはポップスを鳴らすということに強い意識を持っているバンドだ。

2019年はKing Gnuの音楽がまさにポップスとして大きく知れ渡る1年となった。世間からその役割を引き受けた結果として、アルバム収録曲はヒットナンバーにタイアップソングが満載。


今作で初めて音源化された楽曲からは新しさは勿論、これまでリリースされ、幅広い層に受け入れられた楽曲から受け継がれたKing Gnuらしさも備わっている。


ただ、その「らしさ」と「新しさ」のバランスを保つのはとても難しい。今作で自ら打ち立てた高いハードルをこの先の活動で超えていかなければ、すぐに消費し尽くされてしまう。

そのことは誰よりもメンバーが意識しているはずだし、現時点においても限られた時間の中でアートとワークを両立させる葛藤が垣間見える。


アルバムのジャケットに描かれた大勢の群衆に対して、中央にいる黄金の冠の人物はただ1人、"2020"と刻まれた小さな壇上に立っている。

それはアルバムの実質的なオープニングナンバー「どろん」の1番最初の歌詞とリンクする。

いつだって期限付きなんだ
どこまでも蚊帳の外なんだ

- King Gnu「どろん」

確かな手応えと充実感を得た裏側で抱えている、怒涛の2019年を乗り越えた彼らの率直な心境なのだろうか。



世界の音楽シーンを見渡すと、今はカウンターがポップスになる時代。この国においてもそのような時代を到来させるべく登場したのが言うまでもなくKing Gnuなのだと思う。

ちょうど1年前のメジャー進出に際して、東京を"眠れる街(=Slumberland)"と捉え、人々、テレビ、メディアに対して批評的な態度を向け、新しい時代に向けて現状から叩き起こそうという意気揚々とした姿を我々は忘れていない。

"蚊帳の外"のバンドだからこそ、彼らがメジャーで戦う姿勢はこの1年で多くの味方や賛同者を生み、共有できることも増えた。

J-POPファンも味方につけたい。っていうか味方につけないとデカくなんないし。(中略)ここでKing Gnuみたいな方面でデカくなる必要がある。だし、こういうタイプのアーティストになれるヤツって俺は少ないと思うから、だからこそ自分がやらなきゃいけないと思うし。やっぱりフックアップしたいアーティストとか、見せ方がわかってないやつも仲間内にいっぱいいるんで、そういう意味で、業界全体を変えたいっていうのは根本として圧倒的にある。

- MUSICA 2019年2月号より


自分たちがカッコ良いと思う音楽やアートを牽引するために、大きな渦を巻き起こしながら、自らもその渦に飲み込まれていった。

新しい時代を作る切り口に、そして傷口にもなる覚悟も前作のラストナンバー「The hole」で歌った。

定型化・画一化・旧態依然。音楽表現の自由度やリスニング環境が大きく変化した2010年代において、何かとネガティブなイメージがついて回った日本の音楽シーン。この1年間、King Gnuはそこに確かに風穴を開けて爪痕を残したと思う。


ただ一方で、目論見が叶っていくと同時に変化のスピードに身を削られたのも確かだろう。今作は彼らのそういった"裏側"のドキュメントでもある。

ここはどこ、私は誰
継ぎ接ぎだらけの記憶の影
煌めく宴とは無関係な
日常へ吸い込まれ、おやすみ

- King Gnu「どろん」
ハイになったふりしたって
心模様は土砂降りだよ

- King Gnu「傘」


前作で歌ったように、彼らはまさに身をもって"傷口"になっている。多くの人に音楽を伝える機会を掴んだ一方で、時間に縛られることのストレス、クオリティ、クリエイティビティのバランスを保つのに必死だっただろう。


今作の実質的なラストナンバー「壇上」では、ステージやTVショーで見た輝かしく強気な光景とは真逆にある、悲痛なまでに満身創痍なバンドの姿がくっきり浮き彫りになっている。


何も知らなかった自分を
羨ましく思うかい?
君を失望させてまで
欲しがったのは何故
何もかもを手に入れた
つもりでいたけど
もう十分でしょう
もう終わりにしよう

- King Gnu「壇上」


バンドの首謀者である常田大希が1人でピアノを弾き語る。インスト曲を除いて唯一タイアップがついてないことからも、今作の中で明らかに異質かつ重要な1曲だ。


ここで歌われている君とは、常田さん自身であり、他のメンバーであり、つまりKing Gnuのことのように思う。

この1年のバンドの変化を客観視しているようで、自分自身でここまで大きくしたバンドに対して語りかけているようだ。


先述の通り、彼らにはメジャーでヒットしなければいけない理由があった。ハードスケジュールの中で、ストリーミングという時代の産物を除けば、CMソングやドラマ主題歌、ロックフェスといった王道に乗って一先ず目的を果たした。

そして、その目論見を叶えた先の2020年の始まりにこのような作品を打ち立てる必要があった。


激動の1年を経て大きなステージに立つまでの過程においても、いざ現実になった今も「これで良かった」と「これで良いのか」のせめぎ合いが終始繰り広げられていたはず。

だからこそ、壇上から今まで以上に広がった地平を見渡して、歪で不安定な心象風景を描く必要があったのだ。


振り回される今も肯定し、健全なサイクルを取り戻す

今のこのサイクルは健全じゃないし、すり減るし、音楽が消費されることに関与している感じがすごくあったんです。やっぱり、2019年が始まった時点で1年後にはアリーナを回らなきゃいけないのが決まっていて、なんとしてもそこにつなげなきゃいけないという1年だった。それはレコード会社にやらされた話じゃなく、自分たちで選んでそうしようと思ったんですけど。それを経て、健全なサイクルに戻したいというか、もう1回音楽と向き合うスタンスを取り戻したい。その思いは4人共通で、2020年はもう一度“King Gnuのポップス”を考え直す年になるのかなって思います。

- 音楽ナタリー(https://natalie.mu/music/pp/kinggnu05)より

結局のところ、ここまで長々と書いてきたことと、自分が「CEREMONY」を聴いて感じたのは、ここで話している常田さんの言葉に集約されている。


ヒットナンバーがズラリと並んだ豪華な楽曲たちとは裏腹に、作品としてはとても不安定で歪な形をしているアルバムだと思う。


メジャー、タイアップ、紅白と王道に法って大きな存在になった2020年1月現在のKing Gnu。春の全国ツアーを経た後にはこの1年ほどの反動、揺り戻し、立ち位置の再確認をする期間がやって来るだろう。


King Gnuに先立って2010年代に紅白に出演したロックバンドがそうであったように、お茶の間、表舞台から一旦ドロップアウト、或いは潜伏期間に入るかもしれない。


まだまだほんの序章、開会式に過ぎない。求められている音楽を作って期待以上の結果を出すこと、求められているか分からない音楽で見たこともない景色を見せること、大衆的=ポップなままでより先鋭的でアートでロックな存在になること。そんな矛盾を両立していくことこそが彼らの真の野望なのだから。


側から見たら大成功に見えるけど、アーティストサイドとしては健全なサイクルではなかった1年。この1年が正しかったのか否かはこれからのバンドの活動が証明する。激動の期間を糧に、地続きの今とこの先を進んでいくのだ。


真っ新に生まれ変わって
人生一から始めようが
へばりついて離れない
地続きな今を歩いて行くんだ

- King Gnu「白日」


最後にこのアルバムの魅力をもう1つ。


それは、2年以上前からライブで演奏し続けて来た「Teenager Forever」がリードトラックとして大々的にフィーチャーされていていること。

この青臭さ、人間臭さが昔からバンドの核として存在していることを今のタイミングでしっかり提示するのがとても良い。ピシッとキマり過ぎた楽曲群にしっかり血を巡らせている。

散々振り回して、振り回されて
大事なのはあなただってことに
気づけないままで

一体未来は
どうなるのかなんて事より
めくるめく今という煌めきに
気づけたらいいんだ

- King Gnu「Teenager Forever」

地上波での生演奏も大きな反響を呼んだ。「壇上」で赤裸々に綴った、振り回されて身を削った今も肯定して、労って再び奮い立たせるようなパフォーマンスは素晴らしかった。


ロックバンドらしい人間臭さと野心こそ、多くの人を引き込む求心力。ユースカルチャーを引っ張るヒーローであって欲しいし、もっと大きなスケールを巻き込むロックスターになって欲しい。


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