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【AOTY2020アドベントカレンダー Day12】 Soccer Mommy 「color theory」

再生ボタンを押すと聴こえてくるのは2本のギターを軸にしたローファイなサウンド、そしてひんやりとした透明感のある歌声。まさに血液の循環のようにゆっくりと全身を巡っていきとても心地が良い。しかし、実際に流れているのは今年23歳を迎えた女性SSWのブルーな感情と過去の自傷行為の経験だ。

スネイル・メイル、ステラ・ドネリー等、インディーロック系のサウンドの女性SSWがここ数年国内で人気を集めているが、今年の2月に2ndアルバム「color theory」をリリースしたサッカー・マミーもその1人。先に載せた「bloodstream」の8ビットで描かれたミュージックビデオや、ゲームソフト風のジャケットからも分かるように、サウンド面においては90年代へのノスタルジーを基調としていいる。先行シングル「circle the drain」の冒頭のギターリフもノスタルジーこの上ない。

シンプルな弾き語りやバンドサウンドということは無く、ギターは時に層の重なりを成し、ビートは時に水中から聴こえてくるように響く。奥行きのあるサウンドプロダクションはとても2020年的だ。歪んだギターノイズを効果的に用い、ドリームポップやアンビエントの要素も取り入れながら繊細な音色を聴かせていく。

タイトルにもなっているように"色"もこのアルバムの大きなテーマ。ギターの音色が川の清流のように滑らかな4曲目の「Night Swiming」までが"青"をテーマにした楽曲。先述の通り悲しみを纏ったブルーといった感じで、物憂げな歌声がじんわりと広がっていく。リズミカルなビートと煌びやかなアルペジオが響く「crawling in my skin」からは"黄色"をテーマにした楽曲が続く。

軽快な曲調からは黄色が持つポジティブなイメージを感じるが、実際には精神的な閉塞感から解放して欲しいと願う切望の光。彼女にとって黄色は病的なイメージを表している。7分を超えるの大作「yellow is the color of her eyes」はその象徴で、揺らめくサイケデリックなギターノイズに末期がんと闘う母親とそれを見守る彼女の心情が込められている。

終盤に連れてアルバムの色彩は喪失感の"グレー"へと変化。ダウナーな弾き語りに、煙のように立ち込めるシンセの不協和音、最後の2曲「Stain」と「gray light」でようやくサウンドの雰囲気と詞の内容がマッチしてくる。最後まで聴いて分かるのは、過去を遡るノスタルジーの深さと心で渦巻く葛藤の深さがサウンド面の深化と共振していること。アンビバレントな感情を抱きつつ、この1年を通してUSインディーの平熱感のある音色に魅力を感じるきっかけの1枚となった。

12/1〜12/25にかけて2020年のベストアルバムを毎日1枚ずつ発表していきます。



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