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【AOTY2020アドベントカレンダー Day1】 yonige 「健全な社会」

牛丸ありさが描く"平熱感"は作品を重ねる度にみるみると進化。出会った頃はアボカドを投げつけたりして切れ味鋭い恋愛ソングで注目を集めていたのが遠い過去のように感じる。歌詞に個人的な事情をつづることは無くなり、ぼんやりと流れ行く日々のグレーな情景を文学的な筆致で描く。アルバム通して一貫している少し重たくて気怠げな歌とサウンドは、外に遊びに行けない日々に心地よく染み渡った。

今作ではyonigeのルーツとも言える2人のミュージシャンがプロデューサーとして参加。元チャットモンチーの福岡晃子がプロデュースした「往生際」「あかるいみらい」では変拍子を使ったオルタナティブなアンサンブルで魅せ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのゴッチが手掛けた「11月24日」「健全な朝」では立体的な音の広がりで膨よかなインディロックを鳴らしている。

屈強なライブハウスバンドが集うインディーレーベルからデビューし、その後メジャーへ進出、全国各地の大型ロックフェスへと活動の規模を広げ、昨年8月には日本武道館での単独公演も成功させた彼女達。

こう書くと、フェスティバルが幅広い層に浸透した2010年代におけるロックバンドの王道を進んできたように思える。実際にインディーズ時代からメジャーデビューにかけての時期は「王道に売れたい」と思っていたそうだが、そのためにキャッチーな恋愛ソングを作り続ければ作品の消費サイクルを早めることになり、何より自身の心をすり減らし続けることになると徐々に感じるようになっていた。

2人とも今年で20代後半に差し掛かり、生き急ぐよりも息を長く活動をしたいと思うようになったという。自分も同世代としてその気持ちはとてもよく分かる。エモーショナルな熱気が飛び交うロックシーンの渦から外れることでyonigeなりの「健全な社会」を求めたのではないか。


何気ない日々のことも、良いと思った曲のことも、少しずつ記憶が薄れていくのは避けられない。それでも簡単には消費されず、かつ己の心を消耗しないようなアーティスト活動へこの先向かっていくのだろう。アルバム最後の曲「ピオニー」の2分弱におよぶアウトロのように、緩やかな幸せがだらーっと続くような情景と心模様をこれからも愛し続けて欲しい。


12/1〜12/25にかけて2020年のベストアルバムを毎日1枚ずつ発表していきます。


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