【AOTY2020アドベントカレンダー Day13】 藤井風 「HELP EVER HURT NEVER」
初めてその名を見たのは2019年のGW辺りだったはず。名前の感じからしてボカロとかネットカルチャー発の今時のシンガーソングライターかなと。ロックフェスに呼ばれてるぐらいだし音楽性もそういう系かな〜と勝手に思い、特にそこから踏み込むことはなかった。年が明けて2020年、Spotifyの「Early Noise」等、ネクストブレイクとして彼の名前を再び見ることになる。「何なんw」とか「もうええわ」とか、目を引くタイトルからして業界の大人たちによる猛プッシュを感じ、それが気に障りここでも特に踏み込むことはなかった。
と、変に斜に構えて調子に乗っていたことを本当に反省しております、、、
ピアノの音色にAORやR&Bの懐かしさと新しさが共存するテイスト、そして生まれ育った岡山の訛りが絡んで絡んでどういうこっちゃと。日本の原風景から吹く風の便りのようで、全く新しい未来の発明品でもある。
ということで藤井風さん、この1年色んな所で語り尽くされた素晴らしいアーティストです。個人的にアルバムの好きな所をいくつか挙げていくと、まず「優しさ」の"Ahhhhhh〜"に脳みそを溶かされた後「キリがないから」でバキバキなビートとSF的な世界観に切り替わる所。
その後「罪の香り」で往年の昭和歌謡的なムンムンの色気を放つ流れも含めてバックトゥザフューチャー感がハンパない。さらに、激情的な詞をスペシャル渋ダンディズムな歌声で聴かせる「調子のっちゃって」の後に「特にない」なんて無欲の境地を歌われてもこちとら困ってしまうわ。藤井風さんの代名詞はネイティブな岡山弁じゃろ〜と思って聴いてたら突然の流暢な英語に完全にノックアウト。
後半に向かうに連れて深まっていく彼の達観した価値観、とても自分の3コ下とは思えない。曲調もシリアスなタッチで詞も内省的な内容が多いに関わらず、聴いていると心はどんどん軽やかに解放に向かっていく。
その極め付けがアルバムを締め括る「帰ろう」の頬を撫でるような歌声とノスタルジックな旋律。実体を持たないはずの音楽に抱擁され、心の重荷が浄化される。アルバムタイトルに込められた"常に助け決して傷つけない"というメッセージに偽りはない。
そんでもって、このデビュー作のお披露目ライブがいきなし武道館。リアルタイム配信で観たのだけど、パフォーマンスもMCも自然体過ぎて向かうところ敵なし状態。そこで披露された新曲2曲も彼の魅力が振り切れてて最高だった。このまま何にも染まらず、心の原風景への帰り道を自由になびいていって欲しい。
12/1〜12/25にかけて2020年のベストアルバムを毎日1枚ずつ発表していきます。